45〜紫のアリス〜
孤城の主は柩の中で目を覚ます。
紫の長髪を頭の上部で巻き貝の様に二つに纏めた少女が蓋の開いた柩から起き上がる。
「時が来たの…」
「そうみたいだね」
少女は一人二役するように言葉を交わす。
「誰か来たみたいだ」
少女は紫のドレスの裾を掴み、柩から外へと踏み出す。
「どうする?」
「向こうの出方次第かな」
「なら取りあえずは出迎えるとしようか」
少女は柩の安置されていた部屋から出ていった。
「此処がそうなの…?」
クリューは目の前に聳え立つ崖の上にある城を見上げて言う。
「だろう、東で孤城といえば此処ぐらいのものだ」
アドナとクリューの前には崖の壁面には鉄の城門があり、門の左右には石像が睨みを利かせている。
「明白にという感じのものだな」
二人は身構えながら門へと近付いていく。
すると門は長らく開いていなかった様子で重々しく開かれた。
「ようこそ?」
開かれた扉の中には紫の長髪を頭の上部で巻き貝の様に二つに纏めた少女が立っていた。
「なんで疑問符なの」
「何でだろう」
少女は戯けた様子で首を傾げる。
「なんだろうと城の中を探す手間が省けたわ」
「あなた達が見ているものが本物と言えればね」
紫の少女はスッと奥へと消えた。
「楽に終われると思ったんけど…」
クリューは溜め息をつくと剣の柄を掴み、一気に振り抜いた。すると門の左右の石像の首がずり落ちる。
「…そうはいかないか」
クリューは剣を鞘に納める。
「そうだな」
アドナとクリューは扉の中へと歩みを進めた。
「彼らは何しに来たのかな」
「さあ、でも、寝起きの運動に丁度いいか」
紫の長髪を頭の上部で巻き貝の様に二つに纏めた少女は孤城の玉座に座り、一人で言葉を交わす。
「でも、彼女らに見覚えはないが」
「あれから幾つか改変を経ているからかもね」
「しかし、やることは変わらないか」
紫の少女は両手の平を下に向けて宙に浮かべる。そして、手の平から紫の液体が糸のように流れ落ちる。
流れ落ちる糸のような液体は織物のように折り重なり、二振りの刀を形作っていく。
「そう、変わらない」
液体は途切れ、刀が形成された。
紫の少女は形成された刀の柄を掴み、鋒を起こして愛でるような視線で淡い紫色の刃紋が浮かぶ刀身を見る。
「相も変わらず、妖しい刀ね」
何の飾り気のない真っ白な凹凸のない仮面と黒いローブの人物が紫の少女の前に現れた。
「貴方、誰?」
「忘れたの?」
「知らない」
紫の少女は玉座より立ち上がると両手首を捻り、刀を逆手に持ち直して刀の峰が腕に添うように構える。
「困ったな、これじゃ…」
紙の回転式拳銃の銃口を紫の少女に向ける。
「…紙…思い出した」
「確か白の」
「良かったよ、思い出してくれて」
真っ白な仮面の人物は紙の回転式拳銃を仕舞う。
「それで御用は?」
「そろそろ目覚める時だと思って挨拶をしに来たの」
真っ白な仮面の人物は紫の少女に背を向ける。
「だから、用はもう済んだわ」
「そう…」
紫の少女は左の刀を振り上げて空を斬る。すると真っ白な仮面の人物は逆袈裟斬りの如く切り筋が走る。
だが、黒いローブだけが床にはらりと落ちて真っ白な仮面の人物の姿は消えていた。
「やっぱり」
「無理みたいだね」
「器は中身がある限り存在するって誰かが言ってたっけ」
紫の少女は一人、言葉を交わす。




