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√トゥルース -085 未明の水場



「ん゛~、眠い!」


 夜が明けるまで随分と時間があるのだろう、空はまだ星が瞬き日が昇ってくる兆候すらなさそうに見える。しかし、部屋の外では既に屋敷の女中たちが忙しなく走り回っていた。

 今日はミックティルクたちが帝都へと戻るべく、夜明け前に屋敷を出る予定だ。それに合わせて出立するつもりなので、かなり早い時間ではあるがトゥルースたちも起床していた。

 幸いにも、夢の中の自分(真実)カノジョ(光輝)の祖母の家にお泊りという事でいつも以上に早く就寝した為、こうして早く起きられた。以前、夜盗に襲われて夜間に起きた時は真実が気を失ったので、恐らく無理して起きようものなら真実がぶっ倒れていたかも知れない。何とも都合の良い事だ。しかし都合の悪い事もある。


「あたたた。くそっ! 足の痛みが残ってる」


 夢の中で真実の足がつっていた事を思い出すトゥルース。そう、夢の中の出来事はトゥルースの身にも返ってくるのだ。

 そのせいでしてもいない怪我が出来ている事もあるのだが、そのおかげで助かっている事もある。そもそもトゥルースは叔父であるターラーに体術等の指導を受けているが、ターラーが村に帰って来た時にしかそれを受けられない。しかし夢の中で真実が護身術を習っているおかげで相乗効果が生まれてそれなりの腕を持つようになれたのだ。真実の方も、道場で教えてもらっていない体術を身に付ける事が出来、師範の欣二を度々驚かせていた。


「少し体を解して顔を洗いに行くか」


 んんっと伸びをして軽くストレッチをすると幾分体が軽くなったような気がしたので、水場に行って顔を洗う事にした。いつも通りフェマやシャイニーは先に起きたようで既に部屋にはいなかったが、ティナはまだ起きていなかったので部屋を出る際に揺すり起こしておいた。まだ半分寝ているようではあったが、体は起こしていたので大丈夫だろう。


「ふぅ。やっぱり顔を洗うと目が覚めるな」


 水場で水を汲んで顔を洗ってスッキリしたトゥルース。やはり外が暗い内はスイッチが切り替わり難いが、顔を洗った事で何とか切り替わったようだ。

 備え付けられていた貴重な大面の鏡に映る自分の姿を見ると、まだ右後ろの寝癖が取れていないのに気が付いた。王族所有の屋敷らしく幾つもの灯りが灯る中、濡らした手で解いていると、ふと入口の方に人の気配がした。トゥルースが起きてくる前から屋敷の女中が忙しなく動いているので、きっとその内の一人だろうと気にも止めなかったのだが……


「んん~、ねむい……ねぇ、おきがえおねがい……ぬがしてぇ……」

「!!?」


 姿を現したのは何とファーラエだった。寝惚けているのは明らかなのだが、何故こんなところに一人で!? と目を剥くトゥルース。完全に眠気が吹っ飛び頭は覚醒してしまったが、それもその筈だ。

 ファーラエが着ていたのは所謂ネグリジェ姿だった。それもシースルーのである。更に言えば中には何も身に付けずに、だ。見た目や言動、仕草に至るまでまだまだ子供っぽさが残るファーラエだが、寝着は見掛けに依らず大人であった。布一枚あるとは言え色々と丸見えな王女(ファーラエ)が真正面を向いて直ぐ近くにまで近寄り、勘違いとは言えトゥルースに着替えの催促をしてきたのでトゥルースは慌てた。

 これはマズい。そうは思ってもいかんせん思春期(十五歳)の男である、その視線を外す事が出来なくなっていた。


「ねぇ~、はやくぅ~」


 尚もトゥルースに近付いてくるファーラエに、漸く待ったを掛けるトゥルースと侍女のアバンダがファーラエを探す声がしたのはほぼ同時だった。しかしそれは一歩遅く、ファーラエはトゥルースにそのまま身を預けるように正面から凭れ掛かってきた。

 裸同然と言っても過言でない少女はとても柔らかく、何とも言えない良い匂いが鼻腔をくすぐる。しかしそれを堪能している余裕などトゥルースには一切ない。時を同じくしてアバンダが二人のいる水場に駆け込んできたのだ。


「あっ! 姫様! いけません、こんなところで!」


 慌てて寝落ちしかけているファーラエをトゥルースから引き剥がすアバンダ。クルッと入口の方を向くが、今度は可愛いおしりが丸見えだ。

 すると首だけをトゥルースの方に向けたアバンダの目がジロリとトゥルースを睨み付ける。


「もうこれ以上騒ぎを大きくしたくありません。今の事はスッパリと忘れてください」


 どうやらアバンダは女騎士隊長のイキシアとは違って、今のが単なるファーラエの寝惚けによる事故だと瞬時に理解したようだ。助かったと胸を撫で下ろすトゥルースだったが……


