婚約を続けますか?
秋の収穫祭まで後少し。
日が落ちるのもすいぶん早くなり、陽射し避けのためのショールが、風避けのためになってきた。
園遊会は、今日の王家主催のもので今季最後となるはずだ。小さな集まりはあるかもしれないが、これからの季節は夜会が増える。
エネスト伯爵家のカーディアラは、十四才になったばかりだが、友人たちとお喋りに興じるだけでなく、しっかりと耳を立て、様々な話を拾い集めていた。
茶色の目とゆるくうねる癖のある黒髪を持つカーラディアは、美人に数えられる事はないが、化粧をすればそれなりに見える。ただ他人は、その容姿よりも性格や行動の方を、話題にする。
曰く、いくらエネスト伯爵家の後継者と行っても、少々勇ましすぎる、と。
そんなカーディアラが声を掛けられたのは、ちょうど友人たちと離れ、ひとりになった時だった。
「カーディアラ・エネスト嬢でいらっしゃいますね。」
大人の落ち着いた静かな声に、カーディアラは嫌な予感と共に立ち止まり、声の主へと振りかえる。
侍従が会釈をした。知っている顔だ。王太后宮にいる古参の侍従で、裕福な男爵家の縁戚にある人だ。いろんな意味で無視するわけにはいかない。
驚きを隠しつつ答えた。
「はい。」
「カーディアラ・エネスト嬢、王太后さまのお召しでございます。」
これを断れる立場にカーディアラはない。けれど一人は避けたい。あたりを見回しつつ言った。
「わかりました。父と一緒に伺います。探してまいりますので、お待ちいただけますか?」
「エネスト伯爵にも、お声掛けをしております。追ってお見えになるでしょう。王太后さまはお待ちです。」
追って、とはいつなの、と思いつつ返せる言葉は一つだ。
「・・伺います。」
ため息を飲み込んで、カーディアラは一歩踏み出した。
園遊会は、華やかな音楽が流れ、美しい衣装を身にまとって人達が、楽しげに行き交っている。
賑やかな場からゆっくりと離れる。案内された王太后の離宮の一つであるこの屋敷はそう大きくはない。王太后の居所は別にある。ここは今回の園遊会のためだけに開かれたと聞いている。
屋敷のそう広くはない玄関ホールは、吹き抜けの高い位置にある窓が開かれ、明るい日差しが入っている。壁には、大きな肖像画がかかっている。描かれているのは女性だ。誰だか知らないが、美人だ。
傍には秋の花が活けられていた。置かれている装飾品の値打ちも、カーディアラにはまだ分からない。まだまだ勉強不足だと痛感しつつ、配置はきれいだとしっかり観察した。
廊下に入ると、薄暗さを感じた。今日は天気が良く明るかったせいだろう。
寒々しくも感じて、カーディアラは、ショールを掛け直す。離宮が敵陣のように感じられたせいもあるかもしれない。
王太后に会うのは久しぶりだった。
シズリック第一王子と婚約した時顔合わせをして以来だからひと月ぶりになる。
実は、カーディアラはこの婚約について、いつ揉め事が起きてもいいように心の準備をしていたが、それが園遊会の最中とは思わなかった。
侍従が、ひとつの部屋の前に止まり、声を掛ける。返事があって、ドアが開かれる。
部屋の奥のソファに王太后。その隣に、金髪碧眼の美少年だと年長のお姉さま方に人気があるカーディアラの婚約者、第一王子のシズリックが立っていた。
同い年十四才の王子は、不機嫌な顔を隠すことなく、カーディアラを見ようとしない。
失礼な態度をとられても、カーディアラは、シズリック王子を無視できる立場ではない。相手は王族だ。それ以前に正直言ってこの王子にはなんの期待もしていない。
礼儀として、カーディアラは、王太后と第一王子に向かって、深く腰を落として頭を下げる。
が、こちらが挨拶の口上をする前に、シズリック王子が訴え始めた。
「聞いてください。おばあさま。」
