1.冷蔵庫にゆずシャーベット
1.冷蔵庫にゆずシャーベット
冷蔵庫にはいつも、ゆずシャーベットが入っていた。甘い物が苦手な彼も、それだけは好きだった。私はバニラ、彼はほろ苦いゆず。「溶けちゃうから早く!」と手を繋いで走ったコンビニからの帰り道。宝石箱のような星空を指差して、私は「ねえ、覚えてる?」と幼い頃に食べたアイスの話をした。「その話聞いたよ」と呆れつつも、彼は優しく相槌をうってくれた。
小さなソファの隣は、絶対譲れない私の指定席。暑がりな彼が「くっつくなよ」と言っても、私は「ヤダ」と舌を出した。「木のスプーン食べにくいのに」と我侭ばかりの私。横顔を見上げていると、すぐにアイスが滑り落ちる。キャミソールの胸元で、とろりと溶ける甘く白い滴。彼は笑いながら唇を寄せ、ペロリと舐め取ると「甘いな」と囁いた。眼鏡の奥で揺らめく瞳が、私にはなにより甘かった。
冷蔵庫のゆずシャーベットは、あの夏から減らない。
バニラアイスは、私の胸に落ちて張り付いたまま。
↓解説&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。
上記作品は『1P(400字)で物語を作る』という過酷な課題にチャレンジしたものです。タイトルは、某少女漫画タイトルからインスピレーションいただきました。『宝石箱』は、昔売ってた雪印のアイスです。バニラの中にキラキラの氷……衝撃的でした。物語そのものは「文字数制限の中でどれだけ“イチャイチャ”を盛り込めるか?」というのが目標でした。ラストの二文は、読者さまのご想像にお任せ……という形になってしまうことをお許しください。