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ベッドの上に服を広げ、里香は悩んでいた。
桃と裕貴も一緒とはいえ、明日は初デートというものに出掛けるのだ。桃と出掛けるよりも、洋服のコーディネートに気合いが入ってしまうのは仕方のない事だろう。
桃との電話の後、里香は緊張しながら遥に電話を掛けた。
シャワーを浴びていたらしい遥に出るのが遅れた事を詫びられたが、里香にとっては声が聞けるだけで天にも昇りそうな程嬉しいのだ。細かい事は気にならない。
明日の待ち合わせ場所と時間だけ決めて、遥が弘樹に連絡すると言い二回目の電話はすぐに終わった。その後また桃に連絡して待ち合わせの時間と場所を伝えてから里香は洋服を引っ張り出し、今なお悩んでいるのだ。
いつも出掛ける時はジーンズが多い為、あまり里香はスカートを持っていない。だが遥に可愛いと思われたいという乙女心もある。
「でもこれ、短過ぎるかなぁ…あざとい?」
里香が手にしているのは膝上丈の白いニットワンピ。去年可愛いと思って買ったのだが、一度着た時に色っぽ過ぎる気がして、結局それ以降は着ないまま一年が過ぎてしまった。
「どうしよー、遥さん、どんなのが好みなんだろ?茜は着物だったし…初デートに着物?……ないでしょ。」
ぶつぶつと独り言を呟きながら、箪笥やクローゼットから洋服を引っ張り出している為、里香の部屋は今やすごい状態になっている。
最終的に二つのコーデに絞り、里香は母親を呼びに階段を降りた。
「お母さん、お母さん!」
「なぁにー?」
「明日、初デートなの!洋服決めるの手伝って!」
「はいはーい。今行くわ。」
夕飯後、リビングのソファで隆とテレビを見ていた麻子は呼ばれて立ち上がる。
リビングのドアから顔だけ覗かせていた里香は、既に階段に向かっていた。
「初デート、か…」
切なげな呟きを零した隆に、リビングから出ようとしていた麻子が立ち止まり、振り返って笑う。
「いやねぇ、お父さん。年頃の娘を持つ親の通過儀礼よ。」
「まぁ、そうだよな…」
「さみしそうな顔しちゃって。今すぐ嫁に出る訳じゃないんだからねー。」
言いながら去って行く妻の背を見送って、隆は溜息を吐いて肩を落とした。
「そうなんだがな…」
複雑な父親の呟きを聞いた者は誰もおらず、リビングにはテレビからの笑い声が響くだけになった。
「ニットワンピが可愛いけど…明日どこ行くの?」
二階の自室で母親に洋服を見て貰い、里香は母親の質問に愕然とした。待ち合わせの時間と場所しか決めていない為に目的地を知らないのだ。
「そういえば知らない!」
「なら念の為こっちのショートパンツにしておいたら?歩き回ったりだったら困るでしょう?」
「そうだね。……うん!そうする!ありがとう、お母さん!」
やけにテンションが高く、ウキウキしている娘の様子に麻子は優しく笑う。明日着る服をハンガーに掛けている里香の後ろで、散らばった服を畳んで片付けてやった。
「運命って、あるのかしらね…」
麻子の呟きに、里香は振り向いて首を傾げる。そして麻子の前に正座して、畳む為に洋服を手に取りながら笑顔で頷いた。
「あるかも。だって、二人共夢を見てたんだよ?それで、会えちゃったんだもん。顔も、声も、夢と同じなの。これってすごいよね?」
「そうねぇ。今日はびっくりしたわ。里香が男の子二人も連れて来るんだもの。……お母さんはね、里香が幸せなら、それが一番よ。」
「……ありがと、お母さん。」
鼻の奥がツンとして、里香は麻子に擦り寄った。
畳み掛けの洋服は床に置き、麻子も娘を優しく抱き締める。
母親に優しく髪を梳かれながら、里香の心は幸福に満たされ温かかった。




