50〜蠱惑〜
白と黒の割れた仮面が地面に重なりあっている。
「それが素顔…」
黒のアリス、ノワールと同じ顔立ちの白と黒のローブの人物。しかし、違う点もあった。それは複数の亀裂、そこから枝分かれするようにひび割れの入った顔だった。
「亡霊とは言ったものね」
「貴方もその亡霊みたいなものじゃないの?幾重の時の始まりから宿り続けているのだから」
「亡霊じゃなくて盗人だったみたいね」
紫の少女は黒いローブの人物、ダークの持つ紫の紙、断編を見て言った。
「全て奪ったつもりだったんけど…」
白いローブの人物、スノウは残念がり、再び黒い紙の回転式拳銃を少女に向ける。
「この私から全てを奪う?それは無理ね。私の世界は一つではないもの」
少女は両手を引き上げるようにダークとスノウに向けて伸ばすと両方の人差し指を引く。するとダークとスノウの背後に刺さる二振りの刀が地面から引き抜かれ、宙を舞って少女の手に戻る。
「それより早く、貴方達には消えて欲しいのだけど」
少女の手に持つ刀が糸のように解れていく。
「でないとあの子に会えないじゃない」
ダークとスノウは回転式拳銃の引き金を引こうとするが動かずに紙片と化す。
「何を…」
「貴方達の力、この私に遣えないとでも」
ダークとスノウの身体の手足から次々と紙片となり、黒と白の紙片が入り交じって灰色の本へと昇華した。
「ふふふ…」
恍惚の表情を表す紫の少女は空中で静止する灰色の本に手を伸ばすと灰色の本の傍で光が弾ける。
「…糸を緩んだ隙をついたわけね」
少女はジト目で視線を遠方から弓を構えるアドナに向ける。
「消した方が良かったわね」
片手を空手で虚空を引き裂く。すると金属音と金属の撓む音が鳴る。
「ちっ防がれた」
クリューの剣の刃は地面に横たわる。
「折角のあの子との対面なのに」
少女は両手を爪が強く食い込むほどに握り締める。
「……くぅっぐぁぁあ」
クリューとアドナの身を縮め捩りながら苦しみ悶える。
そして、血が四散して地面を汚す。
「…おまたせ」
再び、灰色の本へ手を伸ばした。
灰色の本は勢いよく開く。
頁の継ぎ目から黒い染みが広がり、白い文字列が沸き上がる。
沸き上がる文字列は人の形を形成していき、広がる黒い染みと混ざり合う。
そして、灰色の髪、モノクロームのエプロンドレスを纏う瞼を綴じた少女と成る。
少女は銀の十字架に荊で磔にされていた。
「あぁ…ようやくこの時が…」
紫の少女は恍惚の表情でノワールを愛でる。
Chapter End




