表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖騎士マーク物語  作者: 海埜 ケイ
22/31

再会と絶望



「か、数が、多い、ですね」


 肩で呼吸をしながら、マークは剣を休めなかった。

 半ば勢いで戦い始めたものの、相手の数と力量で、マークはかなり苦戦を強いられている。


「はあ、はあ。ルウ様との、屋根上りが、役に立つとは……」


 マークは地上を見下ろして、山賊たちの様子を見ると、仲間同士、入れ替わりで縦横に探し回っている。

 最初に二、三人、蹴散らしてから、暗幕弾を投げたところまでは良かった。だが、その先のことは考えていなかった。

 必死になって木の上に登り、木々に隠れたものの、これでは身動きが取れない。

 その上、いつ見つかってもおかしくない状況である。

 とりあえず、見つかるまで、体力を温存しようと考えて、マークは目を閉じた。

 瞼の裏はキラキラとゴミが星のように瞬いては消えた。白い靄のようなものが広がり、そこには暗褐色の髪に蒼い瞳をした青年と、緑色の髪と瞳をした女性が何か、話をしているのが見えた。

 女性は青年に向かって何か怒っているように見えて、青年は真顔でそれに答えていた。

とても平穏で暖かな空気がその場に広がっている。マークはその風景に心を溶かして同調した。

 それはあまりにも平和で、あまりにも理想的な風景だった。


「いたぞ!」


 その声と共に、マークは身を起こして、下を見た。すると数人の男たちがマークのことを見上げたり、指を差している。


「まずい!」


 マークはすぐに起き上がると、別の枝に向かって跳躍した。

 ガン。

 背中に硬いものが当たり、マークはバランスを崩し、落ちた。地面に激突する瞬間、身体を反転させて衝突の威力を抑えて、地面に足を付いた。


「格好良く決めましたのに、見事に囲まれていますね」


 そう言って、剣を構えるマークに、山賊たちは一歩ずつ、近づいてくる。

 後ろに下がれば、背中を切られ、前や左右に動けば戦闘の合図になる。どう動いても、闘うことは避けられない。


(いい加減、腹に決めますかね)


 シアルファ家に生まれた男子に課せられた使命。

 それは“大切な人を守るには、まず自分を大事にする”こと。今のマークに、大切な人はいない。

 今の状況からでは、自分を守ることさえ怪しい。


(聖騎士マグナ様。僕に貴方様のお導きを)


 胸に手を当てて祈ると、マークは地面を蹴って走り出した。

 どう行っても闘うことは避けられないのならば、ここは正面突破に賭けるしかない。


「はあああああ」


 剣が敵に触れる直前、真上から轟音が轟き響いた。

 マークと山賊は咄嗟に、後ろへ下がり、見上げた。


「マーク! 大丈夫?」


「ル、ルウ様!」


 思いもよらない登場に、マークは半歩たじろいだ。


「どうして、ここに……」


 マークの言葉を最後まで聞かずに、ルウはエア・フォースから飛び降りて、マークに抱きついた。

 温かい。

 マークの鼓動をルウの身体が聞いている。まだ生きている。側にいる。それだけで、十分だった。


「マーク、ごめんなさい。私、自分勝手な事で、マークを困らせた。でもね、私、本当は……」


 最後まで言えなかった。

 ルウの姿を認識した山賊が、弦を引いて矢を放つ。マークはルウの肩を掴み、地面に無理やり伏せさせた。


「……っつ」


「いっ……」


 地面に頬が擦れ、呻き声を上げる。だが、上からも同じように痛みを堪えるような声が聞こえたので、ルウはすぐに仰いだ。


「マーク!」


 叫び声を上げるルウに、マークは弱々しくも微笑みを浮かべた。右肩に矢を貫通させながらも。


「すみません。王族を地べたに説き伏せたとなっては、よくて降格、悪くてクビですね」


「でも、それは……」


「ルウリアナ様。最後に言わせてください」


 一度、言葉を切ると、マークはこれ以上ないほどの満面の笑みを浮かべて述べた。


「僕は、元気なルウが大好きです。いつも、笑顔でいてくださいね」


 涙腺が緩み、視界がぼやけてしまう。せっかく、マークが初めて自分に向けて笑顔を見せてくれているのに、涙が邪魔をする。

 必死に袖口で拭いても、次から次へと溢れ出てくる涙を止めることはできなかった。


「さようなら、ルウ」


 その言葉を耳にした瞬間、目の前の影が動いた。


「うおおおおおおおおおお」


「怯むことはない、奴は手負いだ。右側から攻めなさい!」


「「おおおおおお」」


 いくつもの声が交差する中、マークは叫ぶのを止めなかった。そうしていれば、自分を活気付けることができる。



“大切な人を守ること”



