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√トゥルース -080 さあ、やろまいか!



「そういえば、宿と言えば最近、道中で泊まろうとした宿が何軒か閉まっていたな」


 思い出すように口にするアディックに、リムがウンウンと頷く。


「やっと休憩出来る!と思ったら閉まってるんだもん、あの時の絶望感と言ったら……」

「ここを出たら北へ向かうのだろう? ならば朝イチで町を出て午後に最初に見える宿に泊まっておくと良い。少し早いが、その先にある宿が廃業していたから、そこを逃すと夜道を進むか野宿になるだろうからな」

「てか、あたしたちも一度北に向かうんだから、一緒に行けば良いじゃない」

「ああ、それもそうだな」


 何故か勝手に話が進んでいくが、態々別行動をする理由も無いので黙って頷くトゥルース。

 兄妹は来た道を辿って戻るらしい。この先は南には袋小路になっており、東はまだ変色石が出回るには貧しさが残る侯国だ。王国に抜けるならまだしも、高価なピンクナイトレインボーを卸すには隧道を通る為の通行料と時間が勿体ないので、当然の選択だ。

 一方でミックティルクは首を傾げた。


「この掻き入れ時に営業をする事が出来なかったとは、またどうしたという事だ?」

「ここに来るまでにも方々で閉めている宿を見掛けたな。まあ、何処も近くに別の宿があったから、競争に負けたんだと思うが……」


 言葉を詰まらせたアディックはそのまま考え込んでしまった。


「そういえば、王国でも地方の宿が一軒潰れていたっけ」


 直前に泊まったけど、随分と横暴な接客だったから潰れて当たり前だと思っていたら、後日夜盗になって再会してしまった事を打ち明かすトゥルース。


「何だ、そのような素人相手に怪我をしたとは、寝込みでも襲われたのか?」

「いえ、別の夜盗まで入られてしまって……またそいつが襲った相手を殺してしまう事を厭わない奴で」


 最終的にミールとメーラ(ラバたち)に助けられて事無きを得た事を説明すると、ミーアがみゃっと一鳴きした。


「あ~、そういや駄ラバたちをけしかけて暴れさせてくれたのがミーアだったな。で、動けない俺をフェマが看病してシャイニーが町までその夜盗を運んで医者を連れて来てくれたんだよな」


 そこからフェマが旅に加わったのだが、まだ一ヶ月しか経っていないのに随分と昔の様に感じる。それ程までにこの一ヶ月が濃いものとなっていた。

 王都に出た後、遺跡のある国境でティナと出会い、侯国で侯国頭首のマナールたちと出会って隧道を通りこの町に。まさかの帝国第三王子に招かれ、更にピンクナイトレインボーの売人であるアディック、リムと出会った上で、国民的美女である第二王女ファーラエにまで会う事が出来た。

 そんな事をトゥルースが思い返していると、何かを考え込んでいたオレチオがもしやと口を開いた。


「各国各地で起きていた、住民が突然姿を消して後日その一部の者が遺体となって発見されるといった事件の犯人が王国で捕まったと聞き及んでますが、もしや貴方たちの捕まえたという者が?」

「ん? そう言えばそんな話もあったな。なんだ、お前たちは隧道以外でも事件に巻き込まれていたのか」


 否定も肯定もする暇なく、ミックティルクに呆れ返られてしまったトゥルース。

 確かに僅か一ヶ月の内に色々有り過ぎだ。もっと言えばシャイニーのいた孤児院の者たちが捕まった際も、確りと巻き込まれているし、この町では見えない何かによる窃盗事件に巻き込まれそうになり首を突っ込んでいた。見た目は子供のコナ●や金田●少年には負けるだろうが、見事な事件遭遇率である。


