山賊と遭遇
石の増えた山道を、マークは周りに注意しながら進んでいく。昨日、歩いた山道よりも斜面はそれほど高くはないのが救いだ。
草々は足の関節より少し高い程度しかないので、見渡しもいい。なるほど、山賊が根城にするわけだ。
これならば、少し体制を低くすれば、相手に気付かれずに近づくこともできるし、木々も昨日の山に比べて、立派なものが多いので、大の大人が二人登っても大丈夫だろう。つまり、上からも攻撃ができる。
マークが前左右を警戒して、ギランが上左右を警戒、マギストは後ろを警戒することで成り立っている。
マギストが足を速めて、ギランに耳打ちをする。何かあったのだろうか。気になりギランを見るが、ギランは眼を合わせてはくれない。
あの選択で仲が拗れてしまったのだろうか。そうならば、大人気ないものだ。自分で聞いておいて違う選択をされたからといって、普通、相手を無視するだろうか。
モヤモヤと考えていると、目の前に突然、人が現れた。
「うわあ!」
数歩下がり、間合いを取ったが、よく見ると相手はひ弱そうに見える。もし、山賊ならば屈強な男が、獲物を脅して、獲物が怯んだ隙に仲間に囲ませるのが主流だろう。
マークはホッと、息を吐くと気持ちを切り替えた。
「どうなされたのですか?」
「いえ、ちょっとね。あれ、ですよ」
ひ弱そうな男はそう言って人差し指を宙に浮かせた。どこを指しているとも言えない様な指が震えている。
マークは首を傾げて、ギランたちに意見を求めようと振り返った。
「……え?」
後ろには、いかにも山賊です。と言ったような棍棒や鉄の斧を持った男たちがいた。ギランとマギストの姿が見当たらない。
それ以前に。
「囲まれた?」
ゆっくりと、前を向くと、ひ弱そうな男もナイフを持ってこちらを微笑んでいた。
「はっはっは。こんなところに一人で来るなんて馬鹿な人ですね」
「いや、仲間がいたんだけど」
「ここは山賊のエリアです。何も知らずに入れば、その人は獲物、エリアに入らなかった人は襲わないルールになっています。おそらく、貴方のお仲間さんたちというのは、貴方にだけ何も言わずにエリア外を進んだのでは?」
ひ弱そうな男の言葉に心当たりはある。先ほど、耳打ちをしていたのはこれが理由か。
しかし、たかが選択一つでここまでする必要はあったのだろうか。そこまで考えて、ふと思った。
たかがではない。早く帰りたいのを理由に、仲間の命を危険にさらす必要がどこにある。
これは罰だ。
ルウのためと思った自分勝手な言葉が、ルウを傷つけたときと同じように、自分勝手な言い分で、仲間の命を危険に晒そうとした自分に、仲間に疑問を持ちことは許されない。
そうだ、これは自分に対する罰だ。
マークは剣を抜いて構える。
「この人数を相手にするとは正気ですか?」
「素直で無抵抗なら、傷つけることはなかったのによう」
「皆さん。顔だけは駄目ですよ。この者の顔は高く売れますからね」
「「お――――!」」
山賊たちの雄叫びに、マークは身震いをした。
自分に山賊たちを打ち負かすことができるのだろうか。先輩たちに一太刀すら浴びせることのできなかった自分に。
それでも引くことは許されない。
マークは目の前の敵を倒すために、集中した。
「はあっ!」
剣を振るった。




