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聖騎士マーク物語  作者: 海埜 ケイ
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序章

初投稿です。よろしくお願いします。




その部屋は白に包まれていた。

北の谷から厳選された堅い石を切って運び、簡単には崩れない様に組み立てられた後、その上から白い塗料を塗られているからだ。

白は汚れなき王の威厳を象徴する色で、この部屋の白は少しの濁りも見当たらない。

学校の教科書には職人たちが数十年の月日を掛けて造られたと言われ、今では通称玉座の間と呼ばれている。

 内装としては、窓枠に赤いカーテンが垂れ下がり、日中は部屋全体に日が行き届けられるような窓造りになっているのが特徴的だ。

それ以外に、大した飾り気はなく、唯一きらびやかなのは中央奥にある四つの椅子。

その一つに腰を下ろしている人物がいる。

顔を上げなくても、以前、肖像画でその姿を見た事がある。


カリストル王国、国王ーールデス。


座っているだけで威厳を放ち、側に居る者たちは常に重圧を掛けられている。

今年で三十八歳になるが、他国からはまだまだ若いと噂されていた。

熟れた果実の如く紅い髪と緑色の瞳は、この国の英雄王と瓜二つとも言われている。


(この人が英雄ルキアスの子孫か……)


 英雄ルキアスの物語は、この国の者なら誰でも知っているし、ましてや騎士を目指すものなら諳んじる事もできるほど有名だ。

 生唾を飲み込みながら、頭上から感じる威圧感に、押し潰されないよう懐に拳を握って耐えている。

 ルデスは立ち上がり、朱色のマントを床に引きずらせながら、少年の元へ行く。

 樹海の様に深い深緑の髪は肩の辺りで切り揃えれているが、癖っ毛なのか所々、跳ねてしまっている。

今は目を閉じているが、瞳は群青に似た蒼だという。

 白いシャツと青色のスウェットの上に鉄の胸当てや膝当てを仕込み、さらにその上に膝下まである青色の上着で、中の重装を隠す。

 何時いかなる時も敵の襲来を気にしつつ、見苦しくない格好であるように。

それが親衛隊としての心得だと教わった。

少年は固唾を飲み込み、王の足取りを耳で聞く。


ーー音が消えた。


 ルデスは控えていた従者から銀色に光る刃の剣を受け取り、天井に刃を向ける。


「神竜の御霊を宿す我らが一族を、汝、光りを持って護らんとす」


 謳い文句が始まった。

 マークは早鐘を打ち出す鼓動を押さえるだけで精一杯だ。他には何も考えられない。


「光り背負いしその身体、その心を捧げんとす。汝、その覚悟はあるか?」



「我が身、我が魂は王と共にあり」

 