淡い金髪を美しく結い上げた王太后は、それには答えなかった。
王太后はそれなりの年齢だから白髪もあるはずだけど、元の髪の色にまぎれて目立たない。カーディアラと同じ黒髪の母は、白髪がとても目立つのでよくそれを嘆いている。母と同じ運命をたどる彼女としては、王太后の髪の色はとてもうらやましい。
「顔を上げて、カーディアラ。よく来ました。園遊会は楽しんでいますか?」
王太后の優しい口調に、カーディアラはとりあえず安堵する。こちらの言い分も聞いてもらえそうだ。静かに立ち、答えた。
「はい。王太后さま。ありがとうございます。」
挨拶の口上が出来なかったのは、王子のせいだ。心の中でそう思っていると、王太后が困ったふうを装って言い始めた。
「今日は、シズリックが、どうしても言いたいことがあるそうなの。一緒に聞いて頂戴。」
カーディアラができる返答は一つだ。小さく頭を下げる。
「かしこまりました。王太后さま。」
そうして、シズリック王子に向き直る。王子が、まるで敵を見るような目を向けて来た。
カーディアラも、ただ王子を見返す。
婚約は、エネスト伯爵家が望んだのではない。王家からの申し入れだったのだ。エネスト伯爵家としては断りたい案件だ。
まるで一騎打ちでもしようかと言うような雰囲気の中、先に口を開いのは当然、王子の方だった。
「カーディアラ・エネスト。お前は偽りを申し立て、私の婚約者となった。これは私のみならず、王家を貶めるもの。直ちに、この婚約を破棄する。」
カーディアラはこの言われように、少しだけ眉を寄せて返した。
「婚約はエネスト家から求めたものではございません。婚約破棄はすぐにでも応じさせて頂きます。しかし、私は、何ら偽りを申し上げた覚えはございません。」
シズリック王子は怒りを煽られて、声が大きくなる。
「この期に及んでまだ言うか。お前の醜い嘘を暴いてやる!」
言い捨てると、王子は、王太后に向き直った。
「聞いてください。おばあさま。いえ、王太后さま。カーディアラ・エネストの悪行を。」
そうしてシズリック王子は、語り始めた。
それは一年と少し前、シズリックが十三才、王弟の地方視察に同行した時のことだった。
その視察先であるトダーク子爵領では、街でなく、大きな森近くの領地境の邸宅に滞在する事となった。村の暮らしや、領境の防衛体勢の詳細を知るためだ。
十三才のシズリックにできることは少ない。叔父である王弟と会議に参加をし、自警団の訓練などを見るだけという年若い王子にとっては単調な生活になっていた。
森に行ってみようと思ったのは、特に理由があったからではない。敢えて言うなら、いつもと違う事をしたかった。
護衛の隙をついて、屋敷を抜け出したのは、そんなに遠くへ行くつもりはなかったからだ。
森はすぐそこにある。
その緑の木立の中をどれだけ歩いたか。急に道が狭くなり、そうと気付いた時にはバランスを崩して崖下に落ちていた。大人の背の高さほどの崖だったから、意識を失うようなことにはならなかったけれど、右足は捻挫をしたのか痛みが強い。何にあたったのか右手の甲にも大きな傷をつくってしまった。
とんでもない失敗だ。自分に腹が立つ。なんとかここを脱出しなくてはいけない。
そんな時だった。
「大丈夫ですか?!」
少女が目の前に現れた。
淡い金色の髪、明るい茶色の瞳、きれいな顔立ち。同じ年くらいだろうか。痛ましげな顔をしてこちらをみている。
「怪我をした。」
シズリックがそれだけを言うと、彼女がすぐそばに寄って来た。
「あぁ、なんて酷い。」
右手から流れる血を見て、両手を口元に揃えている。その様子を見ていると、この少女に心配をさせまいという強い気持ちが出てきた。
「大丈夫だ。怖いものを見せて申し訳ない。」
