王都に行くお話(2)
やっぱり、無理をさせてしまっていたらしい。
そうなる可能性を考えなかったわけではないけれど、あえて別の部屋をとりながら旅をするのも変な気がしたし、ダブルベッドじゃなければそこまで気を使わない……なんて思っていたのは甘かった。
「すごく深い眠りだな」
頭を撫でるとすぐに眠りに落ちたアストレイアに、思わず小さく言葉を零した。そして同時に罪悪感も芽生えてしまった。気づけばリビングでうたた寝している姿も見ているし、これほどアストレイアにとって負担が大きくなることだとは、考えが及んでいなかった。だいぶわかったつもりになっていたけど、まだまだ理解できていないところもあるらしい。
一応はアストレイアの風習に合わせるつもりで、同居は申し出てもあくまでルームシェアのスタイルをとっている。合わせきるなら近くに住むくらいのほうがよかったのかもしれないけれど、アストレイアの防犯意識は異常にゆるい。あの森の家に鍵もかけず居室に大量の貴金属をそのままおいていたほどには、ゆるい。人が訪ねてくることもなかったのだろうが、その感覚のまま街に住ませるにはあまりに不安が強かった。だから一緒に住むという可能性をまったく考えていなかったアストレイアに対し、不慣れな街の生活では困ることもあるだろうと半ば説得するような形で同居に持ち込んだ。それをしていなければ、いまもまだ一緒には住んでない。
しかし四百年前のしきたりというものは、現在から考えればなかなか厳しいものであったようだ。ちょっとだけ、生まれが今でよかったと思ってしまった。仮にアストレイアの防犯意識が万全だったとしても、一緒に住みたいと思う気持ちには変わりがない。こちらとしてはせっかくいい説得材料ができたのだから。
それに、戸惑いながらも合わせてくれようとしているアストレイアの姿は、やっぱりとても嬉しくはある。
「このままだと冷えるかな」
さすがに布団の中にまで引っ張り込めば、アストレイアもこんなにあっさり眠ることはなかっただろう。布団越しとはいえ、ここまで恥ずかしがることなくあっさりと距離を詰められたのは初めてだが、よほど疲れていた結果だと思う。
「まあ、信頼を壊すようなことはできないし」
起き上がってベッドから降り、アストレイアを布団の中に入れてやり、俺自身はそのベッドわきに腰かけた。動いたことで少しアストレイアも身をよじったが、それでも寝かし付け直して頭を撫でてやれば眉間に寄りかけていたしわも消えていた。
直接言ったことはないけれど、年上に見えないし、ましてや四百年も生きてきた子にはやはり見えない。くぐってきた修羅場の数が違うのは戦い慣れしている様子からわかるが、反応がいつも素直で、打算さがない。軍人だったという割に、世の中に慣れていない……そんな雰囲気だった。
「聖女様らしいといえば、そうかもしれないけどね」
けれど救国の聖女としてたたえられていたのなら、普通の生活とは異なる状態だったのかもしれない。そして、何よりずっと一人で生きてきていたのだ。
「これからは、肩に力なんて張らなくていいからね」
けれど、その言葉を吐いてから、今緊張させてしまっているのは自分だったかと苦笑した。
でも、こちらだって緊張はしているし、いろいろ我慢はしているのだ。少しくらいは、やはり多めに見てもらいたい。