表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色彩  作者: よろず
5/24

5

 灼けるような痛みが身体を這う。

 流れ出る命を、己で自覚した。

 降ってくるのは温かな涙。

 愛しい女が流す、悲しみの雫。


「茜…すまない。」


 閉じようとする瞼をなんとかこじ開けて、妻の顔を目に、記憶に焼き付ける。


「虎様!置いてゆかないで下さいまし!妾は、あなた様無しには生きてゆけませぬ!」


 止め処無く零れ落ちる雫へと、震える手を伸ばした。

 頬を包み込んだ手を茜が両手で掴む。


「私は、あなたと番えて、本に、幸せであった…ただ心残りは、茜、あなたを一人、残す事。影丸は、あなたを、狙っている。」

「あんな男!妾には指一本とて触れさせはせぬ!茜は、虎様の…あなた様の物にございます。」

「どうか…逃げ仰せておくれ…」

「あなた様を置いてはゆきませぬ。共に、お連れ下さいまし。」


 最後に焼き付いたのは、愛しい女の涙。

 耳にこびり付いて離れないのは、悲痛な泣き声。


「来世で、茜は必ず、あなた様をお探し致します。」


 薄れゆく意識の中、聞こえた言葉に答えたのは心の中。

 ーー来世では、幸せにしよう。愛しいあなたを。




 目を開けた先にあるのは、見慣れたアパートの天井。

 流れ落ちた涙が枕を濡らして、冷たい。


「来世…」


 何度も見た別れの場面。

 もし、遥自身が景虎の生まれ変わりだとするならば、茜はどこにいるのだろう。何度考えても、答えはでない。

 会いたい。だが会えない。

 生まれ変わりの可能性を考えてから、遥は茜を探し続けている。

 いるかもしれない。いないのかもしれない。

 真実は分からず、時ばかりが過ぎていく。

 街を歩けば、すれ違う女の顔を確認する。夏休みには、バイトで貯めた金で日本全国を渡り歩く。

 遥自身の姿形は、景虎の生き写しだ。だから茜もそうかもしれない。だが違うのかもしれない。

 期待と不安、恋慕と諦め。いろんな感情を抱えて、遥は毎日を過ごしていた。

 茜に会わなくてはいけない。探さなくてはいけない。どんどんと募る想いを持て余す。

 溜息を吐いて、コーヒーを淹れた。

 バイトも大学も無い日には、人が多くいそうな場所で時を過ごす。今日は新宿に向かおう。新しいショッピングモールが出来たのだと、裕貴が話していた事を思い出す。

 熱いブラックコーヒーを啜りながら考えていると、遥のスマホがメッセージの受信を知らせた。裕貴のようだ。


『今日さ、新宿にナンパしに行かねぇ?』


 こいつはいつもナンパだ、女だ、合コンだとそればかりだなと呆れて笑う。


『ナンパはしない。新宿は行く。』


 返信をして着替える為に立ち上がると、再びスマホが震えた。裕貴の返信はいつも早い。それが女の子を捕まえるコツなんだそうだ。

 待ち合わせの場所と時間が送られて来て、短く了承の返事を返す。

 今日こそ会えるだろうか。

 それともやはり、会えないのだろうか。

 着替える遥の頭に浮かぶのは、先程夢で見た、茜の泣き顔だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