そうシズリックが言うと、彼女は首を振って、そっと笑みを浮かべた。仕草ひとつひとつが愛らしい。
そこへ。
「他にお怪我はありませんか?」
突然、男に声を掛けられて、少し驚いた。
彼女のすぐ後ろに、大柄な若い男と子ども、そして緊張感を漂わせた女がいた。
シズリックは、彼らを見てから思いついた。こんな森に女の子がひとりでいるわけがない。
良く見れば、少女はよい身なりをしていた。やってきた三人はお付きのものだろう。
「足を挫いている。他はない。」
伝えると、その者たちが応急処置をしてくれた。
金髪の少女は、ずっとシズリックに話しかけてくれた。大丈夫だと、すぐにお助け出来て良かったと。彼女の優しい声に安堵をおぼえた。
その笑みを見ていて、ふと思い出した。
この森は、トダーク領とエネスト領の境。エネストの者がいてもおかしくない。
「もしや、エネスト伯爵の息女か。」
シズリックが思い付いたまま尋ねると、少女は少し頬を染め、けれど誇らしげに言った。
「はい。」
やはりそうだったかと思うより早く、彼女の連れの若い女が声を上げた。
「お嬢さま。」
そこには咎めるようなものがこもっていたように、シズリックには聞こえた。
良家の令嬢が、見知らぬものに軽々しく名を明かすのは確かに良くない。女が諌めたくなる気持ちはわかる。ならばとりなすのは自分だ。シズリックは少女の連れの女に言った。
「こんな風に、名を問うのは確かに良くなかったかも知れない。だが、心配は無用だ。私は決して怪しいものではない。」
女は一瞬困ったように目泳がせたが、すぐに頭を下げ、一歩控えた。良い召使いだ。
「本当に助かった。礼を言う。」
少女とは、森を出た所で別れることになった。
感謝の言葉を彼女に向けると、微笑んで、淑女らしく礼をした。貴族がする礼だ。
これは、運命だと思った。
森という大いなる力に引き寄せられた出会いだったのだ。
「ですが」
と、シズリック王子が王太后の前で苦々しそうに言った。
「王家の申し入れに対し、エネスト伯爵家が差し出してきたのは、全くの別人でした。そこにいるカーディアラが、森で私を助けたのは自分だと嘘をついたのです。」
王太后は、熱く語られた王子の話に、さして感銘を受けた様ではなく、ただ小さく首を傾けた。
「シズリックはこう言っていますが、あなたの言い分は?」
そう聞いてくれた。
カーディアラは、一つ小さく息をついてから、しっかりと王太后を見た。
「怖れながら。殿下をお助けしたのは、一人だけではありません。」
「どんな言い逃れだ、それは?!」
シズリック王子が大声を上げたが、たとえ相手が王族でも、それで気弱になっていては伯爵家の後継者になどなれない。
カーディアラは、王族二人の前で内心は戦々恐々としながらも、平然とした顔を作って王子に向けた。
「あの緊迫した状況を、そんなのんびりしたお話でまとめられては、あの時走り回ったものの苦労が報われません。」
「お前、まるで見て来たように!」
「少し、拝見しております。殿下のお話の中にも出てきていたではありませんか。」
きっぱりとしたカーディアラの言葉に、王子は眉を寄せる。
黙った王子に、カーディアラは言った。
「子どもがいたと申されたでしょう。それが、私です。」
シズリック王子は目を見開く。
その目をがっちり見つめて、カーディアラは言った。
「一年と三ヶ月の間に背が伸びましたので、少々見かけは変わったかもしれません。けれど覚えておられませんか? 殿下の、右手の甲の傷を綺麗な水で洗い、酒精の強い酒を掛けて、血止めをした者がいたのを。あの時、痛いだとか、無礼者だとか、大声で威嚇した相手を。挫いて動かせない足首を、ストールで固定したのは、誰でした? 少しでも早く、殿下を滞在先にお帰しするために乗って頂いた馬を操ったのは?その子どもでしたでしょう。」