 それが守れるのならば、自分の命など惜しくも何ともない。マークは柄を握る力を強めて、敵に向かう。

 その後姿を見て、ルウの瞳に違う光景が映し出された。



~・~



『ここは、僕に任せて先に行ってください』


 暗褐色の髪に蒼い瞳をした青年が、赤い髪に緑の瞳をした青年に向かって言う。


『ふざけるな。お前を置いていけるかよ』


 怒り口調で言う赤い髪の青年に、暗褐色の髪の青年は弱々しく髪の毛を梳いた。


『う~ん。そう言われるのは嬉しいけど、君には他に助け出したい人がいるんだろう?』


 図星を刺されて、赤い髪の青年は口篭る。


『大丈夫。スグに追いつくからさ。聖騎士である僕を舐めないでよね』


『必ずだぞ……』


 暗褐色の髪の青年は笑顔でそれに答えた。赤い髪の青年は先に急ぎ、その場から立ち去った。



~・~



「ダメ……。置いてったら、ダメ」


 手を伸ばすルウだが、宙を漂うだけで何も手にすることはできない。あの時、青年は友人を置いて先に行ってしまった。友人を信じていたからできたことだ。

 ルウも、マークを信じたい。だが……。


「はあっ!」


「ぐおああ」


「何やってる! 怪我してる右に回りこめ!」


「づっ!」


「今だ! 攻めろおお」


 こんなのはない。一方的な戦い。マークはまだ子供で、相手は成人した大人だ。いくら、マークが首席で、最少年の親衛隊になったとしても、勝ち目などあるはずがない。


「きゃあ!」


「! ルウ!」


 腕を掴まれ、喉元に斧の刃を当てられた。振り返ったマークは肩で息をしている。矢は刺さったままだ。


「降参しなさい。さもなくば、このお嬢さんの首が飛びますよ?」


 荷物になった。

 自分のせいで、マークが危険に晒される。


「ダメ! マーク、戦って! それで、こんな奴らをやっつけちゃえ!」


 ルウの訴えも空しく、マークはあっさりと剣を投げ捨てた。


「!」


「良い子ですね。最初の判断さえ間違えなくば、痛い目に合わずに済んだのに………」


 ルウの横に立つ男が指を鳴らす。


「気絶するまで痛めつけなさい」


 合図だった。


「テメエ、よくもやってくれたな」「死ね死ね死ねぇ」「馬鹿、殺すんじゃねえよ」「泣いて命乞いでもしろよ」


「「ひゃはははははははははは」」


 男たちの暴行に対して、マークは何もしなかった。呻くことも、顔を歪ませることもせずに、耐え続けていた。

 普段から、親衛隊の訓練で鍛えられている分、意識を遠退かせるには時間が掛かった。正式な親衛隊の服がボロボロになっていく。刃物は使われていないが、腕に刺さった矢を面白半分に抜いたり刺したりするものがいる。


「いや……」


 マークの身体が崩れ落ちる。だが、ただで横にはしてくれない。途中、膝で、足で、マークを何度も宙に浮かせた。


「ダメ……」


 横に倒れても、男たちはマークを蹴りつけることを止めなかった。


「いやだぁ……」


 ルウは拳を握り、自分の手の平に爪を立てる。


「もう……」


 ルウの身体が発光する。


「! なんですか」



「やめてえええええぇぇぇぇぇぇ!」



 ルウの背中から金色の刃が無数に飛び出した。


「うわっ。これは、一体……ぐふっ」


 ルウを掴んでいた男の腹に穴が空く。光の刃は姿を一定化せずに、山賊を襲う。ある者は全身を切り刻まれ。またある者は身体の一部を貫通させられていった。


「あああああああああああああああ」


 叫び続けるルウの身体から、次々と光の刃は飛び出し、ついには木々をなぎ払い始めた。真ん中で真っ二つに割られた木や、根っこごと押し倒される木の姿も、ギランとマギストの目に入った。


「なんだ、これは……」


「悪夢だな……」


 苦虫を噛み締めるように、二人の親衛隊は呟いた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