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アスタリア戦記 慈愛の聖白  作者: 株式会社マイナーゲームス
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二章 瓦礫の中の神炎 3

王城を出たユーリの前にイアンナと名乗る秘書官の女性が待っていた。遠征地での自身の拠点となる屋敷へ案内されたユーリは驚く。

王城の外で馬車の側で佇む紫の髪の女性が立っていた。落ち着いた雰囲気で高貴な生まれを感じさせつつ清楚な印象を与えられた。

「お待ちしておりました。ユーリケンス閣下、秘書官を務めさせて頂きます。イアンナ・ベルフォルマと申します、これから宜しくお願い致します」

挨拶から見せたその笑顔から性格の明るさが窺えた。

「こちらこそ宜しくお願いするよ。イアンナ」

「どうぞ、馬車へ。他の方々も順次お迎えに上がります」

「それではお言葉に甘えよう」

実際は徒歩で行きたい気分なのだが、これから自身の活動拠点となる屋敷へ案内してくれるのだ。ご大層に馬車まで用意して……


連れて来られたのは郊外に建つ年季の入った屋敷だ。年季が入り過ぎている以外は広くて良さそうだ。

「閣下、到着致しました」

馬車の窓から覗くがつくづく自分には勿体無い程広い。

「凄い屋敷だな」

「皮肉ですか? 閣下」

「王国では大したことのない屋敷なのだろうが、私の国では十分過ぎる程立派だ。ただ、少し掃除をする必要があるけど」

ユーリは一人屋敷の戸を開ける。中は人が住んでいない期間を教えるように小さな生き物で一杯だった。

「ははは、これは骨が折れそうだ」

「それでは業者を呼ばれては如何でしょう」

「自分の手と足があるのにどうして呼ぶ必要があるんだ?」

「うふふ、面白い方ですね、ユーリンケンス様は。王都では皆業者に委託しますので閣下のような方は初めてです」

彼女にとってユーリのような考えの人間は珍しいようだ。

「それではわたくしも張り切ってお手伝い致します!」



「はあ、くたびれた」

「はい、ですが、見違える程綺麗になりましたね」

「当然。元はとても立派な造りをしている屋敷だからな」

頭首の私室を執務室に改装して二人はソファーでだらしなく腰を掛ける。

「彼らの分の私室も掃除したし、いつ到着しても大丈夫だろう」

「ユーリケンス様はどうして自ら掃除をなされるのですか。部下にさせるものだと思うのですが」

「私が部下なら、自ら動かない上官の下にいたくはないな」

これがユーリという人物なのだろう。王国で育ったイアンナにはとても新鮮に見えた。

「それと、私のことはユーリで構わないよ。最後まで言うと呼び難い」

「ふふ、承知致しました。ユーリ様」

イアンナ自身にとって初めての経験ばかりの一時になった。

(こんな軽い公爵様で大丈夫なのかしら?)

疑念はあるが無能な感じはしない。むしろ今までに無い思考で歴史に名を残す偉業を成し遂げそうな予感さえした。その立ち会い人になれるかもしれないという期待で胸を膨らました。


「ユーリ様、驚きました。王国側がこのような屋敷を用意するとは」

「前回の遠征の時は質素な屋敷に入れたそうだな。あの時のことを父上が憤慨していたと母上が言っていたよ。その時は母上になだめられたそうだね」

「懐かしいですな。ユーリ様は母君クリス様と似ておられますな」

「母上はペルシ公国で初めての女性騎士、そして実戦での女性の有用性を示した偉大なお人だ。私など程遠いよ」

「しかし、容姿と性格はクリス様の影響を色濃く受けているようですな」

「私が掃除したことは流石にお見通しか」

きれい好きも母上の影響だ。

「豪快な父上と似ているのは無駄を嫌うところですな」

「父上も礼冑には文句を言っていたそうだな。皮肉だな余計な所まで似るのは」

二人だけの話題で盛り上がる中、イアンナが執務室へ入って来る。

「失礼致します。ユーリ様、アレン公爵からお手紙をお預かりしております」

「アレン公か久しぶりですな」

ウォルドにとって騎士の見本で良き友である。

手紙にはレゲノン砦周辺に関する地図と情報が書かれている。

「『お前ならどうする?』か、あははは! 全く愉快なお人だ。これじゃ攻略せずにはいられないな」

ユーリは端正な顔が崩れる程、大笑いする。

「イアンナ! 伝書鷹の手配を」

返事を返しイアンナは急いで部屋から飛び出す。

「ウォルド、本国から応援が必要になった。攻略決行日までに間に合えば良いが」

「私は少し酒場へ行って参ります。あちらにも傭兵がいると聞いたので様子を見て参ります」

そしてウォルドも部屋を後にした。



この酒場は昼間でも酒に溺れる男たちで騒がしい。

「おっ、騎士のおっちゃん、俺様を雇ってみないか損はしねぇと思うぜぇ」

酒臭い男がこちらを見るや厚かましい要求をして来る。

「うっ、うむ。ここへは顔を出しただけだ」

「なんでぇ、つまらねぇ。酒代が尽きちまうだろうが」

そんなことこっちの知ったことではない。

「ちょっと、師匠! また勝手にあたしが稼いだお金でお酒飲んで人に迷惑掛けてる」

「迷惑じゃねぇよ。なっ、おっちゃん」

「いや、迷惑だ」

「すみませんでした。ほら、師匠も頭下げて」

有無も言わさずに赤髪の若い女性に無理矢理頭を下げさせられる。

「別にそこまでして貰わなくても結構だ」

「ほら、迷惑じゃねぇっておっちゃんも言ってんじゃねぇか」

「そう言う意味じゃないです。てっ、さり気なく乳を揉まないで下さい」

賑やかそうな二人組だ。

「なあ、聞いたことねぇか? 神霊魔法が使える巫女の居場所?」

他の客はその言葉に大笑いする。神霊の巫女とは、絶大な破壊力と無尽蔵の魔力を誇る神霊魔法を扱える女神によって選ばれた神聖な血統だ。

「また、その話か。このほら吹き野郎の言葉なんざ当てにしない方が良いぜ」

「んだと? こらぁ」

「止めて下さい!」

弟子の女性に静止される。

「神霊の巫女と言ったな? 確か、先の大侵攻の時に戦死した筈だ」

そう、彼らは先の大侵攻で戦死したと報告されている。

「もし、落ち延びていてどこかで身を隠してるとしたら?」

「聞くだけ無駄だぜ。このおっさんの与太話なんざ」

今度は野次に反応しない。

「すまんが、信憑性の薄い情報に構う暇はないのでな」

「おう、おっちゃん。内の弟子を使ってくんな。実力は大したことねぇが、下級の炎魔法なら扱えるぜ」

「ふむ、気が向いたら声を掛けよう」

そう言って往年の騎士は酒場を去って行った。


「酒飲んでる場合じゃないですよ。師匠! やっとアクス・ヴォレスが見つかりました。場所はレゲノン砦です」

「何! こうしちゃいられねぇ。支度すんぞ、来い!」

「はい!」

二人も慌てて酒場を飛び出した。

酒場の男が噂する「神霊の巫女」同属性なら強力無比の魔道球を扱える彼らが生きていれば大きな戦力になる可能性があるが、既に戦死している。彼が「神霊の巫女」の情報を持っているならば知りたいところだ。

次回は随時投稿致します。

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