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聖騎士マーク物語  作者: 海埜 ケイ
12/31

任務の道中


 荷物は後で送ると言われていたので、マークたち三人の持ち物は腰の剣以外は、肩から背負っている背嚢だけである。

中身は一週間分の水と食料のみ。隣国までは、徒歩で六日、馬車で四日、最新式エア・ファースで、二日はかかる距離だ。

エア・ファースと言うのは、数年前に作成された空飛ぶ乗り物の名称である。

創世時代、言魂使いと呼ばれる者が扱っていた数珠の一つが材料となっている。

言魂使いとは、数珠に封印された単語を、具現化する力があると言われ、例えば、数珠に書かれている単語を読むと、数珠から炎を出したり、水や雷なども出すことができ、更に単語を文章にすると、天変地異をも引き起こすとも言われている。

その数珠の一つが、数十年前とある遺跡で発見されたのが開発の発端になった。

数珠に書かれている文字がどういう意味なのか、世界中の学者が研究したが、読めなかったらしい。

その文字は異世界語とされ、言魂使いの末裔にしか読めないということが分かった。

もちろん、その末裔を探し出すことは現実的に不可能に近いので、その文字が読める者は今のところ唯一人もいない。

しかし、数年前、ルウとティナの兄、アークが発した『空』という言葉に数珠が反応して、効力を表したのだと言う。

それ以来、その数珠は『空の数珠』と呼ばれるようになった。

アークは他の言葉でも、一つでも多くの数珠の力を解放しようとしたが、二年前の数珠の実験で爆破事故を起こし、アークは絶命した。

そのため、『空の数珠』は風系統の力しか出すことができないでいる。

ティナとルウにもその力があるかもしれないと、研究者たちは次の目標に手を伸ばそうとしたが、第一王子を失った王の怒りにより、科学者は全員極刑となった。

以来、数珠の力の解放の研究は中止となっているが、解放されていた数珠から、新しい何かを生み出そうとする科学者は後を絶たなかった。

人類の可能性を秘めた数珠を放置しておくには惜しかったのと、周辺国との差を付ける為と大臣たちが王を説得し、「人の役に立つもの」と言う条件でだけ、研究を許可したのだった。

そうでなくては、アークの死は無駄死にということにもなるとも説き伏せられたらしい。

そして、『風の数珠』の力を使って造り出したエア・ファースは、まだまだ試作品の域を超えていないため、実際に使われていない。

 試作品とは言え、実験で一応は隣国と往復くらいはできる為、後、数年で一般化されるかもしれないとも言われている。



 道なき道を歩かなければならないマークたちにとって、一刻も早くエア・ファースの一般化を望むものはいないだろう。

 膝下まで生い茂る雑草は、葉の部分が異様に硬く、掻き分けながら歩かなくては先に進めない状態だ。

 マークは最後尾を歩いているので、それほどでもないが、先頭を歩く黒髪の隊員は大変だろう。

 そんなことを考えていると、黒髪が急に立ち止まった。金髪は怪訝な顔をして、黒髪に突っかかった。


「んに、してんだよ。とっとと歩けよ。熊野郎」


 黒髪は何も言わず、少し進み、脇に避けた。金髪とマークが黒髪に並ぶと、そこはあまり草の生えていない広地になっていた。


「休憩だ。少し休んだ方がいいだろう」


 黒髪はそう言うと、自分の背負っていた背嚢を、地面に置いて自分も腰を下ろした。

 金髪は黒髪を鋭く睨み、腕を振るわせた。


「ふっざけるなよ。手前が何、指揮ってるんだよ! 俺様が最年長だ。俺様が指揮をするに決まってんだろ。なあ、小僧?」


 いきなり話を振られて、マークは半歩、身を引いてたじろいだ。

 正直、一番の最年少であるマークに指揮が回るとは思っていない。それゆえ、二人のどちらかとは思っていたが、どちらかといえば返答に困るものがある。

 それはマークが二人のことを知らな過ぎていることが原因だ。訓練でも、まだ全員と二人組みになっていないし、任務でも一緒に見張り番をしたことはない。(それはマークの任務の主がルウの世話係ということも原因の一つである)

 従って、今ここで二人のどちらかに命を預けろといわれても、どちらも信頼性に欠けるので答えられない。

 ならば、質問するしかない。


「あの、ぼ……私はまだ、お二方の名前すら知らないんですけど」


「はあああああああ? お前、馬鹿? 馬鹿だろ? 馬鹿すぎるだろ? 親衛隊の見習い時代、俺様のことを知るものはいなかったほどの超有名人、マギスト・マルディエラ様のことを知らないなんて、本当にお前さんは馬」


「俺は、ギラン・エステード。お前はマーク・シアルファだったよな。道中よろしく」


 黒髪のギランは金髪のマギストを無視して立ち上がると、マークの前に立ち、握手を交わした。

 無視されたことに怒り、マギストはさらに喚き散らす。正直言って、指揮を任せるとしたら、冷静なギランのほうが断然いいと思った。

 本当にマギストの方がギランより年上なのか、疑ってしまうほどだ。


「それで、小僧はどうする? 休むか、歩くか?」


 名前を知っていながら、小僧と呼ぶということはギラン自身もマークのことを信用していないということだろう。

 それはお互い様と言うことだ。

 しかし、隊長は三人で行けと命令をした。つまり三人のチームプレーも兼ねた任務だということだろう。

 マークは少し考えて答えた。


「休むべきですね。今までの道を考えるに、この先に、またこういう広地があるとは限りません。休める時に休む。これが旅での基本的事項だと思われます」


 その答えに満足したのか、ギランは何も言わずに座りなおした。マギストは、「ウキ――っ!」と、猿のような奇声を上げてから文句を言いつつも従った。

 マークはホッと胸を撫で下ろして、自分も空いている場所に荷物を置いて腰を下ろすことにした。

 夕暮れにはまだ時間がある。しかし、ギランの決定で、ここで休むかそれとももう少し進むかが決まる。

 できることならば早く進みたい。そして早く城に戻り、ルウに一言謝りたいとマークは思っている。

 今回のことは自分のお説教が原因だ。

 このことからは言い逃れできない。

 ルウの主張もちゃんと聞けばよかったと後悔もしている。しかし、それはいくら自分の中で後悔していると思っていても、相手に伝えなくては意味がない。

 本当ならお互いの頭を冷やして、明日の朝にでも頭を下げたいと思っていた。それが、急な任務のため、当分は城に、いや国にすら戻ることができない。

 それまでの間、ずっとルウと喧嘩している状態と言うのも居心地が悪い。

 マークはため息を吐いて空を仰いだ。

 枝から生えた葉っぱ達が、淡い青色の空を半分だけ覆い隠している。

 鳥達が通り過ぎると、風ができて木々の葉を揺らした。


  

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