マークを探して2 ~ルウside~
「あ! いたいた。ちょっと、そこの騎士見習いさん。止まって止まって」
城壁の上で、ルウはようやくマークの同室の友人に出会えた。
友人は振り返り、改めて見るルウの姿にぎょっとした。左右見回し、他に見習いがいないか確かめるが、いるのは二人組みになった先輩だけだ。
友人は肩を竦めて、ルウが近くに来るのを待った。
ルウは肩を上下させて、息を整えてから用件に入る。
「あのさ、マークがどこにいるのか知らない?」
「マーク、ですか? さあ、朝会ったきり、会ってないっすよ」
「そう……」
ルウが肩を落としている間に、友人は先輩に槍の柄で頭を叩かれていた。
「王女になんて口の利き方をしているんだ!」
「いってぇ、酷いなあ。一応、許可は貰っているんすよ?」
「そういう問題じゃない!」
友人は再び槍の柄で頭を叩かれた。
「そういえば、マーク・シアルファと言えば、史上初の十代で正式な親衛隊になった子のことか?」
「今さら、何を言ってるんすか? そのマークに決まっているでしょう」
友人は頭を押さえながら、唸るように言った。
先輩は友人のことをさほど、気にした様子もなくルウに話す。
「彼なら、国外追放されましたよ」
あっさりと言う先輩に、友人とルウは目を見開いて、驚き彼を凝視した。
「国外追放って」
「どういうことなんですか! 先輩!」
詰め寄ってくる二人に、先輩は腕を組んで半歩、身を引いた。
「落ち着いてください。国外追放って言う名の任務ですよ。任務」
「任務?」
「そう、これは正式な親衛隊になったばかりの連中に、必ず行われる任務の一つです。趣旨は分かりかねますがね」
肩を竦める先輩に、ルウは上目遣いで尋ねた。
「いつ頃、帰ってくるの?」
「さあ? 最低でも半年、歴代の中では二十年も帰れなかった人もいますしね。分かりません」
半年から二十年も、国を留守にするというのか。もし、そうなってしまえば、ルウの世話係は完璧、違う人間がやることになる。
ルウは拳を握り、顔を上げる。
「国外追放って、どこに行ったのか分かる?」
「? ええ、大抵は隣国ですね。ほら、歩いて六日の馬車で四日はかかるっていう、西国のことです」
「四日もかかるの? 早く行ける方法はないの?」
「今のところはありません」
先輩の言葉にルウは重石を乗せられたようだ。追いかけたくても、馬車では人目につきやすいし、徒歩では大人な彼らに追いつくことは不可能だ。
それでも、やるしかないのだろうか。
「でも、先輩。エア・ファースっていう乗り物なら、二日で着くっていう話じゃないですか?」
友人の言葉に、ルウは再び友人を見た。
「エア・ファースって?」
「空飛ぶ乗り物ですよ。鳥のように空を走ることができるので、その速さは鷹や馬をも超えるそうです」
ニッコリと笑う友人に、ルウは希望の光を見た。
「わかった。ありがとう」
ルウは踵を返して走って行った。
「? 何がありがとうなんすかねえ?」
首を傾げる友人に対して、先輩はドスの効いた声で、一語一句、区切って言った。
「お、ま、え、はぁ~!」
ドカッ。ゴン。
その音と同時に、友人はコメカミを城壁の壁にぶつけた。バンダナを巻いていなかったら死んでいただろう。
友人は頭を押さえながら、先輩を見上げようとしたが、焦点が合わない。
「な、何するんすか。先輩」
「この馬鹿が! あんな情報を姫様に教えてどうすんだ! すぐに親衛隊の奴らにも教えないと」
「教えたら、どうなるんすか?」
「脱走だよ」
先輩はそう言い捨てると、友人を無視して走り出してしまった。友人は起き上がらずに、空に浮かび始めた星々を見上げた。
上は群青、下は橙のグラデーションの真ん中部分で見え始める星々は、まるでおとぎ話の挿絵のように見えた。