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新訳・棚ぼた物語

作者: 香宮 浩幸

疲れた頭を癒していただければ幸いです。


読んでくださる方に感謝を。



:棚からぼた餅: 思いがけない幸運が舞い込むことのたとえ。


:ぼた餅: もち米とうるち米を混ぜて炊いたご飯を軽くついて丸め、餡や黄粉をまぶしたもの。春秋の彼岸に仏前に供える。春に作るものを「ぼた餅|(牡丹餅)」、秋に作るものを「萩の餅(おはぎ)」とする説もある。


      明鏡 ことわざ成句辞典より抜粋






 俺はゴールデンウィークにもかかわらず、家でゴロゴロとしていた。高校生にもなって趣味もなく、部活にも入っていない俺にとっては長期休暇など不毛以外の何物でもない。


 などと夢も希望もないことを考えていたら、台所からいい匂いがしてきた。その方向に耳を向けると、母Hと妹の会話が聞こえてきた。


 「お母さん、このお菓子は何て言うの」

 「これはねえ、おはぎって言うのよ。ホントは瑠奈のおじいちゃん達への贈り物なんだけれど。余っちゃうから食べていいわよ」

 「ほんとに。早く食べたい」

 「ちょっと待ってね。今からおじいちゃんたちのところにお供えしてくるから」

 「あっ、私がやりたい」

 「うーん、分かった。じゃあお母さんが抱えてあげるわ」

 「やったー」



 どうやら、二人は俺が陣取っている衣装棚に向かってくるようだ。そこに仏壇があるからな。

 などと思いつつも動くのが億劫だなあと思っていると、二人がやって来た。


 「お兄ちゃん、ちょっと今から仏壇にお供えするから、のいてくれない」

 「へいへい」


 そう言いながら、俺は頭を軸にして体を180度旋回させた。これで仏壇の下は開いたはずだ。


 「ほんとにあんたは動かないわねえ。まあ、そこならいいか。瑠奈、お皿はもった?」

 「うん、持ったよ」

 「じゃあ、今から持ち上げるけど、絶対にお皿から手を離しちゃだめよ」

 「うん、分かった」

 「じゃあ、行くわよ」


そのままお皿を持った妹は母に抱えられて、仏壇にぼた餅を置く。一つ、二つ、三つ、四つ。そして五つ目になった。


「お母さん、もう置くとこないよ」

「じゃあ、その上に置きなさい」

「うん、分かった。あっ」


最後に四つ置かれたぼた餅の上に置かれたぼた餅は、バランスを崩して、俺の顔に向かって、いや口に向かって……


「ムグッ……、ふっ、ぐっ」

「お兄ちゃん、大丈夫?」


大丈夫ではない。熱いぼた餅がのどに詰まって、ヤバイ意識が……


「お父さん、救急車を呼んで、早く」

「お兄ちゃん……」


のどに棚から落ちてきたぼた餅が詰まって、救急車を呼んだ人間は前代未聞ではなかろうか。そう、おもいながら俺の意識は消えていった。


処置が早かったおかげで、後遺症もなく退院できたものの、結局ゴールデンウイークは棒に振ってしまった。まあ、何もなくてもそうであった気もするが。


うん、今後ぼた餅を供えるときは棚に近づかないようにしよう。俺はそう誓った。



:棚からぼた餅:思いがけない不幸が舞い込むことのたとえ


       香宮新訳ことわざ成句辞典より抜粋


笑っていただけましたでしょうか。

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