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第7話

第7話


 アルスは順調に試合を勝ちあがり、あっという間にトーナメント表の王冠に近づきつつあった。さすが、伊達に十年もこの学校にいないだけのことはある。

「よう、勝ち抜いているじゃねぇか」

「お前こそ。さっきの試合見てたぜ」

 そういうアルスの顔には相変わらずだなと言わんばかりの微笑が浮かんでいた。ゲイルは「まぁな」と笑った。

「ところで次のお前の相手だけどよ…」

「うん?」

「ありゃあ、気をつけたほうがいいぞ」

「…強いのか?」

 アルスの顔がキュッと強張ったものになる。

「ああ、強敵だぜ」

 ゲイルはそう言って闘技場の観客席を指差した。下の位置からではよく見えないがゲイルの指した先には、女の子たちが数人輪になっていた。そして、その中心にいる背が低めの男。

「最近ではああいう男がもてるらしい。もはや三Kは意味を持たずにいるな」

 真剣な表情をしているゲイルとは逆にアルスはまたか、と小さくため息をつく。

 審判員が響きのある肉声で次の試合の対戦者、すなわちアルスと観客席にいる男の名を呼んだ。アルスはぶつぶつとぼやくゲイルに蹴りを入れてから闘技場の真ん中へと進み出た。

「準決勝戦!アルス・マディーン対〇〇〇!」

 審判員はアルスの対戦者の名前を読み上げたが、アルスには別段興味はなかった。今、考えていることはただ一つ。目の前の対戦者がどれほどの手並みかということだけだった。いでたちや試合に対する緊張感がそれほどないことから一年以上はここにいることが予想できる。

(少しは楽しめるかな?)

 アルスは剣の鞘に手をかけて試合の合図を待つ。

「開始!」

 審判員の声と旗を揚げる右腕を合図に両者が突進する。

 まずはかち合い合戦に持っていくのはアルスが初対面の相手と対戦するときに必ず使う手だ。互いにぶつかり合い、剣と剣との押し合いで対戦者との大体の力量差を測る。文章で書くと、屁理屈をこねているようにしか見えないが、実際アルスはこれをほとんど長年の経験で瞬時に、無意識で行っている。

(ふ〜ん…)

 アルスは押し合いながら、対戦者の顔をチラリと見る。流石に準決勝だけあって、今までの対戦者と少しは違うことを試合が始まってから数秒で判断した。

(これならどうだ)

 押し合いでの勝負の場合、いかにして身を引くかも大切な戦法の一つである。

「!!」

 対戦相手の男はアルスが不意に身を引いたことに驚き、前のめりになる。アルスの作戦は成功である。対戦相手の男はすぐに体勢を立て直すと、まっすぐにアルスに向かって突進してきた。

「やああああ!!」

 男にしては高めの声だな、と思いつつアルスは敵の突きをかわすとすかさず小手の上に一撃を浴びせた。

「つぅ!」

 男が小さなうめき声をあげる。相手がひるんだ一瞬の隙を逃さずアルスがもう一撃を加え、試合はアルスの勝利に終わった。対戦相手の後ろの観客席から悲鳴やらブーイングやらが聞こえたが、男は気にもとめずアルスに握手を求めた。

 試合を終え、ベンチに戻るとゲイルが上機嫌でアルスの肩を叩いてきた。

「さすがアルスだぜ。あんなモテモテ野郎に負けるわけがねぇやな」

「まぁな…」

 アルスはとりあえずゲイルにあわせておいた。

「そういや、次はお前も決勝だな」

「ゲイルは?」

「もちろん、俺も決勝だぜ。例年通り、俺とお前の対決だ」

「へ、もうあんな技は通用しないぜ」

 アルスはニヤリと口元を緩める。

「誰があんな技を使うかよ。今回はもっとすげえの用意してきたぜ。前みたいに正統派のバトルにはさせねぇぜ」

 ゲイルもいやらしく笑う。数秒間、お互いに不敵な笑みが沸き起こった。そして、再び審判員によって二人の名が呼ばれる。

「決勝戦!アルス・マディーン対ゲイル・ホーンラグ!試合開始!」

 タンッ!二人の少年が軽快に地面を蹴る。そのままぶつかり合いに持っていく……と思いきやゲイルの姿が突然消えた。

(真上か)

 アルスはそのまま走るスピードを落とさず、軽くジャンプをして方向転換をする。振り向きざまにゲイルの剣が振り下ろされてきたので、それを軽く受け止める。

「いつもどおりの戦法じゃないか?」

 審判員に聞こえないようにつぶやく。

「へ、これはいつものご挨拶よ。本番はここからだ」

 両者は一度身を引き、再び突進を仕掛ける。甲高い金属音が響き、剣と剣がかち合う。押し合いはそのまま続くかと思いきや、ゲイルが突然勢いよく身を引いた。しかし、ゲイルの常套手段であることだと知っているためアルスは特に体勢を崩すことなく次の攻撃に移った。再びかち合い、不意にゲイルがアルスの後ろに向かって「あっ!」と叫んだ。

「あれはなんだなんて古い戦法はもう通じな……いい!?」

 アルスの股間に恐ろしいほどの痛みが走った。「ま、まさか…」とアルスはゲイルの二本の足に注目する。右足がまっすぐアルスの股間に向かって伸びている。一応アーマーはつけているもののやはり効果は大きい。

「へへ、いい一撃だろ?このまま俺が引けばお前は…」

 ゲイルは嫌らしい笑みを浮かべながらあたかもかち合いから引き合いに持っていくかのように後ろに飛び退いた。まだ激痛が残っているアルスは剣がかち合うことによって得られていた支えを失くし、へなへなと情けなくその場にしゃがみこんでしまう。

「勝者、ゲイル・ホーンラグ!」

 何が起こったかを知らない審判員は地面に座り込んだアルスをあっさりと戦闘不能とみなして、勝者宣言をする。周りからの歓声が響く中、ゲイルはあたかもよく戦い抜いたアルスを助け起こすかのように手を差し伸べ、闘技場はさらに沸きあがった。


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