「 分 か り ま し た ね ? 」


 怒気を孕んだアバンダの声に、慌てて姿勢を正しコクコクと頷くのだった。

 それにしても灯りに照らされたファーラエの姿は美しかったと思い出すトゥルース。と同時にその香りとも言える匂いの残り香に頭がくらっとする。間違いなく自分とは縁のない人物に寄り掛かられた事に思わず顔を弛めていると、またもや人の気配が。


「ん……ね、ねむいわ」


 今度はティナだ。それも寝着のまま、着崩れた姿で。


「えっ!? ちょっ! ティ……ニナ! まだ着替えてないじゃないか!」

「んん……ねぇ、お着替えをお願い」


 ズボンはずり下がり、上はボタンが幾つも外れて……というか、あとひとつで留まっている状態で、臍は丸出し、たわわな二つの大きな山が今にも剥き出しになりそうだった。

 一度見てしまったとはいえ、そう簡単に何度も見る訳にはいかないとトゥルースは慌てつつも、先程のファーラエの程好い大きさ形のものと見比べてしまうトゥルース。明らかにティナの方が大きいが、形もとなるとファーラエのも捨てがたい。

 そんな男の性に翻弄されている内に、ティナまでもが寝惚けてトゥルースに寄り掛かってきた。


「ちょっ! ニナ、寝惚けてないで起きろって」

「良いから早くぅ。もう舞踏会が再開する時間だからぁ……ふにゅ」


 完全に寝惚けているが、元貴族だったというティナは舞踏会とかにも出なければいけなかったのかと、思うトゥルース。自分は舞踏会なんかに出なくても良いから気楽だなと考えたところで、ふと自分も叙爵されて仮だが爵位持ちなんだと思い至ったトゥルースは、自分も舞踏会に出る機会があるのか!? と顔を顰めた。


「んん~。王女が姿を出さなければ、会が台無しにぃ……むにゅ」


 その寝言のような言葉を聞いて、ん? と首を傾げるトゥルース。もしかして自分が王女になった夢でも見ているのか? と。何日もの間、王女(ファーラエ)と共にいたせいで感化したのかと笑みが漏れるが、今はそれどころではない。早くティナを部屋に連れ帰って着替えさせないと! と。

 しかしその前に顔を洗えば否応なしに起きるかなと一度拭き取った自分の手を再度濡らしティナの顔に当てた。


「うぷっ……な、何? 何事です!?」


 やっと覚醒したティナが虚ろだった目を瞬かせ、預けていた体をトゥルースから離した。そして目の前のトゥルースと目が合うと再び目を瞬かせた。

 至近距離から見るティナはすらりとしていて目を見張るものがある。細長いまつ毛の生える目は誰の目にも優しく見え円らな瞳に吸い込まれそうになる。肌はツルツル、スラッと伸びた高い鼻に柔らかそうなピンクの唇。

 残念なのが今しがた無理矢理水を塗りたくった事で変装の為に施していた化粧が酷い事になってしまっていた事であろう。昨夜は皆早く寝てしまった為に落とさずに寝てしまったのだ。


「ルース……さま? ぇ、どうして?」


 混乱しながらも状況を把握しようとキョロキョロとするが、ふと視線を留めた。その視線の先には先程トゥルースが見ていた大鏡が。当然それに映し出されているのは二人の姿で……


「はうゎっ!! ル、ルース様、わたくしどうしてこんな所に!?」


 慌てて乱れた寝着を整えながら状況を確認するティナだが、寝惚けてここまで来た事を聞くと頬を赤らめていた顔を更に真っ赤に赤らめた。否定しないところを見ると、身に覚えがあるようだ。

 あらぬ疑いを掛けられずに済みそうだとホッとするトゥルースは、ティナに化粧が落ち掛けているのでここで落としてから戻るよう促し頷いたのを確認すると手拭いを渡してから荷物を取りに部屋へと足を向けた。

 すると離れへと向かう廊下に曲がったところで、向こうから人影が。


「むにゃ、母さぁん。あたしの着替えはどこぉ~?」

「!!?」


 仄かな灯りに照らされて浮かび上がったのは寝着のままのリムだった。流石にファーラエのような過激な格好でもティナのような大きく着崩れた格好でもなかったが、ふたつ程ボタンが外れている上はやはり下着は着けていないらしく、くっきりとした渓谷にはなっていない慎ましい胸の凹凸、特に尖った部分が灯りの影でくっきりと浮き出ていた。

 三大名山のふたつをつい今しがた見たばかりのトゥルースの目には近場のハイキングに適した程度の大きさの丘ではあったが、より親しみが持てる大きさのそれは何とも現実味のある魅力を持ったものだった。

 ごちゃごちゃ書いてきたが、一言で言えば目に毒である。一度まともに見てしまっているとは言え、そこは男にとっては隠されている方が見たくもなってしまうものだ。


「うにゃ? かあ、さ……ん!? ひっ!」

「リムさん、おはよう。ここは家じゃないよ」


 しかしずっと勘違いが続く筈もなく誤解を招いてはいけないからと真実が声を掛けるのだが、眠気眼のリムにとって家族以外の者は恐怖でしかなかった。


「き、きゃあ~~~!!」





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