√トゥルース -008 刺激的な起床時間!?
「なん……だ? これは……」
翌朝、トゥルースが目を覚ますと体が妙に重く感じ、その体を動かそうとするが動けない……いや、動かない……
不意に何か良い匂いが鼻腔を擽るので開けた視線を左に移すと見慣れた銀色の髪が目に入る。珍しくお寝坊なシャイニーだ。トゥルースの腕を枕代わりに頭を肩辺りに埋めるだけに止まらず、足をトゥルースの左足に絡めてまだまだ軽いその身体をトゥルースに半分乗っかるようにくっついていた。いつもの寝る時のままの姿だが、日が登りかけていて明るいので、何だか艶かしく見える。最初の頃はガリガリに痩せ細っていて骨が当たり痛かく感じたシャイニーだったが、いつの間にか丸みを帯びて柔らかな感触となっていた。
だが、それだけでは体が全く動かない理由にはならない。視線を右に移すと今度は甘い香りがふわっと漂ってきた。そして視界に入るのは見覚えのある金糸のようなサラサラとした細く長い髪。顔は見えないがティナに間違いない。やはり足をトゥルースの右足に絡ませてトゥルースにその健康的で柔らかな胸を押し付ける様に寄りかかっていた。すうすうと胸元に息が掛かって少しこそばゆく感じるその光景に、数日前の暴力的とも言える艶やかで男の野生本能を刺激した一糸纏わぬ美しい肢体を抱えた事を思い出したトゥルースは、起きようと活性しだした心臓の動きと相まって身体の一部が一気に元気になり、小さな天幕を張ってしまった。
いや、張り掛けた天幕が何者かによって阻害され、行き場を失ったポークビッ……もといシャウエッセ●が折れてしまいそうな刺激が走る。手足が自由にならず、その位置を修正できないトゥルースは、頭を持ち上げて視線を妙な重さを感じる下腹部に向ける。そこには丁度射し込んだ朝日の光で燃えるような赤毛に輝く頭が見え、その人物の柔らかな頬をシャウエ●センが押し返そうともがいていた。絡め取られたトゥルースの両足の合間に嵌まり込んで股間を枕代わりにしていたのはフェマだった。絵面的に大問題である。いくら本当の歳が百七十を越えていようと、その姿はまだ五歳児程なのである、非常に拙い。何よりこの状態で身動きが取れないのがイケナイ。
ぶわっと嫌な汗が顔に溢れ出した頃、隣の空いている筈の寝具の中でモゾモゾと動く物が……それに気付いたトゥルースがティナ越しにそちらへ視線を移すと、中から顔だけがひょこっと出てきた。白猫のミーア……の呪いが解け、トゥルースたちと同年代と思われる女の子の姿だった。寝具の中でだけ呪いが解けるので寝具から出てしまえばまた白猫の姿に戻ってしまうのだが、時々こうしてトゥルースにだけ姿を見せていた。が、その姿は寝具で隠されて見えないものの、何も身に纏ってはおらず寝具の中では裸であった。
「……中々欲情的な光景ね。あたしもその中に行こうと思ったけど、流石にその中に入ればバレちゃうからね」
「助けて欲しい所なんだけど、ミーアが来たらもっととんでもない事になりそうだな」
「ふふふ、試してみる? な~んてね。責任取ってくれるなら助けてやらないでもないけど、あんたその三人をどうするつもりなの? 三人とも娶るつもり?」
「娶っ!? ちょっ! 何でそうなるのさ!」
「何言ってんの? シャイニーとは何か約束みたいなのしてたじゃない。ティナは不可抗力とは言え裸をジロジロと見て触って……フェマはあの厄介な呪いをどうにかしてあげようとしてるんでしょ? もう三人とも一生面倒を見るつもりなんじゃないの? ……って、ヤバ。起きそうね」
そう一方的に言ったミーアは、寝具から出て猫の姿へと戻ると朝日を浴びながら毛づくろいを始めた。
確かにトゥルースはシャイニーに旅の伴侶として一緒にいて欲しいと言ったが、捉え方を間違えれば人生の伴侶として、と誤解されかねない言い方であった。もしかしたら既に手遅れかも知れないが。それにシャイニーには顔の火傷のような痕の呪いがある。それをどうにかしてやりたいが、そうするにはある問題があって未だに試す事すらしていなかった。
