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色彩  作者: よろず
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 人質代わり。

 愛される可能性など欠片も考えずに嫁いだ先で、待っていたのは穏やかに微笑む男。

 そっと伸ばされ触れた手は、優しく温かだった。


「これは、あなたと同じ名の花。」

「小さな、白い花なのですね。」

「愛らしい花だ。根は薬にもなる。」

「染物に使われると、聞いた事がございます。」

「綺麗な色に、染まる。」


 ただただ優しい時。

 この男の子ならば産みたいとすら、思った。

 白と紅。

 悲しい光景と、温かな思い出の、色彩。




 目が覚めて最初に思ったのは、"遥に会いたい"だった。

 虎様の生まれ変わりである遥と再会した後でも、夢は続くようだ。昨日は風車をもらう夢だった。

 里香はベッドの上で身体を伸ばしてからスマホを手に取る。声を聞きたいと思ったが、朝からは迷惑だろうと思い、メッセージで我慢した。

 朝の仕度を整えながらスマホを離さない娘の姿に麻子は苦笑したが、特には咎めない。返信が届く度に嬉しそうに頬を緩める姿は、見ている方も幸せになる。


「帰り、遥さんと会ってくるね!」

「はいはい。良かったら夕飯お誘いしたら?」

「いいの?」

「いいわよ。ね、お父さん?」


 新聞を読んでいた隆は突然話題を振られ、狼狽えた。ここで否やを唱えたら娘に嫌われてしまうのではないかと考え、咳払いをして動揺を隠す。


「まぁ、いいんじゃないか?彼は一人暮らしなんだろう?」

「うん!会った時に聞いてみるね!」

「決まったらメール寄越しなさいよ。」

「うん!わかった!」


 幸せな光景の夢の時ですら、ここまで嬉しそうな里香の姿は拝めなかった。頬を紅潮させて、ずっとにこにこと笑っている。遥という男はそこまでの男なのかと、男親としては複雑ではあるが、娘の幸せは嬉しい。

 隆は麻子と顔を見合わせて苦笑を浮かべ、機嫌良く朝食を口に運ぶ娘を見守った。




 普段と変わらない学校生活を終えた里香と桃。ただ一つ違うのは、他のクラスメイト達にも指摘される程に里香の機嫌が良い事だった。

 帰りのホームルームを終えた里香がメッセージを送ると、遥は学校の近くの喫茶店で時間を潰していた事がわかった。共にいるらしい裕貴の事は、昼休みに貰ったメッセージで桃にも警告済みだ。


「なんで危険な男も来るのかなぁ?」

「桃、気に入られちゃったんじゃない?」

「えー、迷惑かも。」


 げんなりした表情の桃と連れ立って自転車を押して歩き、里香は遥がいる喫茶店に向かっていた。

 遥だけであれば桃は先に帰るつもりだったのだが、裕貴がいるとなると話は違う。下手に里香と別行動をして、一人の時に捕まるのが何より怖かった。


「ここまで嫌がってるんだから、流石に諦めてくれたら良いんだけど。桃は私が守るからね!」

「里香ちゃーん!ラブラブな時間、邪魔しちゃってごめんねぇ。」

「でも私、桃と遊べるのも嬉しい。」

「俺そんな毛嫌いされてんの?ショックだわー。」

「ひぃぃっ!出たっ!!」


 背後から裕貴が現れ、桃は飛び上がる程に驚いた。危うく腰が抜け掛けて、自転車に縋るように立つ。


「やっほー!てか、立花さん?そんな睨まないでよ。ただの悪いお兄さんですよ。」

「井上さん、大丈夫か?」

「「遥さん!」」


 女子高生二人に縋るように見られた遥は、苦笑する。昨日で裕貴はこの二人に嫌われてしまったようだ。女にとっては確かに悪いやつだが、ちょっと同情したくなる。


「なんで後ろからなんですか?」


 遥の登場で安心した里香が首を傾げて見せると、遥は大通りの向こう側を視線で示した。


「俺らはあっち歩いてたんだ。二人を見つけたから、信号渡って追い掛けた。」

「そうそう。危うくすれ違いの所を阻止した俺を褒めて欲しいな!」


 にやにや笑った裕貴が桃に手を伸ばそうとするのを、遥が手で制して止めた。


「カラオケでも行くかって相談してたけど、二人、行きたい場所ある?」

「遥さんと一緒なら、どこでも。あ、でも夕飯うちで食べませんか?両親が、良かったらって。」

「ご迷惑でないなら、お邪魔しようかな。それならカラオケ二時間くらいで解散するか。井上さんは?」

「私は危険な男から守ってもらえるならなんでも大丈夫です!」

「危険な男の魅力、教えてあげるのになぁ。」

「いりませんっ!!」

「裕貴…。」


 懲りない裕貴に頭を抱えつつ、四人は駅前のカラオケ店へと足を向けた。

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