Restart〜僕が終わらせ、君が始める世界で〜
第1章 美しい桜の舞う季節に
Chapter1:平穏の終わりと災厄の始まり
2080年4月10日。今日は国立星刻六花学園の始業式だ。新入生や進級した生徒たちが桜並木を優雅に歩き、清々しい気持ちで学校に入っていく。時を同じくして、ここは六花学園と同区画「メーティス」にあるアパート・立花荘。その一室の扉が内側から勢いよく蹴り開けられ、中から六花学園の制服に身を包んだ1人の男が飛び出してきた。
「ッダアァァァァ〜〜〜〜‼︎‼︎」
そして奇声をあげながら全力疾走で立花荘を飛び出して行った。
「しまった〜〜〜〜‼︎ 初日から遅刻はいくらなんでもマズイ!」
時は進み、今は始業式。
校長が進級生に向けて祝辞の言葉を述べていた。
「皆さんがまた美しい桜の舞う道を通りこの学園に通えることを私はとても嬉しく思います。2度目のー」
「ハアッ…ハアッ…ハアッ…!」
「皆さんがこれから更に己を磨き、進化してー」
その時、体育館の後部扉が凄まじい音を立てて開かれた。生徒や保護者、教員の全ての視線が扉に集められる。そして、飛び込んで来た男は蒼白にした顔に笑みを浮かべて叫ぶ。
「2年…C組…22番…ハアッ…初姫刕夜っ…!遅れましたっ!」
始業式が終わり、自己紹介を終えた2年C組は現在自由時間となっていた。刕夜は始業式での醜態と自己紹介で笑い者にされたことで意気消沈していた。
「おい刕夜、元気出せよ」
そう言い、刕夜のもとに長身の男子生徒が近づいてくる。
「まったく、せっかくまた同じクラスになれたと思ったら2学年初日から遅刻とはな。何やってんだお前」
「俺が一番驚いてるよ。なあ波流翔、俺って今まで遅刻・欠席なんてあったっけ?」
「ない、なかった。今日が初めてだ」
刕夜の問いに長身の男子生徒・黷馬波流翔はそう答えた。
「小学校の頃からお前の事は知ってるが、今までお前が休んだりした事は一度も記憶にない」
「だよなあ、それがなんでよりにもよって今日…」
「おーい刕夜、今日は朝から凄かったな。もう学園一の有名人だぜ。お前」
そこに冴えたイケメン顔の男子生徒が寄って来た。
「おい迅、今その事で落ち込んでんだ。傷口抉ってやるなよ」
「あぁ、そうだったのか。悪い刕夜、そんなつもりじゃ…」
「いや、大丈夫だよ。中学からの付き合いだ。お前がそういう奴じゃないって事はちゃんと分かってるから」
「そうか…」
そう言って刕夜と黷馬の親友・箕雁迅は爽やかに微笑んだ。
「でも本当に珍しいよな。刕夜が遅刻するなんて。何かあったのか?」
「いや、特に何も。なんか今日は付いてない気がする」
始業式への遅刻という失態を演じたことが今まで一度もそういったものを味わったことのない刕夜にとっては余計に不吉なのだろう。
「教員たちも驚いてたな」
「まあ、そりゃ遅刻したのがあの刕夜だからな」
「うぁ……」
「優等生だからな」
「別に優等生って訳じゃないよ。成績も普通より少し上ってぐらいだし」
「そういうけど、普通の事を普通にやるのは難しい事だぜ。それに誰しも不得意な事が一つはあるはずなんだ。刕夜にそういうのがあるか?」
「いや、まあ確かに不得意と思えるものはないけど…」
「お前の場合、性格も悪くないしな。教員からも結構好感持たれてただろ」
「それは嬉しいけど…」
「それが今日のあれだもんな…」
「うぁぁぁぁぁぁ……」
「まあ、元気出せよ。逆にそれだけ好感持たれてるなら一回の遅刻ぐらい重くは受け止められねえって」
「ハア…そうだな。ウジウジしてても仕方ないか…」
その時、教室の扉が開かれ20代後半の男が中に入って来た。刕夜たち2年C組の担任・軌嶋祐亮だ。
「よーし、ホームルームの続き始めるぞ。早く席につけ」
そうして再びホームルームの時間が始まる。
そして、刕夜はまだ気付いていなかった。自分の感じた不吉な予感は、確かにこれから起こる数多の事件を予期していたことをー
始業式が終わり、刕夜たちは進級祝いに娯楽施設の豊富な区「パナケイア」に出かけ、映画や室内アスレチックなどで楽しんでいた。刕夜たちの住むこの街「EVEREST」は50年前、突如起きた謎の爆発事故により壊滅した東京を国が莫大な資金を積み再開発した“近未来型都市”だ。東京の23区を更に30区にまで増やし、それぞれがエリアテーマを持っており、オリュンポス十二神を始めとする神々の名称をつけられている。故にこの「パナケイア」は“娯楽”エリアとして映画館、遊園地、ショッピングモールなどの娯楽施設が集約されている。刕夜たちの住む「メーティス」は“学業”エリアであり、学校や研究施設が置かれている。他にも“司法”エリアの、「ハデス」や“医療”エリアの「アスクレピオス」などがある。中でも規格外なのが“最高王権都市”「ゼウス」や“聖人領域”「テミス」などの直接法の及んでいる「5大区」と呼ばれる普通は出入りすら許されない「EVEREST」の中心区だ。
「じゃあな、明日は遅刻するなよ」
「じゃあな、刕夜」
「うん、じゃあね二人とも」
刕夜は黷馬たちと別れ、家路についていた。
「はあ、今朝は本当にどうしちゃったんだろ。明日は気をつけないとな」
刕夜は今朝の事をまだ気にしていた。
「…ん?」
ふと刕夜は後に視線を感じた。しかし、振り向いても人どころか犬や猫すらいなかった。
「気のせいか」
向き直り、再び帰路を歩き出す。
「私の気配に気づいたのですか?初姫刕夜」
「ーッ…!」
突然背後から掛けられた声に刕夜は慌てて振り向いた。そこには特殊な服装をした一人の少女が立っていた。歳は刕夜と同じ程だろうか、少し上に見える。少しツリ目がちではあるが端整な顔立ちに後でアップにして纏めた艶のある茶髪、細身でも身体の凹凸のはっきりしたモデルのようなスタイルにこちらを見る青紫色の瞳。一見すれば寡黙な雰囲気の普通の美少女だ。あの妙な服装を除けば。だがそれ以上に刕夜はあることに驚愕していた。
(どういうことだ?後には誰もいなかったのに…今の一瞬で俺の背後に!?どうやって?それになんだあの服装、腰に提げているのは…剣?)
「私は天使式護衛戦隊“総隊長”・輝夜深刕、唐突で申し訳ないけれどー」
「ーっな!?……」
そして徐に腰に提げていた剣を抜き、刃を刕夜に向けながら輝夜深刕と名乗った少女は言う。
「第18代“魔王”・初姫刕夜、この世界の平和のために、あなたにはここで死んでもらうわ」