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重要参考人−2

「この施設に所属する者達は全てヴェリなんだ。そこの二人もね」


 つられて見やると、モノクルは何か端末をいじっており、ゴルゴンは首を傾げた。


 次々と起こった非現実的な現象と、一般人から逸脱した見た目から考えると、彼らがヴェリと呼ばれる者達であろうことは直ぐに思いつく。


 ヴェリとは、人には普通できない、あらゆる現象を意図的に起こす能力を持つ者たちを指す言葉だ。またその能力自体をヴェライアという。

 そういう人たちには、特有の遺伝子があるらしい。その影響か、容姿が風変わりなことが多い。


 僕もその一人だ。


「気づいていると思うけど、“瞬間移動”も“翻訳”もヴェライアによるものだ。俺はコーネリオ・ニコレッティ。さっきの機械は、俺の“翻訳”を組み込ませたもので、互いの言語が分からなくても会話できるようになるんだ」

「yau ru!」

「彼女はミライって言うよ」


 ゴルゴンはミライという名前らしい。とそこで僕は気づく。翻訳を受けたはずなのに、彼女の言葉はそのままだ。


「言葉、そのままなんですけど」

「あー、ミライは、ちょっと特殊なんだ」

「特殊?」

「言語として成り立っていない言葉でね……翻訳が難しくて」

「tio fia?」


 ニコニコと笑顔を保ったままミライは髪を浮遊させる。確かに、モノクルに比べて文っぽくない聞こえだ。


「私はソフィアです。……重要とはいえ、無理矢理連行したことについては謝ります。しかし、それだけの価値が貴方にはあるのです」


 次いでモノクルもといソフィアが名乗った。


「とはいえ関節技はどうかと思うなあ」

「du−d」

「ヴェライアをやられては困ります。未知のものほど危険なものはありません」

「あはは。相変わらずしっかりしてる」


 笑い事ではない。本当に折れるかと思った。

 流れ的に自分も名乗るべきか、と口を開いたとき、ブォンと聞き慣れないことが響いた。


 音の方を見ると、綺麗すぎる壁の一部が真四角にくり抜かれ、できたその空間に男性が立っていた。


「やあ、早いね」

「目撃者、というのは、彼か?」


 男性は息を切らしながら問いかけた。急いで来た様子だ。彼というのは僕のことだろう。


「名前は」

「たった今聞くところでした」

「そうか。君、名前は」

「え、はい、灰崎 泰為、です」


 息が整わないままこちらに向かってくる。男性は背が高く、左目を眼帯で隠していた。必然的に見下される形となるため、強い威圧を感じる。

 ずいっと顔を近づけられ、男性の後ろに流された長い髪がはらりと垂れてきた。


「…………」

「あの……何か……」

「リック、リック! タイナくん戸惑ってるから」

「あ、ああ、すまない」


 コーネリオさんの声がけで、男性ははっとすると、顔をあげる。


「目が少し悪いものでね、近づいて見る癖があるんだ。うん、確かにヴェリのようだな」

「えっと、そうなんですけど」

「私はフレデリック・アークライトという。この施設の代表をしている者だ」


 そう右手を差し出されたのでとりあえず握り返す。


「君のような者が現れて本当に助かった。何しろこの問題は長らく解決の兆しが無く本当に手詰まりだったんだ。とりあえず君の」

「あのねリック、そのことなんだけど、彼まだヴェライア分かんないみたい」


 男性――フレデリックさんが笑顔で語り始めたところに、コーネリオさんが口を挟む。フレデリックさんの言動が止まった。


「とりあえず、まだなんも説明してないからさ。興奮するのは分かるけど落ち着いて」

「iauu……」


 当の僕は完全に置いてかれていた。






 黒と白の斑髪、両目の虹彩部分に入り混じる橙、生まれつき持ってしまったこれらは、紛れもなく僕が普通でないことを証明していた。

 案の定僕はヴェリで、しかしいつまでも“特権”は使えないままだ。

 世界的にも少ない同類が都合よく身の回りにいる訳もなく、僕は当事者でありながらどこか非現実的に思えていた。


 初めて見た同類達は、自分よりはるかに特権を使いこなしている。違う世界の住人、そう感じた。




「ヴェリ殺し……?」

「一年ほど前から、不規則に発生していてな。世界中のヴェリ達が殺害されたり、行方不明となっている問題が長らく私達を悩ませている」


 そう説明するフレデリックさんの顔は、苦虫を噛み潰したようだ。


 この特種総合研究施設は、ヴェリのあらゆることを研究・調査するところだと言う。僕を診断した国認定の集団とは、また違うらしい。


「犯人は毎回同じ、フードを深く被ったヴェリだ。何度も拘束を試みているのだが、誰を派遣しても死ぬか大きな被害を受ける。偶然通りかかった一般人でさえも問答無用で殺す残虐なやつだ。ヴェライアさえ分かっていないが、相当便利なものなのだろう。誰一人、勝てない」

「その犯人が」

「はい。それが貴方が見てしまった者です」


 あの光景が脳裏に蘇る。月夜に照らされ不気味に映ったあの現場、射抜かれてしまいそうな殺意。


「私達に気づいた瞬間、あの者は逃げていきました。こんなことは初めてです。見られたにも関わらず、何もしてこなかったのは」


 ソフィアは真剣な目でこちらを見た。


「あの状況から察するに、貴方はあの場に偶然居合わせた。今回の被害者とは全く関係がない。そうですね?」

「そう……だと思います。あの倒れていた人は、全く知らない」

「つまり貴方は庇ってもらった訳でもなく、あなた単身で、一切の被害を受けずに済んだのです」

「そ、そんな大げさな……」


 僕は偶々、あの現場を見てしまっただけだ。そこにソフィアとミライが来たから相手は逃げていった。ただそれだけの事じゃないのか。


「それだけの事じゃない」


 見透かされたようなタイミングでのその声に、ドキリとする。


「あのフードから何もされなかったというのは快挙だ。君は、それだけの力を持っているはずなんだ」


 投げかけてきたのはコーネリオさんだった。優しそうな彼の瞳が、何故か恐ろしいと思った。


「そこで私から願いがある」

「……っ」

「是非、私達に協力してほしい。その力を持ってこの問題の解決の手助けをしてほしい」


 僕を取り囲む三人の圧に押しつぶされそうだ。逃げ出してしまいたくなる。あれば期待の目。耐性の無い、こちらに縋ってくる目。


「具体的には、この施設の調査員として所属してほしい。ここに暫く居てほしい。代わりに、タイナさんのヴェライアを突き止めてあげよう。それだけの技術がここにはある」

「急に、そんなこといわれても」

「きっとここはそちらにとっても良い場所のはずだ。少なくとも、ヴェリでない人ばかりの生活よりは」


 そうか。ここには同じ境遇の者が何人もいるのか。

 魔法使いのような者達が。僕を意図も容易く拉致した者達が。


 そんな世界に飛び込んでいくのか?



「……申し訳ないけど、それは難しいです。僕だって、学校とか、色々忙しいし、そんなに時間が」


 怖い。ただ単純に怖かった。



「嘘だね」


 声に振り向くと、変わらず微笑んだコーネリオさんがこちらを見ていた。


「君は嘘をついた。学校行ってないのかな」


 どうしようもなく、もうこの人達には勝てないと思った。


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