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聖騎士マーク物語  作者: 海埜 ケイ
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選ばれた謎

~・~



「ルウ様から頂いた朝露は、今もまだ飲まずに取っている。何故なら私にとってのいいことは……だめだ。消そう」


「どうして? そこまで書いたら続きが気になるだろ」


「!」


 振り返ると、友人が立っていた。濡れた髪から水滴を滴らせて、肩なしのシャツの上にあるタオルで頭を拭いている。下は虎の絵が描かれたパンツ一丁だ。


「……寝巻きくらい着てくれよ」


「いいじゃん。二人だけなんだし、パンツ一丁は止めたんだからさ」


「よくない。風邪を引いたらどうするんだ」


「はっは~ん。さてはお前、俺のことを心配しているな」


「悪いことか?」


 即答されて、友人は肩を落とした。


「ふつう、そこは否定するだろう!」


「どうして?」


 親しい人の心配をして何が悪い。訳が分からない。

首を傾げるマークに、友人は深くため息を吐いた。


「お前って、本当にピュアなんだな。どうして王様がお前に姫様を託したのかなんとなく分かってきた」


「!? 本当に? 何で!」


 マークは声を荒げて椅子から立ち上がり、友人に詰め寄る。

 親衛隊見習いの儀式からずっと気になっていたことの一つである。なぜ、王は得体の知れないマークに、最愛なる娘の一人を預けることにしたのか。

 いくら、ルウが破天荒な姫だからといって、そう簡単に他人に面倒を見せるだろうか。普通は専門家に任せるべきだろう。

 厳しい目で見てくるマークを、友人は両肩を抑えていすに座り直させる。


「落ち着けって、俺の考えが正しいってことも分からないんだぜ?」


「……あぁ」


 マークは息を吸っては吐いて、呼吸を整える。

 マークが落ち着いたと判断した友人は、説明を始める。


「いいか、今まで何十人もの人間が姫様の世話係をしてきたが長続きはしなかった。そうだろ?」


 マークは静かに頷く。


「それは、硬い考えの人間が、ルウ様の柔軟な考えについていけなかったんだと俺は思う。あの儀式の日、姫様とお前の会話で、王様はきっとこう思ったはずだ。″おお、なんて柔軟な考えの持ち主だ。この者に任せておけばわしも安心じゃ ″ってな」


 身振り手振りで王様の真似をする友人に、マークは挙手した。


「いや、僕とルウ様の会話は挨拶程度のもので、あまり柔軟でもなかった気がする……」


 最初は、ルウの言うことを聞かずに困惑していたし、もし柔軟な考えを持つ人間なら、きっとあそこでルウと握手をしただろう。


「んじゃあ、何なんだろうな。俺にはわかんねぇ」


 降参する意味で、友人は両手を挙げて、ベットに仰向けに倒れる。

 マークは机に向き直って、細い木炭を取り、書き加える。


「国王陛下がどのようなお考えがあったとしても、私は私に与えられた仕事を果たそうと思った。どんなに辛くても、途中で投げ出さないことをここに誓う」


 マークはノートを閉じて、鍵つきの引き出しの中に入れる。本来ここには貴重品を入れるためのところだが、マークは日記をしまうスペースとして使っている。

 この引き出しが作られたのは、別の部屋の人間が同室の人の持ち物を盗んだ事件があったせいだ。だが、マークの同室の友人がそんなセコイ真似をしないと分かっているし、友人もそう思っていたので、貴重品は入れていない。


「電気を消すぞ」


「ああ」


 鍵をして、机の上に置くと、マークは扉を正面として、右側のベットに座った。

 それを見た友人はランプの火を吹き消した。


「じゃあ、また明日な」


「ああ、明日が良い日でありますように」


 マークは横になり、目を閉じる。

 今日の疲れがベットに流れ出る感じがした。柔らかい枕に、頬を沈めて、マークは夢世界へと旅立った。




~・~





 部屋の中を白い紙が宙を舞い、赤い床へと滑り落ちる。

 それを、シルイドが掴み顔を上げた。


「落ちましたよ」


「そこに置いてくれ」


「かしこまりました」


 シルイドは書類の山ができている机の角に、紙を書類の上に重ねた。

 王は背凭れに体重をかけて深く息を吐いた。


「ところで、あれらはうまくやっているかね」


「はい、問題ありません」


「本当に?」


「……しいて言うのならば、マークの方に若干、疲れが見え始めています。このケースでは、もって二日かと」


 王は自分の伸びた髭を撫でた。


「大丈夫だろ。あの少年ならな」


「根拠が分かりません。そもそも、何故、彼を選んだのですか? 王女の持つあの力に対応できるのは、英雄ルキアスの血筋か、あるいは仲間の血筋だけなのですよ?」


 王はフッフッフと笑いを零した。


「シルイド君が慌てる姿なんて、初めてみたのう」


「王よ!」


 シルイドの言葉を無視して、王は椅子から立ち上がり、テラスへ続く扉の前に立ち、外を見た。

 霊魂を吸い寄せるような山々と、それに対抗するように光る星たちが見えた。


「マークは、シアルファの人間じゃ」


「ですが、正統なる後継者ではありません」


 マークの出生についてはシルイドも重々承知だ。英雄ルキアスの親友、聖騎士マグナ・シアルファの子孫。シアルファ家では、槍を扱う男子が騎士となるように育てられるのだが、マークに槍を扱う才能はなく、家族から除けもの扱いされることとなる。

 それでも王族を守るものになりたかったマークは、シルイドの元を尋ねて剣の道へと進んだ。

 剣の道に進んだことから、マークは本家から勘当され、二度と家の敷居を踏む事を許されない身となった。

 現在のシアルファの後継者は、長男のシリウスか、次男のユランと言われている。

もし、ルウの力に対抗できるとしたら、二人のうちのどちらかだとシルイドは思っている。断じてマークではない。

 王はゆっくりと振り返り、シルイドを見る。


「後継者とは世襲じゃ。しかし、力あるものは世襲では断じてない。分かるか?」


「…………」


「まあ、ワシもシアルファの人間と初めて会ったからのう。浮かれていたとも言い切れん」


「王……」


 半眼で睨むシルイドを、王は笑って流す。


「フッフッフ。冗談はさておき、ワシはあの少年に会った時、ひどく懐かしい気持ちに襲われた。おそらく、娘もそうじゃろう。だから、ああも簡単に打ち解ける事ができたのだと、ワシは思っておる」


 王が初めて謁見の間で、マークと出会ったとき、ひどく胸が高鳴り、身体中が熱くなった。

 全身の血潮が煮えているのにも拘らず、頭の中だけは冷静そのものだった。

 不思議だった。

 初めて会ったはずが、初めてだとは感じず、懐かしい思いが内から内へと溢れ出てくる感覚。

 力を入れていないと、涙が溢れそうになった。

 しかし、当の少年はそんなことを感じていないのか、初めて会って緊張をしている様子だった。

 当たり前だ。それが普通なのだから。しかし、言いたかった。

 私だと。久しぶりだと。

そのせいか、娘が少年と仲良くなりたいと言う思いが分かると、すぐに叶えてやった。見習いでは、何かと制限がありそうだから、つい親衛隊として昇進させてしまった。

少年を娘や自分の傍においておきたいと、心から思ったのだ。

王はフッと笑う。


「しばらくは見守っておやり」


「……はい」


 シルイドがしぶしぶ頷くのが分かる。

だが、これだけは、あの少年だけは譲れなかった。

 王は内心、細く笑い。もう一度、外を見つめた。




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