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壊れし天命を天は嗤う  作者: 春風 夏影
第零章ー崩落の信頼
1/5

そして世界は壊れて征く

1世紀ほど前まで、多くの人間は自由に、そして満足のいくまで食事ができたという。

障害をもって産まれた子供を全力で応援し、サポートしたという。

勉強を行えたという。暇な時間を自由に使えたという。様々な道楽があったという。暖かい家庭があったという。綺麗な未来があったという。振り返った時、笑顔になれる思い出があったという。


そして何より、


---人にしっかりとした理性があったという---



 ***


1世紀前まで確実に存在していた楽園を脳内で描き、想いを馳せながら、俺はゆっくりと目の前の巨大な扉をくぐる。真っ白で飾りっ気のない不格好な扉だ。まるで今の世界のようだと、一人静かに鼻で笑う。


扉の先には真っ白な空間が広がっていた。その中に在ったのは多くの人間のみ。年と性別はまばらで、全員が日本人、それ以外の共通点は一切ない、そんな集団だ。


指定の時間まではあと5分、俺は壁に寄りかかり、静かにその時を待つことにした。


どうして世界はこうなってしまったのか。そんな意味のない問いを脳内で展開しながら・・・



***



今からまだ100年も経っていない少し前、世界中の全人類はある問題に直面した。


それが、人口増加と、気候のバランス崩壊による食料危機だ。


食料の生産量が人口に対して足りなくなり、人々の手に渡る食料品は徐々に減少していった。その結果、全ての食料品の値段が高騰、今まで大半の人間に渡っていたハズの食べ物は高級品としてカテゴライズされてしまった。


そして人間たちは貧困に喘ぐようになり、連日連夜、多くの人間が暴動を起こし、国を破壊していった。


その問題を受け世界各国は、少しでも国民に食料が行き渡るように食料品の売買を禁止し、代わりに、食べ物を完全配給式にシフトした。


しかし、根本的な気候変動に対しての対策は進まず、世界の気候は崩壊し続けた。


季節の概念は死に、気温は上がり、日照りが続き、少ししたら今度は豪雨が続いた。


その結果、食料の生産量は減り続けた。それに連鎖し、日々の配給の量はみるみると減っていった。


そしてとうとう一部の人間が崩壊した。力による食物の強奪。殺戮による飢えしのぎ。人々は善良な心を捨て、己の欲望を満たすために武器を取り、弱き者から力で奪った。


そうして砕けた理性の鎖は、もう人々を縛るストッパーとしての機能を失い、人々の暴走は悪化の一途をたどった。時には人を殺し食物を奪い、己の食欲を満たした。時には女を犯し、己の性欲を満たした。時には街の一角を牛耳り、己の独占欲と支配欲を満たした。


世界が世界としての形を崩壊させる中、全人類に奇妙なことが起こった。


手から火が出せるのだ。天から刃を降らせられるのだ。虚無から弾丸を放てるのだ。形は人それぞれだが、全人類に、人外の何かが宿った。そして人はそれを「異能」と呼んだ。


異能によって武器を必要としなくなった人類の破壊は、更にヒートアップしていった。


「このままでは全てが終わる。ならばせめて、自国の民だけは救おう」


多くの国のトップが、そう考えた。人々に食料を与えるためにはどうするか、ストレスをどうしてやるか、欲望をどうやって満たしてやるか。


そこで、一つの解決策に辿り着いた。


「そうだ、ならば異能を使って国の外から奪わせよう。そして、他国の食物を配ろう、他国を破壊させよう、他国の女や男を好きにさせてやろう。そうすれば、私の国は平和になる」


まだ理性の生きていた人間が聞いたらどう思うだろうか。バカげた考えだと罵ってくれるだろうか。


だが、ほぼ全ての人間の理性が崩壊した世の中に、そのような考察は意味を持たない。


そこから、世界は戦いを始めた。未来も過去もない、ただ、現在(イマ)を生きるためだけの、空虚な戦争を・・・・・・



***



そして戦争はまだ続いている。それどころか、状況は悪化している。人が人を殺す権利が生まれ、国に恩恵が与えられないと判断されれば殺処分される。障害を持つ者、大怪我を負った者、異能が無価値な者、人を殺せない者・・・挙げ始めたらキリがない。


人は生きるために必死だ。だから己の役割を探し、飛びつく。


食料生産、武器生産、娼婦に国民生産なんてふざけた役割も存在する。


そんな中で、一番多くの人間が飛びつくのが、「軍属」だ。そして俺も、その軍属志願の一人。生きる目的もなく、死ぬために生きるような矛盾した存在。


今から行われるのは、軍の適性検査。いわば軍隊への入隊試験だ。


「ただいまより、適性検査を行います。志願者は、目の前のテーブルに並べられた武器から一つ選び、奥の部屋へとお進みください」


機械的な音声が流れると、一部の地面に穴が開き、その穴から様々な武器を並べたテーブルがせり上がり、それと同時に奥の扉が開く。


未来も過去も、自由までもが消滅したこの世界で、一体何を求めるのか。それすらわからないまま、俺は足を踏みだした。

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