~・~




幼いころから、剣技や教養を叩き込まれてきたおかげで、少年マークは親衛隊の見習いとして選ばれたのだ。

この記録は歴代二番目の最短記録とされている。

ちなみに史上初は十四歳で、見習いになれた現在の親衛隊隊長である。


「……これによりマーク・シアルファを親衛隊見習いに任命することをここに表する」


「ありがとうございます」


 マークは頭を下げたまま、親衛隊の証である剣を、王から手渡しで受け取った。

 銀で細工をされた柄には、王家の紋章である隻眼の黒い鳥が施されている。これは英雄ルキアスが考えた紋章らしい。

 マークは震える手で柄の部分を触り口実を述べた。


「わが身、わが命は王族と共にあり。どんな困難に陥ったときでも主君の命を優先とし、主君の剣となり、盾となることをここに誓います」


「頼むぞ」


「はい!」


 勢いで言ってしまってから、顔を赤面させた。

ここは声を出さずに後ろに下がり、隊長と共に敬礼をしてから部屋を退出するはずだった。

 間違いに動揺して固まってしまうマークを、王はどうするのかと見つめている。

この後、どうすればいいのか。

頭の中が真っ白になっているマークには考え付かなかった。


「父上様―。見習いさんの任命式、終わった?」


 王族用の謁見の間に出入りする扉から、赤く髪の長い少女が顔を出した。


「あ、まだだったんだ。失礼しまし…………えーーーっ」


 少女は引っ込めかけた顔を、途中で体ごと扉から出して、マークを指差した。


「嘘――。こんなに小さい子が見習いさんなの?」


「ルウ」


 王は振り返り、わが子を宥めようとしたが、ルウはお構い無しにマークの前まで来た。


「ねえ、お名前は?」


「え、マーク・シアルファですけど……」


「マーク! マークね。あたしはルウだよ。ルゥなんとか。よろしくね」


 手を差し出すルウに、マークはどうすればいいのか分からず困惑する。

 そんなマークを不思議に思いルウは首を傾げた。


「握手だよ。握手。知り合って仲良くなるときは握手をするって、父上様が言ってたんだよ」


「いや、仲良くと、言いますか。ぼ……いや私とあなた様では身分が違いすぎますから。そのような事は行えません」


「どうして?」


「いや、どうしてって……」


「あたしが良いって言うのだから、握手をしなさい!」


 言い放つルウに、王は噴き出して笑った。

 扉付近で待機していた隊長は半眼で、マークを睨んでいたが、王の笑いに戸惑っていた。


「いやあ、はっはっは。マークよ。お主、このじゃじゃ馬姫に気に入られたな」


「はあ」


「これ! 気のない返事をするではない!」

「は、はい!」


 背筋をピンと伸ばしたときに、ついマークは顔を上げてしまった。本日二回目のミスだ。

 隊員や貴族以外のものは、王族と顔を並べて話しをしてはいけない決まりになっている。

 王はそんなことを気にもせず、マークの肩を掴んだ。


「こんな事は、初めてだ。あのじゃじゃ馬姫のたずなを操れそうな人間を、乳母以外にわしは始めてみたぞ」


 目を丸くしつつも、マークは嫌な予感が離れない。

 王からのとどめの一撃。


「わしはお主を見習いではなく、正式な親衛隊として認めるとこにしよう。そして、じゃじゃ馬姫こと、ルウリアナの面倒をお前に一任する」


「えええええええ――――――っ」


「よいな」


 ニッコリと笑う王に、マークに拒否権はない。


「は、はい」


「王よ、それでは他の隊員の反感をマークは買う事になりますよ!」


 遠くで見ていた隊長が、マークの斜め後ろに立ち抗議する。このときほど、マークは隊長に感謝したことはない。

隊員は王とは話すことはできないが、隊長だけは直に王と顔を合わせて話をすることができるからだ。

 ちなみにこれも、英雄ルキアスの時代に作られた決まりだ。ルキアスは親友であり騎士であるマグナと話をしたいがために、この決まりを作ったのだと言われている。


「ふむ、その点は問題なかろう。反感をするのならば、その者にマークの代わりをさせる事にすると言えばな」


 押し黙る隊長に、マークは内心、どれだけ辛い労働なんだよ。と思っていた。

 当のルウはキョトンとして、父である王を見上げている。王はそれに気付き、ルウに話した。


「このマークが今日からは、お主の世話係兼親衛隊になったぞ」


「しん、えーたいって、シルイドお兄ちゃんみたいな人のこと?」


 シルイドとは隊長の名前である。


「ああ、そうだ。その上、世話係までしてくれるぞ」


 頷く王に、ルウはパアッと笑顔になった。

マークは内心、なんだか王は、親衛隊の仕事よりも世話係のほうを重視しているようにしか考えられないのは気のせいだろうか。と思っていた。

ルウはマークに再び握手を求めた。


「はい!」


 ニコニコ笑うルウに、マークは悟った。

 小さい頃から夢見ていたカッコいい親衛隊の夢は、今ここで終わるのだということを。

 マークは内心、泣きながらルウの手を握った。


「よろしくね」


「よろしくお願いします」


 このあどけない笑顔が、マークの平穏な日常をかき消す事になると、マークは覚悟を決めていた。


 当時、マーク十五歳、ルウ五歳のできごとだった。




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