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アスタリア戦記 慈愛の聖白  作者: 株式会社マイナーゲームス
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二章 瓦礫の中の神炎 2

謁見の間へ向かうユーリ公爵。

彼を歓迎するのは一体誰か?

王城の前にユーリとウォルドは立つ。勲章の付いた純白の鎧の礼冑に着替えたユーリの表情は暗い。

「ユーリ様、そのようなお顔をされてはっ」

「ウォルド……この甲冑だけで半年分の民の食料が買えるだけの予算が飛んだ。このような顔になるさ」

人口五〇〇人程度の小国がそれだけの予算をこんな甲冑の為に浪費してしまったのだ。結果で示さなければ民に顔向け出来ない。


「失礼いたします。ユーリケンス閣下でいらっしゃいますか?」

流石に王室警備の衛兵は礼儀がなっているようだ。

「ああ、そうだ。国王陛下との謁見したい」

「承知致しました。どうぞ、こちらへ」

「ウォルドは今の内に街を探索しておいてくれ、情報は早くそして的確にだ」

「はっ!」

ウォルドは市街へ向い、ユーリも謁見の間へ向かった。


ユーリは自身の居城と比較してその豪勢さに呆れてしまう。

(この私財を売れば民衆にここまで負担を掛けずに済んだだろう。最も売れる私財を持たない私が言えたことではないな)

思っても仕方ないのないことだが、戦争の負債を国民に背負わせているような気がしてならない。

「閣下、どうぞこちらです」

衛兵が扉を開く。中にはドラン公国のアルドラ・シュバッテン公爵、左にセラン公国のアレン・ヴァレムタイン公爵、反対側にはユグリット公国のアムネシア・コートネル公爵婦人、イシュバニア王国筆頭書記官アルデンテ・ルーテンベルク。大物の揃いの集いの中ユーリは浮いてしまっている。周りの礼冑はもっと豪華な勲章が付いていてマントも立派な物を付けている。

「おお! よう来たなユーリ!」

場違いな大きな声を出すのはセラン公国のアレン・ヴァレムタイン公爵だ。豪快を絵にしたような髭に身体付きと声は他の貴族には理解出来ないようで不快に感じている。

「ヴァレムタイン公、謹んで頂きたいものですな」

絵に描いた優等生のアルデンテ・ルーテンベルク筆頭書記官が注意するがアレンは豪快に笑い飛ばした。

「アレン閣下もお変わりないようで」

「おう! ペルシ公国もやっと帰って来たか、待ってたんだぜ」

両者の温度差がまた珍妙だ。

「国王陛下の御前であるぞ控えよ!」

謁見の間を包み込む声に場内は一気に静まり返る。

「ふむ」

王冠と無駄に豪華な装飾がされている礼服に身を包んだ壮年の現国王ヴァルケン・ルーマニアは尊大な態度で玉座に座る。

「ペルシ公国第二代公爵、ユーリケンス・アルフォルト。約条に従いアスタリア同盟及び盟主イシュバニア王国に揺るぎない忠義を!」

『参戦の誓い』の決まり文句だが、本当に書類だけ出して契約する形の方が管理しやすくて早い気がする。

「かつては名を馳せていたペルシ公国もヴァルスカード公が倒れた以降は新兵と女ばかりの青二才が指揮する部隊とは笑わせる」

国王の言葉に合わせアレン以外の一同が一斉笑う。現在の同盟では女性騎士は珍しい、他国にはそれが兵員をロクに揃えられない弱小国に見えてしまう。

「ん? どうしたアレン公? 何か言いたそうだな」

「陛下、笑うの戦働きをご覧になられてからでも遅くはないでしょう?」

「うっ、うむ」

アレンは国王に抗議する。現法律では不敬罪に該当する案件で極刑に処されるのだが、彼は現在の戦線を支える唯一の要である為、大目に見られている。と言うより彼以外帝国に対抗出来る公爵は皆戦死してしまった所為もあり彼には苦言を呈することしか出来ない状況なのだ。

「して、ユーリケンス公子よ。貴公にはレゲノン砦奪還部隊に加わって貰う。砦奪還がなればそこから北、南にある砦にも最新式バリスタ『トーレス』を配備し東から来る帝国軍を抑制する。その暁には帝国に休戦を提案する。そうなれば消耗戦は帝国も望むところではあるまい、あの腰抜けの第二皇太子に書状を送れば喜んで食い付くだろう」

アスタリア大陸はUの字を逆さに、あるいは馬の猪爪のような形をしている。北部にある陸から帝国が侵攻するのを防ぐ目的で、レゲノン砦を含む三つの砦が建設された。南の海上は同盟軍の造船技術と魔道技術の結晶である『魔装船(まそうせん)』が海上機動と攻撃力で帝国の鉄船を圧倒している状況である。従って急務なのはレゲノン砦奪還なのだ。

(随分と楽天的に言う。同盟が一枚岩ではないようにあちらも同様、例え、第二皇太子が本当に停戦を望んでいようと重鎮が首を縦に振るとは思えない。だけど、消耗戦にまで持ち込めれば休戦の機会は望めるかもしれないな。ペルシ公国と他の小国はその為の捨て石という訳だ)

今の自分は同盟にとって地に転がる石に等しい。『公子』彼らに認められていないから敢えて子ども扱いしているのだ。だが、それぐらいで取り乱すようでは国を背負うことは出来はしない。

「承知致しました」

「せいぜい、斥候として功を上げるが良い」

「陛下のご厚情痛み入ります」

ヴァルケンの嫌味を聞き流し跪く。

「ふん、もう下がるが良い。公子」

「失礼致しました」

「公子よ。ゆっくり攻略するが良い」

出来るものならやってみろと言う挑発だ。国王にとって成功しようがしないが帝国軍を疲弊させられれば本当の奪還部隊を出すつもりだろう。当然この挑発は受けて立つつもりだ。

「吉報をお届け致します。陛下」

一礼して謁見の間を後にした。

「ふん、小僧と役立たずどもは前線で敵を疲弊させれば良い」

「その通りで御座います。流石は陛下、戦術眼に狂いはありませんな」

ヴァルケンの言葉に反応してアルデンテがゴマを摺る。

「それでどれだけの有能な兵が散ったのですかねぇ? 陛下」

「アレン公! これ以上の無礼はっ」

「構わん、アルデンテ」

ヴァルケンはアルデンテを静止させ、アレンに視線を向け重圧を掛ける。

「アレン、あの小僧を随分と気に入っているな。親友のせがれだからか?」

「いえ、あいつのことは今、俺が一番知っている。もし、俺の目に狂いが無ければ吉報が届くでしょう」

アレンの目は自信が溢れていた。自分の人の見る目に間違いは無いとそう言っているのだ。

「くはは、面白い! 待ってやろう! その吉報とやらを」

国王ヴァルケンはおおいに笑った。


「はっくしゅ! ああ、誰か私の噂してんのかしら?」

「馬鹿なこと言ってないで支度なさい。迎えが来るんだから」

宿屋の一室でエルフェルトはロークェスに叱られたのだった。

国王は先の大侵攻で有能な将兵を失った同盟軍より国民が負担に思う軍を減らす為に前線へ送り込み、そして休戦協定を結ばせる糸口を遠距離兵器バリスタに依存する。彼の計画に疑念を隠すユーリは今後どう決断するのか?

次回は随時投稿致します。

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