「どうやらその犯人にはこの帝国でも暴れられていたようですので、捕まったと聞いてホッとしました」

「だが我が国で捕まえられなかったのは情けない話だ。姿の見えない窃盗犯の件もあるし、官権には一層気を引き締めるように渇を入れないとな」


 何やら不穏な空気が流れたが、自分たちに向けられたものではないからと安心する一同。

 が、トゥルースとアディックは安心しきっていた心を打ちひしがれる事になる。


「さて。後程ザール商会が来る予定なのだが、それまで私が一揉みしてやろう。アディック、トゥルース。レイビドが先に表で体を温めている。お前たちも用意して外に行くぞ」


 そういえば先程から外にチラチラとラッジールが走り込んでいるのが目に入っていたなと思い返すものの、こう声を掛けられては逃げようが無いなと諦める二人。何しろミックティルクの稽古は過激でキツいのだ。

 二人は顔でキリッと頷きながら、内心で項垂れるのだった。






「お待たせしました、殿下……って、そちらの方々はどうされたのですか?」


 荷物を持たせたお供を引き連れて屋敷を訪れたのはザール商会の支店長エスぺリスだが、余程忙しかったのだろうかその自慢(?)の頭はいつもような光沢が無いように感じた。

 清々しくうっすらと掻いた汗を拭いながら現れたミックティルクの後から、汗だくボロボロの姿で現れたトゥルースたち三人を見て目を丸くするエスぺリス。


「ああ。これで暫くは別れる訳だし、少々危険な道を行くと言うのでな。少し相手をしてやっていたのだ」

「だ、大丈夫なんですか?」


 ラッジールに至っては文字通り這う這うの体で壁に凭れながら何とか倒れ込まずに済んでいた程だ。これでは護衛の任には支障を来すだろうが、明日の早朝に屋敷を発つ予定なので荷造りの日に割り当てられていたので、護衛は屋敷の兵士たちに全て任せており、ラッジールの荷物は極少量、着る物だけだったので問題はなかった。


「まあ問題無いだろう、三人とも若いから明日にはケロっとしているだろう」

「そう、ですか? なら良いのですが…… ファーラエ殿下、お久しゅうございます。折角お会い出来ましたのに、明日にはお発ちになられるとの事。またお越しの際はお話し相手に呼んで頂ければ」


 エスぺリスは過去にミックティルクに呼ばれて屋敷を訪れた際、ファーラエの話相手になったのを気に入られて何度か話相手の為に呼ばれていたのだ。


「御免なさい、エスぺリス。今回はお話し相手が沢山いて貴女を呼んでなかったわね。また今度来た際はファーラエのお話し相手になってね」


 今回は滞在日数が少なく、下着作りも重なって意外にも暇な時間が無かったファーラエ。今日もミックティルクたちが体を動かしている間、ティナたちと色んな話をしていた。それは主に他国の雰囲気や風習について。

 時折ミックティルクに付いて別荘の屋敷等に赴く事もあるが、その殆どを宮殿の中で過ごすファーラエは自由に旅をするティナやリムたちの話に夢中になっていた。こうして別荘の屋敷に来ても、屋敷はおろか移動中の馬車からですらも滅多に出させて貰えなかったファーラエにとって、それは本や夢の中の出来事であり、体験した事のない事のオンパレードだったからだ。



「さて。例の物が出来たのであろう? 早速渡したいので出して貰えるか?」


 エスぺリスの持ち込んだ物を急かすミックティルク。

 屋敷を発つ前にか熟さなくてはならない仕事もまだ残っているので、あまり悠長にはしていられない。ならば稽古をしなければ良いじゃないかと言われるだろうが、それはそれである。ミックティルクも人の子、時には存分に体を動かしたいし、今はそれに耐えられる相手がいるのだから。


「はい、殿下。生地の選定に少々梃子摺りましたが、中々の仕上がりになったと思います。お確かめを」


 そう言ってお供の者から受け取った包みを開けて、中の物を広げるエスぺリス。


「……ふむ。お前が太鼓判を捺すだけあるな。良いだろう、お前も立ち会って証人になってくれ。簡易的だが、今から叙勲式を行おう」


 汗だくのトゥルースに目を向けながらミックティルクが高々に宣言するのを、本人(トゥルース)は理解出来ずにボ~っと見ているのだった。





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