29〜災厄の卵・生〜
エルヒムは教会を包み込んだ黒い球体を針葉樹の天辺近くの枝に座りながら眺めていた。
「これでアリスの処理は終わるだろうけど…」
エルヒムはそう言うと心の中で思った。
「ヴァイストしたザムザを止めるのっていつも大変なんだよね…」
そして、溜め息をつくとエルヒムは球体の縁に立つ、アリアとレギオスを見つけた。
「さてと、こっちも仕事しますかっ」
エルヒムは立ち上がり、飛び降りた。
球体の中では、赤黒い空間に変貌を遂げたザムザの姿があった。
身体は普通の人の形で火の粉が煌めく真紅の長髪と上半身裸にズボンの姿をしており、背中には黒光りする骨だけの腕が左右から三本ずつと最初に現れた一本の尻尾が生えていた。
「まったく…僕はこの姿は好きじゃないだけど、君達が悪いんだよ、君達が…」
ザムザは閉じていた瞼を開いた。
「…大人しく消えてくれないから」
「随分と勝手な言い分ね」
ノワールは講堂への入り口の陰から出ながら言った。その背後からノブレスも現れた。
ザムザは背中から生えている腕の手の平に火の玉が燈した。
「シスター、隙を見てノブレスと一緒に此処から」
「無駄だよ、僕を消さない限り誰も此処からは出られない」
「だったら倒して出るまで」
ノワールは手首から力を使い、艶やかな灰色の剣を作り出した。
剣は見た目は一つの刃に見えるが数ミリの隙間のある二層の剣になっている。
ザムザは背中から生えている手の平に燈る火の玉をノワールに向けて投げ放った。
ノワールは火の玉が届く前に剣で虚空を二回、斬ると火の玉はノワールの目の前で四散した。
「貴方の攻撃が私に触れることはない」
「その程度の火力を防いだくらいで調子に乗らないでほしいな」
再び火の玉を燈すと火の玉は強く燃え上がり、火柱を作り、剣の形を模した。
ザムザは炎の剣を後方に構えると剣から炎が放たれた。その瞬間にザムザの姿が消え、剣を構えるノワールの前に現れた。
そして、ザムザは六つの炎の剣を交えて振り抜きながらノワールの背後へと移動した。
「スィスフィアーク」
ザムザは骨だけの腕を翼のように広げた状態で動きを止めていた。
「だから、貴方が私に触れることは出来ない」
骨だけの腕が途中で綺麗に折れ落ち、炎の剣と共に焼き消えた。
「僕の………」
ザムザは項垂れると直ぐに顔を上げた。
「…なんてね」
背中に残された骨が砕け、炎が翼のように噴き出し、ザムザの身体は宙に舞った。
「へぇ〜その剣、面白いね」
「何のことかしら?」
「隠さなくても最初の一振りから見えてるよ」
「以外に目がいいのね、空気の流れでも見えてるのかしら?」
「へぇ〜アリスって以外にすごいんだ、僕の力の一端を見抜いちゃうなんて」
「いえ、私がすごいのよ」
「へぇ〜」
ザムザは冷めた声色で相槌をうった。
「冗談はさておき………続きを始めましょうか」
ノワールは剣を虚空を連続的に斬り付けた。
ザムザは空中で軽く身を捩り、僅かな動きで何かを躱すと背中の炎の翼が弾け散る。
ノワールは次第に身を翻しながら徐々に速度を上げ、剣を振るって行く。
「そろそろね」
ノワールは剣を振るいながら言うとザムザの右肩に一筋の浅い傷が入った。
「なっ…」
「残念ね」
ザムザの身体に傷が増えていく。
「こんなこと…」
背中の炎が弱まる。
「終わりにしましょう」
ノワールは剣の動きを止めると剣を片手で逆手に持ち替え、下方からザムザに向けて振り上げた。
「…僕がアリスなんかに…」
ザムザの身体の表面が煮え立つように沸々と亀裂が全身に現れ、劫火の炎が亀裂の隙間から噴き出して肉体は崩壊し、天井を炎に包んだ。




