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第18話

「エスパール、これをお願いね」

 ミルはいつものように手紙の入った筒をエスパールの両足にしっかりと握らせると、その両手の中から彼を優しく空に放した。

「ミルさ〜ん、そろそろ出発しますよ」

 向こうでテントを片付けているラスレンに声をかけられ、ミルはエスパールが飛び去っていった空から目を離した。

「今日は少し予定を変更します」

 昨日の野営地から出発するなりラスレンは穏やかな笑みを浮かべながら言った。

「本来ならこのままアビを北に進みダーウェンに向かう森へと入っていくのですが、その途中のわき道に洞窟があるということなのでそこに向かいます」

「何か目的があるんですか?」

 ミルの問いにラスレンは「いいえ」と首を振った。

「ただ、そろそろ僕たちがケティットを旅立ってから一ヶ月が経ちます。貴方たちの冒険家としての力量も上がってきたのでここらで少し腕試しをしてみてはと思いましてね」

「腕試し……?」

「洞窟というのは冒険家にとっては基本的なダンジョンの一つです。その中は道が枝分かれしていたり仕掛けを解いたりとバリエーションが様々です。もちろん魔物も出てきます」

「そう言えば、これまでの旅で洞窟には入ったことがなかったね。冒険家といえば洞窟だと思っていたからさ」

「でも、とても面白そう」

「決まりですね。まぁ、お二人がもし嫌だと言っても縄をつけてでも行くつもりでしたがね」

「うひゃあ…」

「ラスレンって意外とそっちの属性の人だったんだねぇ」

 モアの一言にラスレンは「ご想像におまかせしますよ」とやはり優しい笑みを浮かべるだけだった。

 アビの北西、ネクシス大陸の最西端に、その洞窟はぽっかりと口を開いてミルとモアの到着を待っていた。

「明かりは……ないみたいだね」

「じゃあ、ランプを使おうか」

 ミルは袋からランプを取り出すと、炎の魔法で火をつけた。

「やっぱりこういう時に魔法を使えるのは便利だね」

「うん」

「じゃあ準備もできたし早速洞窟探検をして見ましょうか」

「「おー!!」」

 ミルとモアはやる気十分に右手を空に向かって振り上げた。

 ランプを持っているモアを先頭に三人は洞窟の奥へと入っていった。独特の湿っぽさと蝙蝠系の魔物が多いことはいかにも洞窟といった感じだ。しかし、ケティットから旅を始めて一ヶ月になるミルとモアにとってはもはやこの湿っぽさも、蝙蝠の羽音も気にならなかった。やがて三人は初めての分かれ道に遭遇する。

「道が分かれているね」

「どっちが正解なのかな?」

「私は右だと思うな」

「あたしは左だと思うー」

 二人の視線が後ろに立っているラスレンに向けられる。ラスレンはやっぱりと言わんばかりに両者からの視線を浴びた。

「僕はミルさんに賛同します。まずは右に行ってみましょう」

「やったぁ。ありがとうラスレンさん」

「ちぇ、ラスレンったらお姉ちゃんに弱いんだからさ」

 喜ぶミルとは逆にモアは可愛らしく頬を膨らませる。こういうアクシデントも女性二人と旅をする男の権限といえるだろう。

「もし右の道が分かれていても大丈夫ですよ。ちゃんとこの洞窟の道は記録してありますから」

 ラスレンは詩を書くときのノートを一ページ割いてそこに今まで通ってきた道を記していた。

 その後も三人は順調に洞窟探検を行い、洞窟に入って三、四時間もする頃には全ての道が記された一枚の洞窟の全体図が出来上がっていた。

「ここで行き止まりだね」

「これで通ってきた道は全てですね」

 ラスレンはノートに行き止まりを示す印を記入すると、ミルとモアにも確認のためにそのノートを見せた。

「な〜んか物足りなったなぁ」

 洞窟の出口に向かって進みながらモアがつまらなさそうにつぶやいた。

「どうして?」

「だってさ、洞窟といえばもっと宝箱とか置いてあって、つよ〜い敵がいたりするものだと思っていたから拍子抜けしちゃった」

「確かに一般に伝わっている洞窟のイメージはそうでしょうね。しかし、実際はこんな感じの洞窟が多いですよ。トラップとか分かれ道とかも全て自然にできたものです。宝箱が置いてある洞窟は大抵がこのような自然の洞窟に人が手を加えた所謂人工洞窟です」

「そうなんだぁ」

「天然の遺跡や洞窟はソグリアテス大陸に多く点在すると聞きますね。ネクシスはほとんどが人工洞窟です」

「あたし、一度でいいから宝箱を取ってみたかったなぁ…」

「いいじゃないモアちゃん。分かれ道やトラップはいっぱいあったんだから」

 なだめるようにミルは微笑んだ。

「まぁね。途中、ひどい目に遭ったからね」

「それもまた一つの思い出ですよ。いい経験になりましたね」

「……そうだね。今回はこれでもいいか」

 ようやくモアの気が晴れてきたところで洞窟の出口が見えてきた。外に出ると、空はすっかり星が輝く夜の世界に変わり果てていて、ミルとモアの目を奪った。

「明日も晴れだね、きっと」

 満天の星空を仰ぎながらミルは優しくささやくのだった。


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