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聖騎士マーク物語  作者: 海埜 ケイ
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エア・フォースを求めて ~ルウside~


 ルウは本城の食料庫の中にいた。

 普通、地下の研究室に行くためには、本城の右奥にある階段を使わなくてはいけない。しかし、先ほどの会話を聞いた騎士の先輩が、ルウを研究室に近寄らせないように手配しただろう。

 だが、いくら情報が早く伝わって、右奥の階段で、見張っていても、王族であるルウには関係のないことだ。

 王族は、敵襲が来た時のために、城のありとあらゆる隠し扉や、通路を知っておかなくてはいけない。その勉強を、ルウは五歳の時からやっているから、城の三分の一の隠し通路は知っていた。

 そのうちの一つが、食料庫から、地下へ行くための通路だ。

 ルウはジャガイモの入った木箱をどかして、壁を見る。どこを見ても同じように見える壁の、床と壁の境に手を置いた。


「一、二、三、四、五」


 手を交互に上に当てていき、下から五つ目で、その手を止めて力いっぱい押した。

 すると、押したところの壁が凹み、その横に木箱と同じくらいの大きさの隙間が現れた。大きさにして、ルウの体の半分くらいだ。

 ルウは足からその穴に入ると、その先は滑り台となっていた。


「やっほ~」



 滑り台はすぐに終わり、出口から滑り落ちると、地下にたどり着いていた。ジメジメした石の壁に、ランプ台のランプが、チラチラと炎の先を揺らしている。

 ランプの炎は先を示しているが、その光は奥の闇で閉ざされている。罪と死の牢獄へ続く回廊。その手前に、研究室がある。

 何故、そんなところにあるかというと、それは死罪になった罪人を材料とし、実験を行うためだと言われている。

 ルウは回廊の壁に手を添えながら、進んでいく。

 しばらく経っても、赤茶色の壁と、均一に飾られてあるランプ台から景色は変わらない。自分が歩いているのかすら曖昧になってくる。

 だが、手の平が擦れて痛むのだから、ちゃんと前には進んでいるのだろう。

 そして、ようやく鉄の扉が姿を現した。

 ルウは扉に駆け寄ると、数回、扉を叩いた。


「はい?」


 返事がした。中に人がいることが分かる。

 ルウはホッと胸を撫で下ろすと、扉を見上げた。


「あの、ここが地下の研究所だよね?」


「? はい、そうだけど。扉開いているから、中に入ってくれないか? 扉と話しているみたいで、微妙なんだよ」


 ルウは扉を内側に開けて中に入る。

 正直言って、不気味さにすると外とあまり代わり映えはしない。ランプが一つしか付いていないので、中はかなり薄暗く、部屋の両脇には本棚と、緑色に光る水槽に定期的に泡が立っている。

 部屋の一番奥のランプが置いてある机の前の椅子に座る白髪の男がこちらを見ていた。

 年はシルイドと大差ないだろう。黒いズボンと灰色のタートルネックの上に白衣を身につけている。ボサボサになった白髪と、瞳は藍色だった。顔は端正だが、本人のやる気のなさと同調しているのか、あまりよさそうには見えない。鼻と目の間に、古い傷が一閃に引かれていた。

男は髪の毛を掻きながら欠伸をした。


「んで、何か用?」


 ルウは胸の前に手を置いて、息を吸って吐いた。


「エア・フォースを貸して欲しいの」


「エア・ファースを?」


 ルウは深く頷いた。

 男はルウから目を反らし、深く息を吐いた。


「理由が知りたいね。あんなバケモンに乗ろうっていうのだから、よっぽどの理由がなくちゃあね」


 男はニヤリと笑った。

 明らかに面白がっている。ここで、怒れば、エア・フォースは貸してもらえない。そうなれば、マークと一緒にはいられない。

 ルウは男を睨みつけながら、事のあらましを話した。

 話しを聞き終わると、男は白衣の外ポケットから、葉巻を一本、取り出して火をつけて煙を吸って、吐いた。


「なるほどね。運命の人と一緒にいたいから、エア・フォースを貸してくれってわけか」


 男は煙草を銜えながら言う。

 ルウは真剣な目で男を見続けた。


「まあ、貸してもいいんだけど、条件がある」


「条件?」


 ルウの食いつきに、男はニヤニヤと笑う。


「あんたがルウリアナなんだろ? この国の姫さんの?」


「うん。まあ、そうだけど……それより条件って」


 男は椅子から立ち上がると、ルウに詰め寄った。ルウは男に合わせて身を引いたが、そこは大人と子供、足の長さが違う。すぐに追いつかれて、手首を掴まれた。

 男の顔がこれ以上近くにある。ルウは硬く目を閉じると、耳に男の声と息が吹きかけられる。


「実験させてもらうよ」


 その条件に、ルウは額に青筋を立てつつも首を縦に振った。




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