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√真実 -006 正体不明な主は

 


「失礼だが、お嬢さんはどちら様で?」

「え? あの、その……」


 玄関先から男の声が聞こえてきた。え? と顔を見合わせる一同。普通なら玄関を開けた光輝がどちら様ですか? と声を掛ける筈なのだが……


「この声は……もしかして!」


 真実は慌てて手に付いた材料を拭おうとするが、纏わりついたそれを丁寧にキッチンペーパーで拭い洗剤で綺麗に洗っている内に、光輝が心配になった智樹たちが玄関へと向かう。


「うん? 君たちは一体……ここは飛弾の家で間違いない……よな?」

「あ、そうです。飛弾の家で間違いないですけど…… あの、どちら様ですか?」


 首を捻る親たちと同年代っぽい男に代表して智樹が質問で返すが、お互いが首を捻るばかりだ。それもその筈、智樹たちが出入りするようになってからこの家に大人が出入りした所を見たのは真実の母のみであり、対してその男は……


「と、父さん!」


 この家の主、真実の父、総司(そうじ)であった。




「悪かったね。てっきりこの家が悪ガキどもの巣窟になった……ようにも思えないし、どういう事だ? とね」

「いえ、こちらがお邪魔させて貰っている方なのに、疑うような目で見てしまって……」


 この中で最も大人に慣れていそうな智樹が総司の向かいに座り、その横に祐二と華子が。総司の横には真実と光輝が座って話す。


「それにしても真実が友達を招いて勉強会を、か。今までそんな事があったか?」

「……今年が初めてだよ、父さん」

「それにしては男の子だけでなく、女の子も?」

「た、偶々だよ。夏休み明けに修学旅行があって、その班のメンバーなんだ」

「修学旅行? 今は中学二年で修学旅行があるのか?」

「いや、俺、今は中学三年だよ? いつの話をしてんだよ!」

「お? そうだったか? そういやそんな気も…… はっはっは、そうか、真実は中学三年だったか」


 どこかズレている真実と総司の会話に、みんな違和感を感じずにはいられない。それもその筈、真実と総司は……


「父さん、急に帰ってきて……」

「ん? 急にって、ちゃんと連絡したがな。二~三日後に帰るって。聞いてなかったのか?」

「ああ、母さんにか。母さんとはここ何日か顔を合わせてないよ。帰ってきてはいるみたいだけど。それで、いつまでいられるの? それに次はいつ帰って来るの?」

「ああ、花苗さんは相変わらずか……今回は、まぁ二週間程かな? 呼び出しがあればすぐ戻らないといけなくなるが。それと次はいつになるかは分からんぞ? そうしょっちゅう長い休みが取れる訳じゃないからな」


 真実と総司が話していると、それを聞いていた智樹が首を傾げる。


「……あの、済みません。おじさんは仕事は何を?」

「ああ、私か? まあ、所謂公僕って奴だな。職種を言ってしまうと色々と聞きたくなるだろうし、仕事の内容は守秘義務があるから簡単には話せないから内緒だが、まぁ長期間監禁されるような仕事だ」

「公務員で長期間監禁って……一体どんな仕事なんだ? 想像がつかない……」

「何処か遠くなんですか?」

「遠くと言えば遠くだが、国内ではあるな」

「じゃあ、外交官とかじゃないんだ。益々分からなくなってきたわ」

「ははは。そう滅多には聞かない仕事だろうからな。ま、当てる事が出来たら業種と職種だけは教えてやろう」


 聞いてきた智樹と考え込む祐二や華子に、当てられるものなら当ててみろとばかりにニヤついて言い放つ総司。まるで悪戯っ子だ。

 それに対し、真実はまだどこかぎこちない。そもそも総司が帰って来たのは実に七ヶ月振りなのだ。それも前回は正月休みだと言いながら呼び出しがあって二日で仕事に戻っていってしまった。親子のスキンシップもへったくれもない。お互いの事を話す時間も充分には無いので、離れた所にいる親戚の伯父さんと変わらないのだ。それも二~三ヶ月で帰って来る事もあれば一年以上帰って来れなかった事も。普通ならば父親としてどうなんだ? と非難されて当然なのである。これがぎこちない父子の姿の理由であった。


