表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色彩  作者: よろず
1/24

1

戦国時代の描写がありますが、作者は詳しい知識を持っていません。

実在の武将とも全く関係ありません。

言葉遣いについてもフィクションとしてお楽しみ下さい。

 ふわり、ふわり、白い雪が舞い落ちる。

 泣き崩れる女の上。

 紅を流す男の上。

 ふわり、ふわり、雪は全てを埋め尽くす。




里香(りか)ー?そろそろ起きなさーい!」


 階下からの母の声で、里香は目を覚ました。

 ベッドの上で体を起こし、流れていた涙を拭う。

 よく見る夢の一場面。苦しくて、悲しくなるその夢。涙が溢れて止まらなくなる。


「今日は悲しいやつだ。」


 呟いた里香は膝に顔を埋めて、涙を布団に染み込ませた。

 物心ついた頃から二人の夢をよく見る。その夢で、里香は茜という女なのだ。茜が虎様と呼ぶ男といつも一緒にいて、最後に虎様は死んでしまう。今日はその、別れの場面だった。


「あー、もう、涙止まんない。」


 幸せな場面の時は良い。だけれど何度見ても、虎様が死ぬ夢は、胸が裂けてしまいそうに苦しくなる。

 ぐずぐずと鼻を啜って、里香は顔を洗う為に部屋を出た。未だハラハラと涙は流れているが、顔を洗えば治まるだろう。


「やだ、里香、またあの夢?」


 降りて来る足音を聞いた母親が台所から顔を出し、心配そうに眉根を寄せた。


「うー、死んじゃうやつだった。」


 母親に夢の話はしてある。

 幼い時から、目が覚めると泣き出して、しばらく泣きやまなくなる娘を心配した母親が聞き出したのだ。悲しい夢も、幸せな夢も、茜と虎様の夢を見る度に里香は母親に話した。


「顔洗ったら、目を冷やしなさい。」

「うー、そうするー。」


 鼻が詰まって"ん"が言い辛い。

 そんな娘の後ろ姿を眺めて、母親は台所に戻った。


「里香はまたあの夢か?」


 新聞から顔を上げた父親に、母親は頷いて苦く笑う。


「今日は悲しいやつだって。目が腫れちゃうわね。」


 そうだなと呟き、父親はコーヒーを啜る。

 不思議な夢を見る娘だが、特にそれ以外は普通と変わらない。

 朝涙が止まらなくなるのは困るし可哀想だとは思う。だが、幸せな夢の時は一日機嫌が良くなるのだ。悪い事ばかりではない為、里香の両親は夢の事を余り気にしないようにしている。

 この家では、見慣れた日常の風景の一部となっていた。



 顔を洗って身支度を整えれば、里香はもう夢の余韻は引き摺らない。少し目は腫れぼったくはあるが、いつもと同じ時間に家を出て、友人との待ち合わせ場所へと自転車を漕ぐ。


「里香ちゃん、おはよぅ!」

「おはよー、桃!」


 小柄でボブヘアーが似合う、可愛い系の女の子。

 桃とは小学生の頃からの付き合いだ。高校も同じ所へ通い、運良くクラスも一緒で、里香にとって一番仲の良い友人だ。親友と言っても過言ではない。


「今日さー、悲しいので、朝から私ブサ顔。」

「里香ちゃんは素が可愛いから、多少目が腫れても大丈夫だよぅ。」


 夢の話も、桃にはしている。

 二人は昨夜のドラマの話など、他愛のない会話をしながら学校へと自転車を走らせた。

 学校では席は離れているが、桃は鞄を席に置くと里香のもとへやって来る。そして、ホームルームまで会話をして時間を潰す。昼休みも放課後も二人は一緒だ。


立花(たちばな)さん、ちょっと良い?」


 いつもと変わらない学校での時間を終え、桃と帰ろうとした里香を見知らぬ男子生徒が呼び止める。

 自分では良くわかっていない里香だが、彼女は美人の部類に入る顔立ちをしていた。何もせずとも整った眉に長い睫毛。その睫毛が縁取る目も、くっきりとした二重で大きい。薄い唇は形が良く、清楚さを醸し出している。

 そんな彼女を想う男は少なくない。名前も顔も知らない男子生徒にこうして呼び出され、告白をされる事がよくあった。だが、里香の返事はいつも決まっている。


「ごめんなさい。お付き合いとか、興味無いです。」

「試しに、とかでもダメ?」

「ごめんなさい。」


 年頃なのだから、恋だとか付き合うだとかいう事に、里香も興味は有る。だけれどどうしても、こういう時には虎様の顔が浮かんで離れなくなるのだ。

 夢の中の男。

 会える訳の無い男が、何故か里香は恋しいと思う。

 彼に会えなければ自分は救われない。そんな焦燥感に襲われもする。


「またお断り?結構かっこ良かったのにぃ。」

「だって、知らない人だし。」

「まぁねー、里香ちゃんモテるのにね!」

「私はまだ、彼氏とかより桃と一緒にいる方が楽しい。」

「嬉しい事言ってくれるじゃん!このこのぉ!」


 桃と笑い合ってじゃれ合って、里香はまた、自転車を漕いで家路についた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