第11話
第11話
「ようこそ旅の方。ここはモールの町ですよ」
町の入り口にいる町人に案内され、三人はすぐに宿屋に直行した。まだ、朝も早いのだが狼たちの襲撃もあり、ミルとモアの体力は限界に近づいていた。
「では、僕は町で情報収集をしてきますので、ゆっくり休んでいてください」
ラスレンはあれだけの闘いを繰り広げて一夜明けた後だというのに、ケロっとした表情で宿屋の一部屋にミルとモアを残して外に出て行った。
「「はぁ〜」」
ミルとモアは顔を見合わせるなり、ため息をついてベッドに寝転んだ。
「なんか、あたしたちが思っていたよりも厳しい道だね…」
「うん。足は痛いし、魔物さんがいっぱいいた…」
モールに来る道中も魔物との遭遇は絶えなかった。ラスレンによれば、太陽が出た瞬間が魔物にとっての朝であり、太陽が沈んだ瞬間が夜なのである。すなわち、日の出の瞬間に魔物はこの広い平原を徘徊する存在となるのである。
「ラスレンさんの奏でる曲で追い払ってはもらっているものの、やっぱりまだ慣れないな、戦いは…」
「あたしも。もう両腕が上がらないよ…」
「自分の実力を試すことがこんなにも大変なことだなんて思わなかったよ…」
「いやいや、これは別物でしょ。アル兄も手紙に書いてたけど、剣士同士の試合みたいなものがあるんだってよ。お姉ちゃんの学校にはないの?」
「ないよ。シュトレーン魔法学校はそんなに大きな学校じゃないから。仮に試合をしても負けちゃうよ」
「ふ〜ん…」
モアはなんとも微妙な返答をすると、そのまま寝返りを打った。
「私たちがいなくなって、お父さんたち探しているのかな…」
「と思うよ。ちょっと悪いことしたかな。せめて、手紙くらい残していけばよかったかも…」
「うん……急にいなくなると、寂しいな」
「うん…」
ミルとモアはしばらくベッドの上から窓の外を眺めていた。朝も早いせいか人通りはなく、店の準備をしている店主たちがちらほらと道を通るだけだった。二人しかいない宿屋の部屋はとても静かで、互いの息遣いだけが部屋に響くのみだった。
ミルはチラリとモアの顔を覗き見た。特に何かを考えているような顔ではないように見えたが、空を眺めているその瞳にはどこか物寂しげな感じがした。ふと、窓に移る自分の顔を見つめてみる。果たして自分も隣にいる妹と同じような感情を瞳に秘めているのだろうか。
(でも、私は決めたんだよ。自分でアル君を迎えに行くって)
そうだ。旅はまだ始まったばかり。草原を歩くことも、魔物と戦うことも全てが始まったばかりなのだ。泣き言をいうのはまだ早い。
「そうだよね、アル君…」