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聖騎士マーク物語  作者: 海埜 ケイ
19/31

出発 ~ルウside~


 朝靄が、城下町を覆い、城と山を残して海のように見えた。

 ルウは今、勉強部屋にいる。

 あの男がエア・フォースの整備確認をしたいと言い出したので、急遽、翌日の出発となった。

 しかし、その方が良かったかもしれない。先日、部屋に帰る途中で、親衛隊やら騎士やらに羽交い絞めにされた挙句、後宮まで両足を宙吊り状態で運ばれたのだからだ。

 向こうはかなり警戒をしていたようだ。

 ここに来るまでの間も親衛隊の護衛付きだった。

 今も部屋の外で待機している。先日の打ち合わせでは、あの男が勉強の先生に変装して、ここまで来ると言っていたが、まだこない。

 ルウはテラスに出て、手摺りに触れる手の力をさらに込めた。

 ガチャリ。

 待ち望んでいた音が聞こえ、ルウは振り返り部屋の中に入る。部屋に入ると、すぐにカーテンを閉めて、外からは見えないようにした。


「待たせたね」


「本当だよ。遅いんだか……」


「? 何」


「いや、人間も化けるんだなあって、思って」


 ルウの目の前にいる男、昨日とは打って変わっての別人だ。

 整えられた髪、糊の入った制服、背筋も伸ばしている。どこからどう見ても、頭のいい美青年だ。

 ほうけているルウに、男は胸ポケットから煙草を出して銜える。

 火を探したが、生憎とこの部屋のランプは全て消えている。


「ちっ。最悪だな、この部屋」


 貴方の部屋ほどじゃない。そう言いたいのを、ルウは喉に押し返す。今、機嫌を損ねてしまったら、マークに会えなくなってしまう。

 ルウは握り拳を作り、気合を入れなおす。

 その間に、男は胸ポケットから、煙草とは違う筒を取り出した。それは大きさは煙草位だが、鉄か金属で、できている。

 男が筒の先を捻ると、筒から煙がでてきて、部屋を白い霧で充満させる。


「な、なにこれ」


「エア・フォースの粒子さ」


「リュウシ?」


「粒子ってのは……。まあ、あれだ。物質を細かくしたものって言えばいいのか」


 男は煙草を銜えるのを止めて、手で握りつぶす。


「この筒は、物質を原子にさせる力がある。この筒に入っている限り、原子は粒子としてこの中に存在しているが、一旦、外の酸素に触れると、原子は化学反応みたいなのを起こして元の物質に姿を変えることができるんだ。まあ、簡単に言えば、大きい物や、重い物を簡単に楽々と運べる優れものって意味だ。分かったか?」


「う、うん。多分」


 正直言って、最後の方しか良く分からない。原子だの粒子だの、聞いたことのない単語を並べられても、理解できなかった。

 曖昧に答えるルウに、男は特に関心を向けなかった。

 元々、説明下手である彼が、人に物を教えるのは不可能だと思っているからだ。普通の科学者とは違う彼は、だから変人と呼ばれている要因でもある。

 そうこうしているうちに、エア・フォースはその姿を現せた。


「わあ、これがエア・フォース?」


 ルウと男の間に復元されたものは、黒い円盤の上に、先端に丸い塊のある鉄の棒が天井に向かって伸びていて、左右に翼型の鉄の塊が突き出ていた。


「まあ、一応は飛べるとは思うけど、あまり長くは使えないよ。試作品だからね」


「うん、分かった。シサクヒンね」


 棒読みするルウに、男は本当に意味分かっているのか。と思いはしたがそれ以上は何も言わなかった。

 機体を触っていたルウだったが、伸びている棒の先端に注目した。


「これは、何?」


「ん? ああ、それがその機体の動力源。エンジンだよ」


「えんじん?」


 首を傾げるルウに、男は頭を掻いてイライラを押さえた。ただでさえ、煙草が吸えないうえに、子供の何で? 何で? 攻撃がきては、男の沸点も短くなる。


「うっせぇんだよ。乗るか乗らないかどっちかにしろ。クソ餓鬼」


 ルウは肩を震わせて、それ以上は何も言わなかった。本当はクソ餓鬼とはどう言う意味なのか知りたかったが、それを尋ねたら今度こそ、エア・フォースを貸してはもらえなくなるだろう。

 ルウは機体の黒い円盤に乗ると、機体の先端が青白く光りだした。


「おお」


 機体は緩やかに浮かびだし、地面から離れていく。ルウは男よりも少し目線が高くなった。


「おい、クソ餓鬼」


「はい!」


「腕を出せ」


「?」


 ルウは左腕を男に突き出すと、男はルウの手首にブレスレットの様な物をつけた。鉄を繋げた様なバンドの上に紫色の宝石のような丸いものがはめ込まれていた。


「これは」


「実験。昨日約束しただろう」


 男の言葉にルウは少し肩透かしを食らった。てっきり実験というのだから、解剖されたり開きにされたり、変な水につけられるのかと思っていた。

 キョトンとするルウに、男は説明した。


「帰ったら、それは返してもらうからな。何を調べるのかは、手前の知るところじゃねえ」


 男はルウに聞かれる前に、質問を拒否した。

 ルウは仕方なく、機体の棒の先端に手を触れると、光が急速に輝きを増した。


「うわあ!」


「離すなよ。その先端にある数珠の一部が、手前の頭の中と直接リンクして行動するようにプログラムしといたんだ。その光は、ロード中って訳だ」


「り、りんく? ぷろぐらむ? ろうど?」


「質問は無しだ。知りたかったら、手前の教育係にでも聞くことだな」


 教育係。それは……。


「うん!」


「いい返事だ。いって来い!」


「はい!」


 ルウは頭の中で、機体に話しかける。


(お願い、マークの行った山に、私を連れて行って!)


 機体の先端と、翼の先が光り出すと同時に、機体が前に進む。


「え? ちょっと、待って」


 ルウが機体に命令する前に、機体はガラスを割ってテラスに飛び出した。その音を聞き、廊下で待機していた親衛隊が部屋の中に入ってきた。


「な……。これは」


「ルウリアナ姫!」


 ルウの乗った機体は、テラスの手摺りをぶち壊して宙に浮かんだ。


「ご、ごめんね。すぐに戻る」


 ルウはそう言うと、機体を反転させて、マークの向かったという隣国へ進み出した。その速さは馬を遥かに超えたスピードだった。


「あ、あれがエア・フォース」


「禁断の機械」


 呟いた親衛隊は、ハッとなり部屋を見回すが、そこには男が着ていた脱ぎ散らかした服だけが残っていた。


「あの教師、まさか……」


「俺、隊長に報告してくる」


「頼んだぞ」


 同胞が隊長を呼びに言っている間、残された親衛隊は服を掴み臭いを嗅ぐ。ツンとするような匂いが鼻に付いた。


「間違いない。死神ラビットだ」

 




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