マークを探して3 ~ルウside~
手摺りを破壊した後、ルウは城下町を越えて山に向かった。
木々に擦れ擦れで飛び、下を見たが、一つ目の山には見当たらなかった。
「やっぱり、二つ目かな。体力が違うね」
感心しながら、ルウは機体を木々の上を滑らせる。以前、ルウが王と一緒に隣国へ行った時は、二つ目の山まで一日半は掛かった。
それに比べてマークたちは一日で山越えをしたということになる。
「見逃してなければの話だけどね」
ボヤキながら進むと、木々の間に黒い服装をした二人組みが見えた。
「いた!」
通り過ぎてしまったので機体を旋回させるが、この機体、旋回がものすごく遅い。棒を掴む手に力を入れて、身体を斜めにさせても意味がないがやらずにはいられない。
「速く、それで降りて」
ルウの言葉に、機体は急降下した。
凄いスピードで。
「え? うわっ。ちょっ、今じゃない!」
木の枝や葉がルウに襲い掛かる。それでも機体は操縦士を無視して降下し続けた。
「ひゃあっ」
ルウの上着の裾が、木の枝に引っかかる。操縦士のいない機体は、轟音を上げて地面に激突した。
「うわあ。危なかった」
ルウは枝に足をかけて、蝙蝠のように宙ぶらりんになると、左右に反動をつけて枝にしがみついた。
腕を伸ばして縮めて、を繰り返して幹のところまで行くと、後は幹に足をかけて下まで降りていった。
地面に足が付くと、視界が回り、少しふらついた。
「うわあ、何だろう。なんかフワフワと変な感じがする」
ルウはたどたどしくも、エア・フォースの近くまで行くと、その場に崩れて尻餅をついた。
「あれ? もしかして、ルウリアナ王女ではないのですか?」
ルウは首を後ろに回すと、茂みの奥から黒い親衛隊の服を着た二人組みが現れた。マークではない。
「そうだけど、貴方たちは?」
体躯のいい親衛隊が姿勢を正して、敬礼をする。
「これは失礼を致しました。私は親衛隊のギラン・エステードと申します。こちらは私の同僚のマギスト・マルディエラです」
「よろしくお願いしますよ。お姫さま」
皮肉交じりの話し方をするマギストと、圧迫するような物言いをするギランを、ルウは生理的に好きにはなれなかった。
しかし、名乗られたからにはこちらも話さないわけにはいかない。
ルウはドレスの裾を持つような手付きでおじきをした。
「ルウリアナ・フォルス・カリストルです。ここへはマーク・シアルファを捜しに来ました。ご存じないでしょうか」
ルウの言葉に、二人の顔が一瞬だけ凍りつき、ギランは目を反らし、マギストはニヤニヤと笑い出した。
二人の相反する表情を不審に思い、ルウは眉を曲げて二人を見上げ続けた。
ギランは必死に眼を合わせないようにしていたが、ルウの視線に耐えられなくなったのか、ため息を吐いてこちらを向いた。
「彼は、マークは、死にました」
「え?」
「山賊のエリアに一人で入り、亡くなりました」
何を言っているのか正直、理解できなかった。
全身に鳥肌が立ち、血潮が全て氷となって、体温が全て外に出る。震える身体を両手が腕を掴んで体温を取り戻そうとしている。
それでも収まらない震えに、ルウはギランを見上げた。
冷たい表情。今にも泣きそうな後悔の念に囚われている人の顔に見えた。
それをマギストは陽気な調子で、二人の間を割り込んできた。
「馬っ鹿だな。死んだ。じゃなくて、これから死ぬんだろう。今頃は必死になって闘っているんじゃねえの」
声を出して笑うマギストに、ルウは一縷の希望を見出した。
「それじゃあ、まだ生きているの?」
「かもしれないって話しさ。おっ死んでるかもしれないしな」
「なら、どうしてマーク一人が山賊のエリアに行ったの? 貴方たちは止めなかったの?」
その言葉はギランの心を貫いた。自分の自尊心を傷つけられたから置いてきたとはいいたくはない。
そもそもの原因はマークにあり、自分は悪くはないのだ。自分はみんなの安全を第一に考えたのにもかかわらず、マークは自己的理由で(それがなんだったのか、今になってはわからないが)みんなを危険に晒そうとしたのだ。
ギランは必死になって、心の中でそう弁解をした。
そんなギランの心情を無視して、マギストは言った。
「あいつの自己中に付き合っていられるほど、俺様たちは甘くはないぜ。速く進みたいのは分かるが、親衛隊に入ったばかりの奴らが、複数の山賊相手にかなうわけないだろう」
肩を竦めて言うマギストに、ルウは気がついた。
マークが急ぐ理由。
自分の都合のいい解釈かもしれない。けれども、そう願いたい。
ルウはエア・フォースに飛び乗り、浮上する。
「ルウリアナ様!?」
「ごめん。マークは私と仲直りしたいから急いだんだと思う。だから、それはマークのせいなんかじゃない。わたしのせいなんだ!」
エア・フォースは操縦者の心を読み取ったかのように、急上昇をして、ギランたちの前から姿を消した。
ギランとマギストは、枝から離れて振ってくる葉の雨に触れながら、エア・フォースの去った方向を見ていた。
「んで、どうすんだよ。俺様たちも行くのか?」
「…………」
「ちっ。無視するのかよ。俺様は行くぜ。ここで逃げたら男が廃るってもんだからな」
歩き出すマギストの後ろを、ギランは黙って付いてきた。それを見て、マギストは口端を上げた。




