マークを探して ~ルウside~
本城と城壁を繋ぐ大通りの両脇には、右に親衛隊の兵舎と、左に騎士の兵舎が聳え建っていた。
この位置付けは、騎士も、親衛隊も共に王族と城を守る役割だからである。
ルウは人通りの皆無な大通りを走り、親衛隊の兵舎に向かった。城の三分の一ほどしかない兵舎は、二階建てである。
ここは主に、任務のない人が集まり、勉強をしたり話し合いをしたり、稽古をするためのたまり場でもあった。
ルウは木の扉についている鉄の輪を握り、軽く鉄の板に打ちつけた。
カンカンカン。
しばらく経っても、返事がない。やはり、夜でないと、人が集まらないのかもしれない。
ルウは期待していた分だけ、肩を落として立ち去ろうと踵を返した。
「ルウリアナ様。何をしているのですか?」
「! シルイド兄さん」
顔を上げると、書類の束を持ったシルイドが立っていた。
シルイドはルウの顔をじっと見ると、すぐに怪訝な顔をした。
「? どうしたの」
「いえ、マークでも駄目だったのですね」
シルイドの言葉に、ルウは言葉を詰まらせた。
シルイドは落胆の色を隠すように、目を閉じて顔を上げると、いつもの仏頂面に戻っていた。
「新しい人材を派遣させることにしましょう。王にもそうお伝えしておきますのでご安心ください」
「ちょっと、待って今回は違うの。まだ駄目って訳じゃあ……」
「いけません」
ピシャリと言われて、ルウは押し黙った。
「貴女様の力を受けるには絶対的な信頼関係がないと、勤まりません。もし、信頼関係のない人間が、貴女様の傍にいらっしゃったら、その者は確実に」
風の音がシルイドの声を大きくさせる。
「死にます」
ルウは何も言えずに立ち竦んだまま俯いた。シルイドはその様子を見ると、踵を返して来た道を戻って行った。
一人残されたルウは、太陽が橙色に変わるまで、その場から動かなかった。
ルウは以前、自分の中に眠る力を暴発させたことがある。それは大勢の傷者を出すほどの大惨事となったできごとだ。
城は半壊、幸いにも使用人たちの中で、死者が一人も出なかったことだけが唯一の救いである。
民にはそれは数珠の暴発事件ということで公表された。そう、あの時、兄アークが死んだ暴発事件、あれを引き起こしたのはルウである。
賢い兄では研究はやりづらいということで、まだ三歳だったルウが研究室に連れて行かれ、恐怖と自己防衛のために研究所ごと爆破させたのだった。
ルウに近づこうとしたものは全員、見えない刃、カマイタチによって全身をズタズタにさせた。
唯一、近づけたのは絶対的な信頼関係のある兄アークだったが、無傷ではすまなかった。全身が血まみれになろうとも、必死でルウを宥めてやり、最後は出血多量で亡くなったのだ。
アークは最後までルウを抱きしめたまま、微笑を浮かべて絶命した。
それからはルウの世話をしようとする者は格段に減った。その事件のことを知らないで入った者も、年配の使用人たちから話しを聞いてすぐに辞めてしまった。
ルウも自分が周りの人からどう思われているのか知っていたので、わざと世話係を困らせるようなイタズラを始めたのだ。
どんなことがあっても、自分から離れない信用できる人間を探すために。
それが、ようやく見つかったと思った矢先に、これだ。
ルウはマークのことを信頼している。兄アークと同じくらい大好きでもある。
やっと見つけた大切な関係。
ルウは顔を上げて走り出した。
落ち込んでいても、状況は変わらない。ならば、自分とマークの間にある信頼だけは確かめておきたいと思った。
そのためにはマークを探さなければいけない。
ルウはマークの居場所を知っていそうな人の元へ急いだ。