任務の道中3
結局、マークたちは休めそうな場所を見つけられず、太い枝のある木で眠ることになった。
生まれて初めてする野宿に、マークは寝付けないでいた。
「寝ないのか?」
顔を上げて、右側の木の枝を見ると、ギランが体を起こしてこちらを見ている。
「はい、野外で眠るのや木に登ったのは初めてでして、興奮しているのかもしれません」
苦笑するマークに対して、ギランは特に感情のこもっていない声で答えた。
「それだけか?」
「え?」
「山登りも初めてなのだろう。侯爵家、三男マーク・シアルファ」
マークは何も言わず、視線をさまよわせる。
普通に見習いを通ってきたものならば、訓練の中に、山登りも野宿のやり方も学んでいるはずだ。
しかし、飛び級をしたマークにそんなことは関係なかった。
今まで、食べること、寝ること、勉強すること、訓練することに対して不自由なことは何一つとしてなかった。
ありふれた食事を、自分の好きな量だけ食べて、いつも清潔なベットで眠り、計算された勉強量だけをやり、訓練も専門の人に見てもらっていた。
何不自由のない暮らし。それを、ギランは妬みとして今、使っている。
マークはギランに目を戻して苦笑した。
「ええ、その通りです。初めてのことで、あまり上手くいかないことが沢山あります。でも、それを一つ一つ乗り越えれば、私も本当の意味で皆さんの一員になれる気がするのです」
マークの言葉をどう思ったのかは分からないが、ギランは「そうか」と呟き、顔を背けた。
「明日も早い。できるだけ早く寝ろ」
マークはその言葉に従い目を閉じた。
疲れていたこともあり、睡魔はいとも簡単に、マークの中に潜り込み、マークを夢世界へと送った。
その夢の中で、マークは自分とは似ても似つかないような青年となり、紅い髪の青年と楽しげに笑い会っていた。どこかで見たような光景だが、マークは気にせずに、その夢に浸った。