シズリックの目は大きく開かれたままだ。
「他にも、森を抜け、馬を留めていた場所まで殿下を背負った者が居りますでしょう。我が家の侍従です。殿下を探し回っていたトダーク子爵の騎士たちと近衛騎士も殿下をお助けすべくありました。」
多くの人の運命が変わった。
「子爵領に入ってから、近衛兵に囲まれ、誰何を受けた時は、ここで人生が終わるかと思いましたけど、その中に私を知る人がいたのは幸運でした。」
今度は遠慮なく、カーディアラは、大きく息をついた。
シズリックは何かを言おうとして口を開きかけ、閉じる。
それを見て、カーディアラは、言っておきたい事を続けた。
「いつもと違う事をしたかったから。森がそこにあったから。あなたはそんなふうにあの時の事を言うのですか。護衛の目を盗み、こそこそと屋敷を抜け出し、大した準備もせずに森に入った。あの時、どれだけの人が心配し、焦燥の中、あなたを探しまわったことか、どれだけの人が傷つき、処罰を受けたか。そのことを、まさかお忘れではないでしょうね。トダーク子爵家は代替わりを余儀なくされ、先代となった方は、未だに領地での謹慎が解けていないのですよ。」
シズリックの視線が小さくさまよい、けれどすぐにカーディアラに戻って来て睨みつけてくる。
「だが確かにあの時、金髪の娘がいた。伯爵令嬢だと言った。」
「言ってません。殿下も先ほど、ご自分で仰ったではありませんか。伯爵の息女かと聞いたら『はい』と返事をしたと。」
カーディアラは、シズリックの眉間にしわが寄って行くのを見ながら言った。
「確かに父の子です。ただし、伯爵夫妻の子ではありません。ですから、私の母親違いの姉ではありますが、エネスト伯爵令嬢は、私一人なのです。貴族の礼儀作法を知っているのは、姉が早くに実母を亡くし、伯爵家で養育をされたからです。」
シズリックがまた目を見開いた。それから口をぎゅっと閉ざし、見開いたままの目を床に落とした。それでもまだ表情からは闘争心が消えていない。きっと怒りが渦巻いているのだろう。
カーディアラには、ふたつ年上の、母親違いの姉がいる。大らかで、少しばかり我がままで、悪気なく行動する美人な姉だ。名はエイナ。エイナの母は、彼女を生んですぐ亡くなった。エイナの祖父母は健在だが、カーディアラの母である伯爵夫人が、将来に渡って、エネスト伯爵家に迷惑をかけるような問題行動があればすぐに察知できるようにと、自分で養育すると決めたのだ。
姉は、自分の出自の事をもちろん知っている。だから伯爵の娘か問われたら、そうだと答えてしまう。
もし、シズリックが王子でなく、下位貴族の三男や四男なら、エイナを同じような位の貴族の養女にして縁づけることもできたかもしれない。
けれど王家は、血を重んじる。貴族もそうあるように王家に望む。
だから彼の願いが叶う事はない。
気に入った相手の素性を、どうしてしっかりと調べないのか。王子としての自覚に欠ける。
カーディアラは、こんなうかつな王子の妃は御免だ。苦労が絶えないことは間違いない。
苦労を厭う気はないし、それで褒めてもらおうなんて小指の先ほども思っていないが、それでも無駄な苦労は背負い込みたくない。
だから駄目押ししておく。
「姉は確かにあの場にいました。」
あの森で、王子の立てた音に最初に気づいたのはカーディアラと伯爵家の侍従だ。音の正体を確かめに行ったのは、その侍従。彼は、父の従者として王都にも行っていて、王子の顔を知っていた。待っていたカーディアラたちに王子だという事を伝えたとたん、姉が飛び出していったのだが、それは言わない。はしたないにも程があるからだ。あの後、姉は父に怒られ、商家への嫁入りを決められてしまった。これも王子には言う必要はないだろう。
ただ事実を告げる。
