44〜鏡争〜
大きな鏡の前に立つ何の飾り気のない真っ黒な凹凸のない仮面と白いローブの人物がおり、鏡の中には金色の後ろ髪を二つ結びし、腰に輪のような鞘に納まった剣を携えた少女と胸元に十字のペンダントをした細身の背の高い男が頭を低くした状態でいた。
「変わりないようだな」
「何がですか?」
金色の後ろ髪を二つ結びし、腰に輪のような鞘に納まった剣を携えた少女、クリューは訊ねた。
「いや、なんでもない」
「此度はどのような?」
胸元に十字のペンダントをした細身の背の高い男、アドナが訊ねた。
「紫のアリスを盤上に」
「紫?見たことも聞いたこともないけど」
「たとえ改変した世界でもそろそろ姿を現す頃合い…アリスは東の孤城にいる…」
突然、鏡に亀裂が入り、普通の鏡に変わる。
「鏡が壊れた?あの方に何か」
アドナが亀裂の入った鏡に手を伸ばすと鏡は更に亀裂が広がり、ギザギザの歯を模した形になる。
アドナはすぐさま手を引くとギザギザの歯を模した鏡は噛み付くように飛び出した。
「こいつは…」
「何なの、この鏡」
クリューは腰の剣の柄を掴む、アドナは十字のペンダントを掴んで取り外すと掴んでいる手を前へと突き出した。
十字のペンダントの袂にもう一方の手を翳すと引き絞ると光の筋が現れる。
鏡はガチャガチャと割れる音を立てながら流れ出てくると徐々に形が定まっていく。
逆立つ鏡の欠片を纏う鏡狼となった。
「クリュー、来るぞ」
クリューは剣を少し引き出すとガチャガチャと立てていた音が止まる。
暫しの静寂。
アドナは引き絞っていた矢を放つ。しかし、鏡狼は尾を振るい、弾き飛ばす。
だが、その直後、鏡狼の尾が宙を舞い、欠片となって四散する。
クリューの傍らには鞭のような白刃の剣が地を這っていた。
鏡狼は低い唸り声を上げる。
再びアドナは十字のペンダントの手を翳して引き絞る。そして、更に引き絞ると光の弓が顕現する。
最大に引き絞ったのちに放つ。
放たれた矢は鏡狼の額を捉える。鏡狼は静止するとピシピシと音を立てた後、一気に欠片となって床に四散する。
「いったい何だったの?」
クリューの鞭のような白刃は自ら動くように鋒を鞘へと差し込み、その白刃を納める。
「考えるのは後だ、今は命に従って東の孤城向かうぞ」
アドナは十字のペンダントを元の位置に着けると四散した鏡の欠片に背を向けてその場から立ち去る。
クリューは黙ってアドナの後に続いて立ち去った。
二人が立ち去った後、床に散乱する鏡の欠片が床を撫でるように音を立てて、何処へともなく流れていく。