また、ティナには気の毒な事をしてっしまったと自覚はしている。自分たちと同じ成人したばかりの十五歳。ミーアの言う通り不可抗力とは言え、嫁入り前の大事な生娘の身体を見ず知らずの男に余すことなく観られてしまったのだ。本人が言うように何かしらの責任を取る必要があるとはトゥルースも感じてはいたが、その責任の取り方はどう考えても一つしか思い浮かばない。
そしてフェマ。徐々に若返るという呪いでとんでもない年月を過ごしてきたフェマがこの先も若返っていったら……それは自我も失いやがて赤子となり消滅してしまうかも知れない。その呪いを止める可能性のあるトゥルースとしては何としてでもフェマの呪いは解いてあげたいところだが、闇雲に解けば既に永い時を過ごしてきたフェマの身体がどう変化するか分かったものではない。呪いを解いた時点でその命どころか体も失ってしまうかも知れないのだ。どう考えてもフェマと離れる訳にはいかないとトゥルースは考えていた。
そんな葛藤をする間もなく、んんっ! と覚醒しようとする声が聞こえてきた。
「ん? 何じゃ? この固いモノは……ああ、これは坊の……仕方ない奴じゃのう。じゃが、いくら何でもあかんぞ? わしのこの身体では壊れてしまうからの?」
半分寝ぼけてその小さな天幕から顔を離し、小さく柔らかな手でズボン越しのシャウエッ●ンを優しく撫でるフェマ。
「ちょっ! 待て待て! 触るな、フェマ! そんな触っちゃ……くぅ!!」
「……ん。ん? あ、ルー君、おはよ。寝過ごしちゃった…… あれ? どうかしたの? 顔が赤いような……」
「うん…… ん? あら、あなた様。お早いですね…… どうされたのです? ……あら、なんだか知らない香りが……」
「済まんかった、坊よ。そうしょげるでない」
「はぁ……もう良いよ、フェマ。出来れば早く忘れて欲しいんだけど……」
「本当に病気とかじゃないの? ルー君」
「ちゃんとお医者様に見て貰った方が……」
「いや、二人ともそんなに気にしなくて良いから。本当に気にしないで。お願いだから気にしないで!」
「わしからも頼む。これは呆けておったわしが悪いし、坊にとっては沽券に係わる事なのじゃ」
強く言われたシャイニーとティナは顔を見合わせた後、心配ないのならばと引き下がった。
「で? 何でみんな俺にくっついて寝てたんだよ。シャイニーは毎日の事だから分かるとして」
「う……それは……シャイニー様が気持ち良さそうに寝ているのを見てたら、つい……」
「わしは……一人ではちょっと肌寒くてのぅ。既に両脇を取られておったから、納まりの良いところを探したらあそこになったのじゃ。結果、ああなってしもうて……済まなんだの」
「だから、もう良いって。はぁ、こんなに広い部屋なのに、みんな一所に固まって寝るなんて……」
全くの想定外の出来事に、やはり部屋をふたつにしようかと提案するトゥルースだったが、他の三人にしてみたら自分たちが穀潰しな立場なのだ、お金が勿体無いと反対意見で纏まってしまった。特に今までトゥルースの隣を死守していたシャイニーにとって離ればなれになる事は絶対許されない事だった。
「……なぁ、ニー。ティナにくっついて寝るのは?」
「天幕の中でそうしてたんだけど、何か違うの。ルー君はルー君、ティナさんはティナさん、だよ」
よく分からないが却下らしい。
「……なぁ、ティナ。ニーにくっついて寝るのは?」
「今朝感じたのですが、あなた様の横で目覚めるのも中々良いものだと……出来ればわたくしも続けたいと……」
よく分からないが却下らしい。
「フェマ、お願いだから同じような事は……」
「善処しよう……が、中々収まりが良かったからのう……約束は出来んな」
「た、頼むよ! フェマぁぁぁぁ」
この後、フェマ先生による保健の授業が女性陣だけで行われる事になった。内容は勿論、男の生理現象についてだ。終わった後、真っ赤な顔のシャイニーとティナがトゥルースの目を見なかったのは、トゥルースにとっては悲しい出来事だった。