特別な人 ~ルウside~
太陽が西に傾き始めている。
正午を告げる教会の鐘の音は、もうとっくの前に告ぎ終わっていた。次に鳴るとしたら、子供たちに帰りの時間だと告げる鐘だろう。
自分の部屋のバルコニーの手摺りに、手を添えてルウは真っ直ぐと前を向いていた。本城の壁はフォークほどの大きさにも拘らず、街や城の外を見る邪魔をしていて、下を向けば森のようなバラ園が、本城へと繋いでいるのが見えた。
前に、マークはあそこからやってきたのだ。男性は絶対に入ってはいけないと言うこの後宮に。
「ルウリアナ様。お支度を」
侍女のマーブルと、侍女見習いのアンリが服を持って入ってきた。ルウはゆっくりと振り返り、微笑みを浮かべる。
「うん。マークは本当に来るのかな」
「もちろんですよ。ルウリアナ様専属の親衛隊ですからね」
「せんぞく?」
「専属と言うのは、その人だけの特別な人と言うことですよ」
アンリの答えに、マーブルは少し違うよ。と囁いた。
「特別、な人」
ルウは胸に手を当てて、目を閉じた。大切だった兄のアーク。そのアークがやった事をマークもしてくれた。それは、つまり。
「そっか、マークはわたしの新しいお兄ちゃんなんだね」
「へ?」
「まあ、ルウリアナ様にとって大切なのは、お兄様のことなのですか?」
呆気にとられるアンリと、楽しそうに手を合わせるマーブルに向かって、ルウは満面の笑顔を向けて頷いた。
「うん! シルイド兄さんも、アーク兄さんも、マークも、同じくらい大切で、特別だから。だから、マークはわたしにとっては、お兄ちゃんなんだね」
指折り数えながら言うルウに、マーブルは頭を撫でて、アンリは肩を竦めた。
(良かった。ルウリアナ様が、まだまだ子供で。強敵ではあるけど、当分は大丈夫そうね。年頃になる前に、なんとしても、マーク様のハートを、ゲットしなくては!)
熱意を燃やすアンリに、マーブルの叱咤が飛ぶ。
「ほら、何をぼんやりしているんだい! 早くルウリアナ様のお支度を手伝いなさい」
「は、はい!」
我に返ったアンリは慌ててルウの目の前に膝を付き、ルウの着ている服を脱がしていく。
(結局は、この身分なのよね。王族と使用人ってね)
アンリはマーブルにもルウにも、悟られぬほど小さな溜息を吐いた。