「ああ、勉強の途中じゃなかったのか? 邪魔なら私は別の部屋に行くが……」

「あ、いや。俺らはそっちのダイニングテーブルの方でやってるんで、こっちのソファーで自由にしていて。あ、そういえば父さんはお昼はどこかで食べてきたの?」

「ああ。久し振りの(おか)の飯は新鮮で良いな」

「「「おか?」」」

「おおっと、大ヒントを与えてしまったか。はははは。そういえば、何で真実は玄関に中々出て来なかったんだ? 糞でもしてたか?」

「は!? ち、違うってば! おやつの仕込みをしていた……ああっ! そういえば途中だったんだ!」


 慌ててキッチンに向かう真実を追おうとする光輝の姿を見て、そういえばこの()もエプロンを付けていたという事は? と首を傾げる総司。


「ちょっと良いかね? あの娘はもしかして……」

「ああ、黒生は真実のカノジョですよ。とはいえ、まだ付き合いだして二週間も経つかどうかだと思いますけどね」

「何っ!? 真実にカノジョ!? それは本当なのか!?」


 取り乱す総司を落ち着かせ、ここ最近の真実の出来事を説明する智樹。真実の夢の話以外もかなりの濃度で知っている智樹の口は、珍しく滑らかだった。勿論、真実との間に守秘義務は結んでいないので問題は無いのだ、問題は……




「ちょっ! なんでそこに!?」

「いや、気にするな真実。ちょっと見てるだけだ」


 ニヤニヤしながらキッチンの見えるカウンターに座る総司に、目の前で調理を続けていた真実が珍しく父親に対して声を荒げたが、当然と言えば当然だろう。


「まさか! 智樹! 喋ったのか!?」

「口止めされてたのは学校でだろ? 家では別に口止めされてなかったし」

「裏切ったな! 智樹!!」


 後の祭りだった。智樹の言う通り、真実が智樹たちに懇願したのは学校で言い触らさないで欲しい! と言うものだった。当然そこにこの家で言い触らさないで欲しいという言葉は無かったし、守秘義務なんてものがある筈もないのだ。


「それにしても真実が女の子を守って……とはなぁ」


 総司のニヤニヤは止まらない。反対に真実の手は止まる。このままではいつまでもおやつ作りは終われそうもない。


「……真実くん、それ、たぶんもう良いよ?」


 見兼ねた光輝がいつまで経っても終わらない真実の混ぜるボウルの中を見て指摘する。真実は総司の視線が気になってボウルの中をあまりよく見ていなかったようだ。

 言われた真実は、それを炊飯器の中に投入する。さっき総司が玄関のチャイムを鳴らした時に手を汚していたのは、炊飯器の釜にバターを塗ろうとして、そのバターが手に付いてしまったからだった。そしてボウルの中身を移し終えたらスイッチオン!


「光輝、これで本当に良いのか?」

「……ん。大丈夫、たぶん」

「たぶん、なのか?」

「……ん。レシピ通り。後は放っておいて大丈夫」


 今日は少しだけ材料を奮発していた。綾乃と香奈に奢ってもらったので、そのお礼分も兼ねてだ。美味く出来上がったら明日渡す予定である。ボウルを洗ってみんなのいるテーブルに座る。座る位置はもう固定化されていて、智樹の隣に真実、更に隣には光輝。智樹の向かい側に祐二、その隣が華子でその隣がまだ来ていない綾乃だ。一番初めは男一列、女一列になっていたが、いつの間にかこの席順で固定化されてしまった。



 教え合いながらもカリカリとシャープペンを走らせていると、良い匂いが漂ってきた。その匂いの元は炊飯器だろう事は明白であった。

 が、今は集中だ。総司が匂いの元(炊飯器)を気にしてキッチンをウロウロとしだしたが、気にしない、気にしない。すると、また玄関のチャイムが鳴った。今度こそ綾乃だろうと一番近い席の光輝が迎えに席を立ち、パタパタとスリッパを鳴らす。


「はぁ~、食べ過ぎて辛いわ~」

「山盛りのかき氷を昼飯前に食ったんだって?」

「フラッペよ、フラッペ。流石に今日のランチは失敗したわ。お洒落系のフリしてあんなにお腹が膨れるなんて……」

「いや、だからかき氷が余分だったんだろ」


 部屋に入ってきた綾乃を、祐二が溜め息を吐いて指摘するが、部屋に充満しだした匂いを嗅いだ綾乃がうぇっぷと顔を顰め、匂いの元に視線を向けて固まった。


「し、知らないおじさんがいるー!!」


 失礼にも程があるぞ? 綾乃。





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