「けれど誰に聞いても、こう答えるでしょう。王子を助けた伯爵令嬢はカーディアラ・エネストだと。」
シズリック王子の伯爵令嬢は、幻だ。
はっきり言って、こんなことは、少し調べたらすぐにわかる。王子の勘違いに気づいていた者はいたはずだ。知らせなかったのは一体誰か。陰謀か?巻き込まれたくないものだ。
さて、婚約を続けますか? 王子様。
カーディアラは、王太后へと視線を向けた。シズリック王子は、俯き、床を睨んだまま動きそうにない。
王太后は、優雅に微笑んだ。
年の功とはこういうことか。カーディアラには、王太后の微笑みに、どんな意味も見出せなかった。
「カーディアラ、御苦労でした。園遊会を楽しみなさい。」
退出しろという命令だ。
カーディアラは、ドレスの裾を広げ、礼を示し、儀礼に適った退出の口上を述べた。
後は、振りかえることなく部屋を出て、薄暗い廊下を脱出する。
迎えに来た侍従が、帰りも先導してくれていたが、館を出た所で、父の姿が目に入った。
エネスト伯爵は、王太后の侍女に案内されていた。カーディアラを見ると晴れやかな笑顔を見せ立ち止まる。
なんだかムカつく。カーディアラは不満顔を、広げた扇で隠した。
「エネスト嬢、お父君がお見えのようですので、わたくしはこちらで失礼致します。」
侍従が扉を一歩出た所で留まっている。
カーディアラが振りかえると、侍従は少し頭を下げたまま動かない。この人に、八つ当たりをするのは筋違いだ。扇を降ろして、なんとか微笑みを取り繕う。
「ありがとうございました。」
侍従は穏やかな目で、一歩さがり、館の中へと戻った。
改めて父エネスト伯爵の方を見ると、侍女だけがこちらにやってくる。ゆっくりと歩き出したカーディアラと行き合うと、道を譲って足を止め、会釈をしてくれる。この人は子爵家の四女だったはず。
カーディアラも彼女に会釈を返しながら、けれど足は止めずに通りすぎる。
そして待っていた父の側に辿り着くと、カーディアラは上目使いに睨んだ。
「遅いです。」
父は破願した。
「その調子なら、会見は大丈夫だったようだね。」
「全く大丈夫ではありませんわ。王太后さまは、『迷子事件』の詳細をご存じなかったのでしょうか。」
園遊会の場からはまだ離れているし、今いた館からも距離を置いている。辺りは開けていて、誰も潜める場所はない。
それでもカーディアラは、声だけはひそめ、不機嫌な表情は隠すことなく父に向けた。
父の方は楽しそうな顔で娘に対する。
「ご存じだよ。今頃シズリック王子は王太后に叱られて、自分の勘違いに、それはそれは恥ずかしい思いをしているだろう。一年以上も夢のお姫様の話を語ってたんだからね。」
本当に、最悪だ。カーディアラなら、恥ずかしくてもう人前に出られない。
カーディアラは大きくため息をついた。
「婚約は解消になりますわよね。」
「王妃さまに、勝手に婚約したと言われてしまったけど、エネスト伯爵家は、総領娘を嫁に出す気はないと明言し続けているからね。今日の園遊会でも、皆はっきりしない事実として受け止めてくれているようだ。その方が、都合がいい人達もいる。カーディもシズリック王子もまだ十四才なのだし、大丈夫じゃないかな?」
何がどう大丈夫なのと思いつつ、カーディアラはもう一度大きなため息をついた。
誰が得をする陰謀なの?
二日後、カーディアラに、カードが届いた。
季節が変わりましたね、とそれだけ書かれたカードだ。
署名もない。
おそらく書いたのも祐筆で本人ではないだろう。
ただ届けに来たのは、あの園遊会でカーディアラを案内した王太后の侍従だった。わざわざあの侍従が届けに来た。そこにどんな意味がある?
カーディアラは大きくため息をついてから、立ちあがった。
父に問い質さなければいけない。
もしかして、婚約は続くの?