悪夢夜~記憶からの災害~
悪夢夜の第五弾が登場!!
今回のストーリーは今までのよりも全く逆の方向です。
どう逆なのか?
それではごゆっくりお楽しみください。
「はぁ……」
俺は窓に腰かけ、外へ足をぶらぶらさせながらため息をついた。そんな俺の後ろから急に手が伸びてきて俺を抱き込む。俺は背筋がゾクッとし、危うく下へ落ちるところだった。ここは四階の教室。落ちたりしたら怪我だけでは済まなかっただろう。俺はそのまま教室の方へと持ってかれる。俺は尻もちをついて“ぐぅ”と唸った。お尻をさすっていると後ろから笑い声が聞こえる。俺は振り返り抱きついてきた奴に怒った。
「危ねぇな、何すんだよ!!」
そう言った途端俺は目を丸くした。そこにはコスプレをした奴がいたからだ。しかもこいつは男である。しかし、どういうことか女物のコスプレをしていた。短く言えば女装、そのまんまだ。俺はこいつのクネクネしだした姿を見て更に頭にきた。俺は殴りかかろうとするが周りに止められた。俺は仕方なく怒りをおさめ椅子に座る。
「ちょっと、フミちゃん。あたしがこんな可愛い姿してんのに、何も思わないの?」
「いい加減その呼び方やめろよ、惣輔。俺たちもう高校生だぜ?」
紹介が遅れたが、俺は舘向 史人。高校3年の成績優秀生徒だ……。と言うのは格好つけたかったための冗談で、ごくごく普通の生徒である。そして女装した奴は高校一の問題児、喜代原 惣輔。こう見えても成績は学年3位という優秀な奴なのだ。ある意味でも問題児だよな、こいつ。
俺とこいつとは幼稚園のころからの幼馴染。女の子っぽくて、すっげぇ可愛い奴だったんだが……。こうして馬鹿げたことをやっている仕草からは、当時の可愛らしさは全くない。まぁ、今でも顔は美系で可愛いのだが。
思い出にふけっている中それをぶち壊したのは、やはり惣輔だった。惣輔は覗き込むように俺の顔をじっと眺めている。俺は顔を赤くし、それから惣輔の頭をぶん殴った。気まずい空気が流れる。俺はこの空気が嫌で惣輔に話かける。
「そういやぁさ、最近地震多くね? 嫌になっちまうよなぁ」
俺は無理やり話題をそらしたので、内心ドキドキしていたが周りの反応は異常なし。しかし、沈黙が続く。どうしたのかと思っていると、上から何か透明なものが落ちた。俺は思わず見上げる。それは惣輔の涙だった。惣輔は泣いていたのだ。
「お、おい。なんだよ、俺なんかマズイことしたか?」
しかしいつの間にか周りには人がおらず、教室には女装した惣輔と俺とが残されていた。キョロキョロと見回すが、やはり人の姿はない。俺はゴクリと唾を飲む。惣輔が口を開いた。
「ううん、違うの。ちょっと昔のこと思い出しちゃって、ね」
俺は自分が情けなくなり、机に頭をたたきつけた。
昔の話をしよう。なぜ彼が泣いたのか、俺はなぜ机に頭をたたきつけたのか。
☆ ☆
中学二年の連休に惣輔と俺は観光名所へ紅葉を見に出かけていた。その観光名所は地元から徒歩、電車を含め片道三時間の所にあった。この時お互いの両親は用事があり、一緒にはいけなかった。それでも毎年行っている場所なので、“二人でも大丈夫だろう”ということになり、二人きりで出掛けたのだ。
この観光名所の近くには、40代の女性が住んでいた。赤の他人なのだが、毎年来ていることで可愛がってもらっていた。二人だけで来たことに女性は吃驚していたが、事情を話すとにっこりと笑い俺たちの頭を撫でた
その時だった。
急に地面が揺れて二人はよろけた。上から梯子が倒れてくる。女性の頭に直撃し、梯子は別の方向へ倒れる。俺たちは助かったが、女性がひどく頭をうち病院へ搬送された。ラジオの音が聞こえる。震度は4だそうだ。おかしい、震度4であの梯子が倒れてくるとは。震源地の情報を聞くと場所は地元だった。俺たちは青ざめて、何もできずにいた。というのも電車が運転を中止したからだ。
しかしそう時間はかからなかった。しばらくすると電車が運転を再開し、家へ帰る事が出来た。
まずは俺の家へ行きインターフォンを押す。通常通り、親がでてきた。俺はホッとする。そして惣輔の家に行く。インターフォンを押したが返事はなかった。後で分かったことなのだが惣輔の父は仕事場で、母は買い物の帰りに地震で被害にあったのだ。両親は死んではいないが、下半身不随という後遺症を患った。
女性は無事退院し、その時の様子を聞かせてくれた。梯子は足場の悪い所にあったため、バランスを崩し倒れてきたのだと言う。
☆ ☆
これが俺たちの封印していた過去だ。この事をひょっこりと出してしまった俺は実に情けなかった。
放課後、俺たちは部活へ行き。一緒に帰った。その道中、激しい揺れが俺たちを襲う。俺は咄嗟に惣輔をかばった。彼に覆いかぶさるように、俺は彼を抱きこむ。頭に強い衝撃が走った。足元でゴトンと音がする。見るとそれは角が血で赤く染まった石のブロックだった。俺は朦朧としながらも彼を離さなかった。今度は足に衝撃が走る。俺の膝のあたりに鉄のパイプがのっかったのだ。惣輔も悲鳴を上げた。おそらくパイプが重くて、彼の足にもダメージを与えたのだろう。彼は泣きながら俺にすがりつく。しばらくして揺れがおさまったが、周りに人の様子はなかった。俺たちはそこで気を失ってしまったようだ。
目を開けると、白い壁があった。体中に激痛が走る。
「痛ってぇ……。なんだよこれ」
俺がぼやくと右から聞き覚えのある声がした。
「フミちゃん? よかった、無事だったんだね」
俺は痛いのをこらえて声がした方を向く。そこには惣輔の顔があった。惣輔は涙目になりながら俺の手を握っていた。俺は手をバッと引くと、全身に激痛が走る。
「痛ってぇ!!」
そんなこんなでしばらく惣輔と会話していると、医師に呼ばれて診断を受けた。その結果は――――
二人とも下半身不随だった……。
だが、悪い気はしなかった。なぜなら彼も同じだから。“それでも生きてるからいいじゃないか”と俺は思った。そして俺たちは今、励まし合い、助けあいながら日常生活を送っている。これが仲間との絆なのかと俺は信じている。それは、彼も同じ思いなのだろうか。
いかがでしたか?
今回はホラーな感じは一切出てきませんね。
明るい感じなんで悪夢夜じゃないじゃないか!! 自分でもそう思っています。
ですが、深く考えてみると実際にありそうで怖い感じがしませんか?
感じ方は人それぞれですが、これはこれで一種の悪夢です。
それではまた他の小説でお会いしましょう。