ルウを探して ~3~
「しつこい男だ」
「何度、来ても、ここは通さん!」
門番の二人はマークを見掛けると、すぐに持っている槍を交差させ、バツ印を作った。
「……通してくれなくても良いので、せめてルウリアナ様にお取次ぎを」
「くどい!」
「帰れ!」
案の定の門前払いだ。マークはため息を吐き、あまり使いたくはなかった奥の手を使うことにした。
「分かりました。では、王にこのことを報告します。門番のせいでルウリアナ様は一般教養を身につけることができないと」
「「!」」
「これで、私もルウリアナ様のお世話係を解任される。めでたいことですね」
ニッコリと笑うマークに対して、門番二人は青ざめた。
そして、とどめの一言。
「そういえば、お二人は知らないと思いますけど、私は彼の有名な英雄ルキアス様のご親友であらせられるマグナ・シアルファ様の御子孫なのですよ」
二人の顔が驚愕に変わる。
本来は家のこと等を持ち出したくはなかったが、仕方がない。
これもルウのためなのだからーー。
二人の門番は態度を急変させて、姿勢を正した。
「し、失礼いたしました!」
「数々の無礼、お、お許しください!」
「あ……そ、そんなに畏まらないでください。こちらこそ、なんだか申し訳がないです。僕の監督不届きのせいで、お二方に迷惑をかけてしまい。本当にすみませんでした」
頭を九十度に下げて謝る二人に、マークも同じ様に頭を深く下げた。
二人は顔を上げると、今度は首をかしげた。
「あなたが言い出したことを」
「何故、あなたが謝るのですか?」
「え? いや、お二人はただ仕事をしているだけなのに、私のせいで、その仕事を全うできないと考えると、つい……」
しどろもどろ話すマークに、二人は顔を見合わせて、フッと笑いを零した。
「あなたは変な人だ」
「だが、嫌いではないぞ」
「ワタシは好きな方だ」
二人の言葉にマークは顔を赤らめた。
こうも真正面から好きだと言われると、気恥ずかしさがこみ上げてくる。マークが顔を上げられないでいると、二人は耳元で話し合い、片方が門の鍵を開けた。
マークは門が開かれる音で顔を上げた。
錆びた鉄が軋みを上げて動く音が響き渡る。
「これは……」
「敵が攻めてきた時のため、ここの音はわざと鳴るようになっている」
「ワタシがルウ様を連れてくる。おとなしく待っていろよ」
そう言うと、軽やかな身のこなしで門の先にあるバラ園へと消した。走って行ったというよりも、跳躍して移動したと言った方が正しい表現だ。
マークが中に広がるバラ園を見ていると、残った方が咳払いをした。
「お前の名前を知った。だから、ワタシも名乗っておく、ワタシの名は……」
「ベシャスさんですか? それともビシャスさん? おそらくはベシャスさんだとは思うのですけど、双子は見分けがつきませんね」
はにかんだ笑いを浮かべると、彼女は目を丸くして驚いた。マークから二歩下がり、槍を強く握る。
「何故、ワタシの名を知っている。やはり、お前という男は、女という女、全てと肉体関係を結ぼうとしている淫乱男だな」
「なんで、そうなるんですか! 僕の理由はあなたたちと同じです。この城にいる人の顔と名前を覚えていれば、敵が攻めてきたとしても、誰が敵で、誰が味方か一目で分かるようにと覚えているだけです」
「……なるほど」
彼女は槍を持つ手を緩めて、マークに二歩近づいた。
マークは肩を落としながら、その様子を見ていた。
「ベシャスだ」
「?」
「ワタシはベシャスだ」
淡々と述べるが、刺々しさが感じられない。マークは微笑みを浮かべた。
「僕はマーク・シアルファです」
「知ってる。朝、名乗っていたからな」
「そうですね」
「? 何がおかしい」
ムスッとなるベシャスに対して、マークはずっとニコニコしていた。
ベシャスは何となく妹に似ている。気位が高くて、何事にも真剣でまっすぐな妹。
マークは最近、家に帰っていないことを思い出した。
「ビシャス。一人か?」
マークは正面を向きなおすと、確かにビシャス一人だった。
ビシャスは槍を、バラ園の奥の方に向けながら、マークを見た。
「ルウリアナ様が呼んでいる。この奥にある中庭の噴水で待っていると、ただし、それ以外のところへは決して行くんじゃないぞ」
怒気を効かせて睨みつけるビシャスを、ベシャスは肩を叩いて宥めた。
「ありがとうございます。ベシャスさんにビシャスさん」
走り去るマークを、睨みつけたままビシャスは言う。
「あいつ嫌な奴だ。ワタシ、好きにはなれない」
「でも、良い奴だ」
「良い奴が他人の権力を持ち出すか?」
「それは…………」
「あいつ、本当に嫌な奴だ」