信用
今でも鮮明に思い出せる。
『私君のこと好きなんだ!』
突然の告白。
それは、僕がずっと想い続けてた相手からだった。だから、嬉しさのあまり、その場で涙を流してしまった。
嬉しくて、テンパって、驚いて、自分がその告白に何て返したのかちゃんとは思い出せないけれど、これだけは言えたのを覚えてる。
──僕も、君のことがずっと好きだった。
それからは、毎日が楽しかった。
学校で会えば、授業が始まるまで話し。お昼はいつも2人で食べた。放課後は、デートという名の寄り道もして。
家の方へと別れてからも、どちらかが寝るまでずっとメールもした。
そんな毎日も、気付いたら1年近くが経っていた。
楽しい日々を送る中、常に僕の中で一つの疑問が消えないままでいた。それは、
"何で僕を好いてくれたのだろう……"
そんな、側から見ればどーでもいいと思われるような事だった。
自分を客観的に見ても、顔は中の下。成績だって普通。運動だって何かが特別優れているわけでもない。
ようは、僕は普通の男子。それなのに彼女は僕は好いてくれた。多分、贅沢な悩みなのだと思う。
それが分かってても、気になるものは気になる。しかし、何度彼女に聞いても返ってくるのは『内緒』の二文字。
そんな疑問が解消されぬまま過ごしていく中で、僕のその疑問は不安へと変わっていった。
いつか……振られてしまうのではないか?という、彼女の好意を裏切る最悪の不安へ。
不安というのは怖いもので、本気で好きなのに、本気で信頼してるのに……僕の中で、彼女への不信感が少しずつ芽生えていく事になった。
彼女への罪悪感。自分がそんな最低な事を思う嫌悪感。毎日が苦しくて、常に心の中では泣いていた。
それでも彼女から離れるなんて選択肢は全くなくて、話してる時の幸福感を味わいながらも、会話が終わった後の苦しさは日々を重ねるほどに増えていった。
神様ってのは、想像以上に残酷で。最悪なタイミングで、最悪な情報を僕に渡す事にしたらしい。
ある日、彼女の親友の女子が僕に一言こう言った。
『知ってる?好きな人に告白されて、付き合ったらしいよ?』
僕の中で、色々な疑念が彼女へと向かった。
好きな人?付き合った?……じゃあ、僕は何なの?
親友であるその子は、きっと、仲を確かめるためにでも言ったのだろう。悪気はなかったのだろう。でも……タイミングが悪かった。
不安で押し潰されそうになっている時に言われたその一言は……一瞬で全ての不安を彼女への不信感へと変えていった。
そこからはもう、暴走に近かったと思う。
彼女に僕は、親友の子から教えてもらった事に対して詰め寄った。
──他に好きな人いたんだね。しかも付き合えたらしいじゃん。
詰め寄った……いや、これはもう決め付けに近い。
僕のそんな一言から始まったメール。正常な思考が出来てなかった僕は、謝罪のみを彼女に望んだ。
彼女に確認を取ることもなく、ただただ……僕は彼女に最低な言葉を吐き続けた。
1時間……2時間……メールを繰り返していく中で、彼女は謝ることもせず、ただ同じようなことを言っていた。
『お願い、信じて。私は君が好き。君だけが好きなの』
なぜだろう。なぜ……僕の大事な存在の言葉を信じれなくて……いうほど会話もした事のない、彼女の親友の子の言葉を信じてしまったのだろう。
言い訳なんて、したくはないけれど……本気で好きだからこその不安だった。誰かに取られてしまうんじゃないかという、恐怖だった。
その不安が、恐怖が、目の前で転がされて……僕を一言で表すならこうだろう。
【愚か者】
いつからか、メールの内容は罵声へと変わっていった。ふざけんな。裏切り者。そんな、彼女をただ攻撃する言葉へと変わっていった。
そうしているうちに突然、彼女からメールではなく電話が掛かってきた。電話が苦手で、いつもはメールの彼女。そんな彼女からの最後の電話。
『……もしもし』
彼女は泣いていた。
いつも笑顔で、一瞬にいる僕の方まで笑顔にさせてくれる僕の彼女。そんな彼女が泣いていた。
その声を聴いて、僕はやっと正常な思考へと戻れたんだと思う。ただ……何もかもが遅かった。
『信じて……くれないんだね』
自分で招いた結果な筈なのに、後悔しかなかった。
『最後まで、君のこと好きでいられなくてごめんね……』
ダメだ。何か言わないと……言わないと終わってしまう。
何か言おうとしても、声が出なかった。口は開くがそれだけ。
『さようなら……』
君と交わした会話の内容。君と遊んだ楽しかった日々。それがフラッシュバックの様に流れてくる。
僕はもう、泣くことしか出来なかった。彼女を止める……それはもう、遅すぎる。
僕が泣き止むのを待っていてくれたのか、僕が落ち着くまで"君"は待っていてくれた。
そして最後に、"君"は僕に言葉を一つ置いていった。
『もう好きか分からないけど……君は信じてくれないみたいだけど、私は君のことを──』
「お前には、勿体無い彼女だったのになー」
「……うるさいよ」
あの時から、半年が過ぎた。
同じ学校なのだから、顔を合わせる事はあるが、そこに会話は生まれない。
「それにしても……子供の頃から想い続けるってのは凄いよなぁ」
「子供の頃……?」
幼稚園からの付き合いである友人に、疑問の眼差しを向ける。
「は?気付いてなかったのか?あの子って──」
あぁ……そっか。そーゆー事だったのか。
"君"は最後の最後まで、僕を……。
「信じてあげられなくて……ごめん」
空を見上げると、厚い雲の隙間から、僅かに太陽の光が差し込んでいた。
──今からでも……君を信じてもいいだろうか。
そんな、意味のない事を思いながらも、昔を思い出しゆっくりとした足取りで僕は帰路へとついた。
『ねぇ……なんでいつも、私と遊んでくれるの?』
──別に理由なんてねーよ……俺がお前と遊びたいだけ。
『本当に……?』
──本当だって……はぁ、俺を信じろ。
『信じる?』
──あぁ、俺を信じろ。
『信じる……分かった!私、ずっとずっと君のことを信じる!』
少年と少女。他には誰もいない公園で交わされた、一つの約束。その約束が破られる事はなく、少女はその瞬間から少年に恋をした。
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