第2話
第2話
遥か南の大陸に位置するケティットという村に少女は住んでいた。
少女はここの朝が好きだった。
年中、春風のように柔らかく暖かい風を毎朝妹と浴びに行くのが少女の日課だった。
少女は胸いっぱいに風を吸い込む。隣にいる彼女の妹も同じように真似をする。
「ふぅ…」
少女はゆっくりと息を吐き、それから金色に光る太陽をまぶしそうに見つめた。
「今日も村が何事もなく平和でありますように」
少女は深呼吸をした後に、このお祈りを必ず行う。少し高くなっているこの丘から太陽を眺めると、太陽が村をいつも守ってくれているように見えるのだ。
「お姉ちゃん、そろそろ帰らないと学校に遅刻しちゃうよ」
彼女の妹が後ろから声をかけた。少女は名残惜しそうに太陽に背を向けると「じゃ、行こうか」と妹ににっこりと微笑んだ。
「よぉーし、家まで競争だからね!」
彼女の妹は元気よくそう言うなり、合図もなしに勝手に丘を駆け下っていった。
「ま、待ってよぉ!」
少女は既に陸のふもとの辺りまで走っている妹に追いつこうと、慌てて走り出すが、慌てていたせいで、前のめりになり盛大に転んでしまう。少女は運動が苦手なのである。それが、ただ走るだけのことであっても。
「いたたた……」
少女は痛む膝を押さえながら立ち上がった。丘のふもとでは妹が手を振って何かを叫んでいた。
「今行くよぉ!」
少女はそれだけ叫ぶと、再び転ばないように気をつけて丘をふもとまで駆け下っていくのだった。
少女の名前はミル。
ミルハープ・エレウスはケティット村に住んでいるおっとりとした少女で、気を抜けばいつも寝ているのではないかというくらいのほほんとしている。彼女は訳あって、村の学校に通わず隣町の魔道学校に通っている。そのため、この村の子供達が学校に行く時間よりもはるかに早くに家を出なければならないのだ。
家族がのんびりと朝食をとっているときでも、彼女は一人バタバタと家の一階と二階を往復している。
「いってきまーす!」
ミルは玄関から家族に向かって叫ぶと、清々しい太陽の下を馬車の停留所まで走っていく。別に遅刻をするというわけではないのだが、ミルは村の清々しい朝の中を散歩をするように走っていくのが好きだった。
サワサワサワサワ。
馬車の停留所にゆったりとした風が流れる。
(そういえば、エスパールはもう街についたのかな)