48〜亡霊と筆者〜
「鏡が」
真っ黒な凹凸のない仮面と白いローブの人物は亀裂の入った鏡の前に立っていた。
「その鏡はもう使えんよ」
左目に十字架のレリーフの入った眼帯を着けた黒毛の短髪の少年が真っ黒な仮面の人物の背後に立っていた。
「ノウル・エッジ」
「黒の器…いや、灰色の亡霊、君のせいで改変を受け付けない者が存在しておるからな。早々に君には盤上から退場願おうか」
「断る、例えそれが世界の意思だとしても」
「まあ、そう言うだろうな」
ノウル・エッジは万年筆を懐から出した。
「それは今は遣えないはずだけど…」
黒い仮面の人物は黒い紙の回転式拳銃をノウル・エッジに向ける。
「ほう、それを知っていると言うことはあいつを知っているのか」
「あいつ?」
「青玉の髪に深紅の瞳の女だ」
「そう、彼女が…」
黒い仮面の人物は愁いだ声色で呟く。
「その様子だとあいつから聞いたわけではないようだが」
ノウル・エッジは左手で眼帯を押さえ、万年筆を構える。
「綴る、世界の理を」
ノウル・エッジは虚空を万年筆で走らせる。
「その眼で遣えるというのか」
黒い仮面の人物は黒い紙の回転式拳銃の引き金に指を乗せる。
虚空に文字は浮かび並び、文字は派生して広がる。
黒い仮面の人物は引き金に乗せた指に力を込めると回転式拳銃は軽い撃鉄を鳴らす。
軽い撃鉄と共に黒い紙が現れて虚空に派生する文字は黒い紙へと転写され、床にヒラリと舞い落ちる。
黒い仮面の人物は連続して黒い紙の回転式拳銃の引き金を引き続ける。それと共にヒラヒラと黒い紙が幾つも舞う。
「そろそろ終わりだ」
黒い仮面の人物の背後の亀裂の入っている鏡の亀裂がスゥーッと消え、文字列が鏡の奥へと向かって流れる。
黒い仮面の人物は背後の鏡に引き寄せられるのを感じる。そして、後方へと身体が傾くと視線を背後の鏡へと移す。
「…」
黒い紙の回転式拳銃を手からスルリと床に落ちると黒い仮面の人物の身体は大量の黒い紙に変わり、崩れながら鏡の中へと吸い込まれて消える。
「亡霊は安らかに眠れ」
鏡の文字列が消えて再び、鏡に亀裂が入る。
ノウル・エッジは足元には黒い装丁の本があり、その本は半分より後の頁と裏表紙がなかった。
その本を拾い上げると眼帯の縁から血が流れ出る。
「REPLICAでは亡霊相手でも儘ならんな…」
ノウル・エッジは指先で流れ出た血を拭い去る。
「しかし、これで断編は手に…」
「悪いけどそれをあなたに渡すわけにはいかないわね」
ノウル・エッジの床近くに落ちていた黒い紙の回転式拳銃が黒い烏へと変わり、ノウル・エッジの手から黒い本の断編を嘴で掠め取る。
本を啣えた烏は何の飾り気のない真っ白な凹凸のない仮面と黒いローブの人物の肩に止まる。
黒い烏の嘴から黒い本の断編を手に取ると黒い烏は黒い紙の回転式拳銃に戻り、ローブを滑り落ちるように白い仮面の人物の手に収まる。
「そちらから姿を現すとは探す手間が省けた」
いつの間にか黒い本の断編を持っていた手には白い紙の回転式拳銃が握られていた。
「これで亡霊は眠りに就くわけか」
白い仮面の人物は白と黒、左右に回転式拳銃を構えるとノウル・エッジは自らの眼帯を剥ぎ取った。
「今、此処で不完全な改変を完全なものに…」
ノウル・エッジは綴じていた左目をゆっくりと開く。
開かれた瞼の下は空虚な洞が世界を捉え、辺りは一瞬で文字列の嵐が巻き起こり、視界が零と化す。




