報告 ~シルイドside~
「……以上で、報告を終わります」
「うむ、ご苦労」
読み上げた書類を小脇に抱えて、シルイドは一歩、後ろに下がった。
「しかし、わが娘がそれほどまでに強い力を使えるとはな……」
王は自らの顎鬚を撫でながら呟いた。
「恐れながら、申し上げます。ルウリアナ様の力と、その力を引き起こす元凶のマークの事を近隣諸国には内密にしておいた方が、よろしいかと思います」
「それは?」
「もし、この事が近隣諸国に伝われば、とてつもない脅威になります。その脅威から、わが身を守る為に行う手段は一つしかないでしょう。早い内から……」
「芽を潰せ、か」
シルイドの言葉を繋ぎ言うと、王は目を閉じて考える。
「このことは、他の国には?」
「まだ伝わっておりません。隣国には親衛隊の一人が山賊に襲われた為、その者だけは棄権させると伝えておきました」
「なるほどの」
王は口端を上げて、若き青年を感心する。シルイドは年齢的にはまだまだ若輩者だが、器と中身がしっかりしている青年だ。
本来ならば、親衛隊の隊長に選ばれることも、入隊することも出来ない卑しい身分の出の彼だったが、アークと同じ年の親友だった事もあり、入隊が許されたのだ。
何故、息子がシルイドを推薦したのか、数年前までの王では到底、考えられなかったことだが、今思えばそれは、固定概念のせいだとはっきりと言える。
もし、シルイドに器や中身が無かったら、例え息子の推薦だったとしても、今この場にはいなかっただろう。
ルウのことも何かと面倒を見てくれている頼りがいのある男だ。彼の小さな気配りを見るたびに、王はルウと彼が結ばれる事を願った。年は十五も離れているが、問題は無いだろう。王ですら、十二も離れた第三妃がいる。
この考えがルウを一番、幸せに出来る方法だと思っていたし、亡くなったアークも喜ぶだろうと思っていた。
だが、その考えを改めなくてはいけないかもしれない。今回の事故で、マークは命を賭してまで、ルウの説得を試みたらしい。それはアークが以前やったことでもあり、二人の絆の深さを考えらせるものだ。
「シルイドよ」
シルイドは相変わらずの無表情でこちらを見る。
「マークと話しがしたい。起き上がれるようになってから、謁見することを伝えてくれ」
「分かりました」
シルイドは踵を返して、扉に向かう。ドアノブに手を差し出すのを見て、王は口を開いた。
「シルイドよ。もし、お主がルウリアナと婚姻を結べと言われたのならばどうする」
シルイドは振り返らずに答えた。




