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順調すぎは考えもの

 目の前の国王陛下が、あの婚約破棄が自分達の仕掛けた茶番だったと気づいていた。

 その事実をようやく認識して、引きつった表情のコンスタンスは言葉が紡げない。

 あれだけ入念に手回しして、準備をしたのに。今に至るまで誰も不審に思った様子もなかったのに。

 それに、このお方は気づいていたというのなら、何故黙っていたのか。

 最終的に婚約は、コンスタンスの父と、国王陛下からの許可を得て解消されている。

 知っていたというのに、解消を許した理由は一体。

 駆け巡る問いを口にするべく自分を叱咤し続けるコンスタンスを見つめるルーファスは、笑顔のままふと溜息吐いた。


「君たちは、実にうまくやった。……そう、うまくやりすぎた」


 コンスタンスは、思わず首を傾げてしまう。

 うまくやりすぎた、とはどういう事だろう。

 あの騒動にてトラヴィスとクレアを擁護するもの声はあっても、コンスタンスに非がないと主張するものは終ぞでなかった。誰も、疑いを抱いた様子はない。

 そう、慎重に慎重を重ねたはずだ。

混乱もすぐに収束していくよう配慮して。騒動で害を被るものが極力出ないように。

 思案していると、苦笑交じりの声が続きを紡いだ。


「混乱が最小限になるように配慮を重ねたのが仇になったね」

(そこが悪かった……?)


 思い切り怪訝な表情になってしまっている気がする。

 問いの眼差しを受けながら、ルーファスは肩を竦めて見せた。


「あれだけの騒ぎを起こしたなら、もっと混乱は長引くのが自然だし、あちこちに飛び火しているはずなのに。あっけないほどすぐに収まった。まるで、誰かが事前に根回ししていたとしか思えない速さで。実に分かりやすい茶番劇にしか見えなかった。」


 ああまで見事に手を回せるのはどれ程いるだろう、と呟く国王の言葉に、コンスタンスは愕然としてしまう。

 自分達の利害の為に起こす騒ぎだった。

 だから、迷惑をこうむる人間が少しでも少ないように、混乱が少しでも早く収束するようにと心を砕いた。

 まさかそれが、疑いを抱く糸口となってしまうなど思いもしなかった……。


「あと……トラヴィスには、もう少し演技指導をするべきだった。あれは、役者だったら解雇だね」

(あれでも、かなり頑張ったのです!)


 溜息と共に呟かれた言葉に、コンスタンスは内心で盛大に嘆いた。

 トラヴィスの演技は、最初それはもう酷いものだった。

 情に厚い彼は、嘘であっても親しい相手を悪し様に罵るのに気が引けて、完全に挙動不審だった。糾弾する役割のはずが、むしろされているようにしか見えない有様だった。

 疑いをもたれない為にと叱咤して練習を重ねてやっとあそこまでこぎつけたのだが、ルーファスの評点は実に厳しい。

 どうやら、この方には全てお見通しであるらしい。それならば、とコンスタンスは覚悟を決めて相手に向き合う。

 誤魔化したところで、まず無駄だ。他の人間ならまだ勝ち目はあるかもしれないが、相手が悪すぎる。

 それならあがいても意味がないと、コンスタンスは一つ息を飲んだ後、ルーファスへと問いかけた。


「それを咎める為に、わたくしをここへ?」

「いや、求婚しようと思って呼んだんだ」


 覚悟を決めて紡いだ問いに返った、全く予想だにしなかった、答えになっていると思われない言葉に、コンスタンスは目を見開いた。

 は? と思わず間抜けな声が出てしまったのは、この際仕方ないと思う。


(この方は、今何と言ったの?)


 眉を思い切り潜めて、怪訝そうな顔をして。困惑を少しも隠せないまま、コンスタンスはルーファスを凝視する。


「君に求婚する、と言った。私と結婚して、王妃となって欲しい」

「……どこをどうしたら、その言葉に結びつくのかが皆目見当がつきません」


 これほど麗しい男性、しかも尊き国王陛下からの求婚であれば、おとぎ話のようだと頬を染める状況なのかもしれない。

 だが、背景にある事情がそれを許さない。

 コンスタンスは、まさに今、過去に起こした茶番劇について追及され責を問われるようという状況だったのだ。

 そこから脈絡なく突然の求婚である。そうですか、と納得出来る訳もなく、勿論受け入れられる筈がない。


「本当はもう少し早くと思ったけれど、君がユールの塔に入ってしまったからね。出てくるのを待っていたんだ」


 魔法使いたちの本拠地である塔は、国王の力を以てしても介入しづらいという。

 玉座も祭壇も意味を為さない場所であれと、塔を統べる長が定めたからである。

 魔法使いを得体の知れない者として疎む国々も、何故かそれには逆らえない。

 故に、塔は政治的に空白とも中立とも言える立ち位置を得ていた。

 そして、コンスタンスは魔法使いとして独り立ちして、その塔から離れた。

 晴れがましい気持ちで迎えた日を、まさか虎視眈々と狙う相手がいるなど想像するはずもない。



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