訓練
運動場のような敷地の真ん中で、シルイドは遅れてやってきたマークを見て、素振りを止めて叱咤した。
「遅いぞ、シアルファ! 遅刻の罰として重石をつけたまま、素振り二千回だ」
「はい! ……分かりました」
マークは息を切らせながら返事をすると、運動場の脇まで走り、倉庫の中からベルトの付いた重しを四つ取り出した。
両腕と、両足に装着すると、また走って皆のところへ戻り、列の一番後ろに並んで素振りを始めた。
普通の人はただの素振り二千回で終わるため、比較的早く終わる。
現に終わった人は、次のストレッチに入っていた。
マークも早く終わらせたかったが、剣を振るい上げる度に、重石が重力に逆らい邪魔をする。
上げて下げて、前に突き出し半歩引いて、また突き出す。これが基本的な素振りの動作だ。
汗だくになり、震える腕を叱咤して続けたが、ついには素振りをする人がマーク一人だけとなった。
「シアルファ! もういい、残りは練習後にやれ」
「は、はい……」
「では、次は二人組での型の練習に入る!」
「「はい」」
マークは重石を外して、二人組みを組んで練習に励んだ。
見習いをしていないマークに、この練習はかなりキツかった。見習いの場合はこの半分の量しか練習をしないからだ。
それは正式な親衛隊の練習の時についていけなくなると困るから、少しずつ体を慣らしておこうという考えだ。
この日も、マークは練習が三分の二を終えたところで、気を失い救護室に運ばれることになった。
毎度の事なので、運ぶ動作は手際が良い。
マークがいなくなった運動場で、親衛隊の一人がシルイドに近づいた。
「隊長」
「なんだ?」
「あの小僧、降格とかさせないんですか? 練習のたびに倒れていては、他の者に迷惑がかかります」
シルイドは目を閉じて開き、その隊員を見た。
「では、お前がルウ様の世話係をするか?」
「それは正式な親衛隊でなくてもできるでしょう。建前だって、あの小僧は貴族です。十分すぎるくらいありますよ」
握り拳を作って語る隊員に、シルイドは目を伏せて、少し時間を置いてから瞼を上げて正面を向いた。
「私も初めはそう思っていた。練習のたびに倒れるものに親衛隊は勤まらんと。ルウ様のお世話だって、正式でなくてもよいとな」
「じゃあ、どうしてですか?」
シルイドは口端を上げた。
「お前にはできたか? わずか十五で正式な親衛隊の練習についていくことが」
「…………でき、ません」
「だろう? 私も正式な親衛隊に入れたのは二十になってからだ。それをあいつは必死でついていこうとしている。見守ろうとは思えないのか?」
隊員は言葉をつぐみ、俯いてしまう。シルイドは腕を組み、隊員の方を見た。
「あいつ、初めは半分もついてこられなかったのが、今では三分の二もついてきている。後少しかもな」
シルイドの最後の言葉に、隊員は何も言わずに列に戻った。
その後、親衛隊の中で、マークがその日の練習に最後までついていけるかどうかの賭けが始まった。
もちろん、本人の知るところではなかった。