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アスタリア戦記 慈愛の聖白  作者: 株式会社マイナーゲームス
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二章 瓦礫の中の神炎 1

二章開幕。王都の門を潜るユーリ一行はそこで思わぬ敵に遭遇する。

王都、『イシュバニア王国』の城門の前まで来たのは良いがここでまた思わぬ形で足止めを喰らってしまった。

「なんだと? さっきから名乗ってんだろぉが!」

「そうよ。門番なんだから聞いてんでしょ?」

参った。門番はこちらを不審者と思っている。これも騎士の装備を奪い悪事を働く連中がいるお陰だ。いやそれ以前に……

「知らないね。ペルシ公国とか。あんの? そんな国」

門番がユーリを睨む。

「国を証明する物なら持っているが、これで構わないか?」

そう言って勲章を取り出した。勲章と言っても国王から爵位を与えられたことを証明する勲章だ。

(既に通っているものだと思ってたよ。直ぐに見せるべきだったな)

門番の対応が真逆のものとなり蒼白になる。

「しっ、失礼致しました! 公爵閣下」

「気にしなくて良いよ。これは私の判断ミスだ」

ユーリは門番へ笑って見せる。レノンとエルフェルトは意地悪な顔をする。

「二人ともう良いだろう? 理解して貰えたみたいだし」

「申し訳御座いません」

「それでは参りましょうか」

「……」

「ユーリ様?」

ウォルドは沈黙するユーリを覗き込む。

「ちっ、近いよ! ウォルド」

先程の沈黙から一転して童心に返ったように驚く。

「いや、ただ。この様子だと王都では特別な歓迎が期待出来そうだなっと思って」

言葉と違い口調と表情は暗い。ユーリは直感で理解しているのだろうこの後どういった歓迎をしてくれるのかを。



「ははは、大歓迎だったな。ウォルド。シスターを教会へ預けておいて良かった」

「全くですな。私の甲冑にトマトの臭いが染み付いてしまいました」

ルチアを市街に入る前に教会に預けたお陰で醜態を見られずに済んだが、これでは先が思いやられる。本当に……臭い

「レノンとエルフェルトの二人は歓声に反応して大人気だったな。二人の服は流石に自費で買うよ」

「宜しいのですか?」

「良いも何も、こうなったのは私が不甲斐ないからだ。それに民衆の不満をぶつけられない為に王室が兵員を増やす報告をしていない所為もある」

二人がいるのは王都の宿屋の一室だ。騎士団員を男性陣と女性陣で別の宿屋で別けている。隣の部屋にレノンとアベルがいる。

「礼冑に着替える前で良かったですな」

「礼冑か……正直甲冑は一つにまとめて欲しいものだよ」

ユーリはここに来て初めて愚痴を零す、甲冑の種類の多さに。

「ユーリ様、そのことは何度も説明致しましたでしょう?」

「分かっているさ、ウォルド。これでも甲冑職人の稼ぎどころであるのも、公的作法なのも私なりに理解している。ただ、それを買う金が浮けば多くの民の負担を減らせられるのだが……」

「ユーリ様は少年の頃からそこは変わっていませんな」

ウォルドは換えの服を取り出しユーリへ渡す。

「そう言うウォルドも身体は全く変わらないな」

上着を脱いだウォルドの上半身は年齢からは考えられない程、鍛え上げられていて筋肉隆々だ。

「擦り板の私とは比べ物にならないよ」

男としての劣等感も漏れてしまう。

「ははは、当然です。ユーリ様をお守りする身として」

「頼りにさせて貰うよ。ウォルド」


「本当に信じらんない!」

ユーリたちと別の宿屋の一室で悪態を付くのはエルフェルトだ。ご自慢のベージュの長髪にトマトをぶつけられた所為だ。という以前にトマトだらけで色々と酷い有様だ。

「エル、仕方ないよ、同盟軍の維持費を一番出しているのは彼らだし。先の大侵攻で大きくではないけれど、レゲノン砦を落とされ圧される形になったもの事実だから」

当のセベラはエルフェルトが盾となって軽微で済んでいる。

「あんたは良いわよ。全然だから」

必死に拭いているが全く取れない。

「エルフェルト、脱ぎなさい。埒を明けるわ!」

「はっ?」

「早く! そんなんじゃ間に合わないわ」

ロークェスに言われるがままエルフェルトは上と下脱ぐ、そして下着姿のまま窓から外へ追いやられた。

「これは、一体どういう訳ですか? 隊長!」

「こう言う訳っ……よ!」

そして桶一杯の水をぶっ掛けられる。

「冷だぁ! ちょっ、待っ」

「はい! もう一丁! そぉ……れっ!」

容赦無く水をぶっ掛けられるエルフェルトを窓の中から見詰めるセベラは軽微で済んだことに内心安堵していた。

「よし! 今度は私の番ね。思いっ切り来なさい」

ロークェスも同じく下着姿になる。

「うっ、凄い身体してますね。隊長」

割れた腹筋が上腕二頭筋が三角筋が彼女の実力と努力を表していた。

「遠慮はいらないわ」

「よっしゃ! それじゃ行きますよ」

さっきのお返しと言わんばかりに豪快に水をぶっ掛けた。

「二人とも凄いですね。まだ肌寒い時期に」

「何言ってるの? セベラ、あなたもよ」

ロークェスからのご指名に視界が真っ白になった。

(ぁあ……お父様、私はここで尽きるかも知れません。親不孝な私をどうかお許しください)

セベラは国に残した父のことを思い出し大げさに謝意の述べた。いつの間にか他の客室からこちらを見物する男たちの視線で溢れていた。



「なあ、アベル。この臭いいつまで残ると思う」

「さあ、下手に反発して反感を買ったお前とエルフェルトは三日は無理だろうな」

遠征の地で初めて戦うのはトマトの臭いとは思ってもいなかった。

「それにしても、ユーリ様は楽しそうだったな」

「ん? そういやそうだな。あの人は団長が言うにはいつもあんな感じらしい」

レノンとアベルはユーリの話題をする。

「公爵だよな? あの人」

レノンの疑問も無理も無い、立場以外は歳も近い、他国の公爵と比較するとおよそ息子程の歳の差があるのだ。国際的見ても異例な爵位の継ぎ方なのだ。これも戦争がもたらした悲劇なのだろう……

「ああ、立派な公爵だ。だが、まだユーリ様は若い、だからこそ俺たち騎士団が支えなければならない。だろ?」

「へっ、言われるまでもねぇよ」

勢いに任せてトマトを完全に落としたレノンが気合いの入った返事を返した。

「俺らの意地を帝国の奴らに見せてやろうぜ!」

トマトによる歓迎。戦況の悪化に伴った民衆の不満が実態を持ってぶつけられた。王都の民衆が特別そうでは無いでしょう。現実世界でも敗残兵への民衆の当たりは酷いものです。

次回は随時投稿致します。

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