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まなざし  作者: いきる
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まゆうの携帯に、昨日新菜からメールが届いた。久し振りだった。懐かしいというよりもやっと来たという嬉しさが大きくて、やっぱり連絡を待っていたのだという事に気付いた。悔しさか恥ずかしさか嬉しさかそれらの全部に、とにかく股を疼かせられ、太腿どうしをこすり合わせた。

久し振りとは言っても一年ぶりであったし、まゆうはその一年の間中、一日に二回は「新菜オリヴィア」とネットで検索し新菜の顔写真や近況をしっかり見ていたのだった。

ほんの一年前まで、八年間ほど同じ学び舎を共にしていたのに、高校を卒業してからは連絡も減り、自分がただの一ファンになってしまったようで悔しかった。それもただの悔しさならまだ良いのだけど、憧れと、彼女が有名になって行く嬉しさと寂しさと、多分嫉妬などが混ざり合って、世にも複雑な悔しさなのだ。まゆうは、自分が新菜と小学五年生から友達だったことなどについて、彼女の公式ブログにコメントしたい気持ちを抑えるので頭も胸も一杯だった。とにかくまゆうは新菜について、厄介な感情を抱えっぱなしでいるのだ。




小学四年生まで、まゆうには二種類の友達が居た。一種類目は、放課後はお互いの家で遊び、漫画の貸し借りをし、学校の中休みや昼休みには自由帳にお絵描きをする友達。その子達と友達である事をあまり周囲に自慢出来ず、この種類の子達と居る方が落ち着いてしまう自分を、なぜだか嫌いになってしまうような子達である。

二種類目は、放課後は大抵四人以上で公園や、近所のショッピングセンター内のゲームセンターでプリクラを撮って遊んだりベンチで駄菓子を食べながらクラスメイトなどについてお話ししたりし、昼休みにも大勢でドロケイや色鬼で遊ぶ友達。所謂派手な友達だ。その中に入っている事で、クラスでは鼻高々だった。ただその種類の子達と横に並んで歩いていると、まゆうの両隣の子達が迫ってきてまゆうは後ろに弾かれてしまい、結局皆の後ろを一人でなんとなく歩く事が多くなってしまうのが悩みであった。



四年三組には、二種類目の子達がまゆうを合わせて五人いた。その中の一人の、瑞樹という下まつ毛の長い子に、まゆうは顔が可愛くなかったらうちらの中には入れなかったよね。と言われた事がある。まゆうはショックで、その日の給食の牛乳をなかなか飲みきれなかった。本当は可愛くないということに皆が気付いたらどうしよう、という不安に心を支配され、殆ど絶望しながらトイレで手を洗いつつ鏡を見つめた。隣では瑞樹が、水に流せるティッシュは本当に水に流れるか確認するために、ティッシュを三枚位無駄に流していた。まゆうはどうにか自分の可愛い所を見つけようとしたが、出来なかった。自分の眉毛が分からなかったし、目が分からなかった。顔は不自然に余白が目立つように見えるし角ばっていた。どうしよう。こんなに不細工だとは思っていなかった。たまに褒められる事もあるし、少しは可愛いだろうと思っていた。まゆうは、瑞樹がティッシュを水に流す隣で、人生で初めて絶望に打ちひしがれた。瑞樹の眉毛は真っ直ぐなのにどうして自分の眉毛はこんなに変な曲がり方をしているのか分からなかった。



それからというものの、まゆうは少しだけ卑屈になり、昼休みにも一種類目の子達と過ごす事が多くなった。その子達は寛容だった。顔が地味だと心も地味な子が多くなんとなく楽だった。


二種類目にもリーダー的存在が居た。シホちゃんだ。シホちゃんは大人っぽいということの象徴だった。二つ上のお姉さんが居て、お姉さんはすごく美人だ。まゆうはシホちゃんと話す時緊張して顔が赤くなりそうで不安だった。話せると嬉しかった。

瑞樹はシホちゃんと仲良しだ。まゆうは瑞樹と二年生から仲良しだった。瑞樹は男子と女子の人数を合わせて遊ぶ事と、まゆうと他の誰かとの三人組を作って一週間に一回まゆうかもう一人を仲間外れにするのが好きだ。


でもまゆうは仲間外れにされても仕方ないと思った。こんなにブスなんだから仕方ない。自分は瑞樹やシホちゃんの様に可愛くない。自分がブスだと思う度に胸が苦しくなって、首をおかしくするほど頭を振ってどこか高いところから飛び降りたいような気分になった。


そんな強い劣等感を抱えながらもそこそこ遊びには誘われて、授業の合間の五分休みにはトイレに一緒に行ったりした。帰りは瑞樹と帰るから、友達を続けてくれるのかもしれない。瑞樹と家が近くて良かったと思った。


そのまま春休みに入り、新学期を迎える事になった。












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