究極の二択
薔薇窓から射しこむ光が美しい中、跪いた彼女は見てわかる程に蒼褪めていた。
言葉を奪う程に見事であるはずの天井画や壁画も、何も目に入らない。荘厳な空気の中、息をするのも苦しいと思うだけ。
心の中で、何度繰り返したか分からない。
何故、自分は今更此処に居るのか。
何故、自分は冷や汗を流して言葉を失っているのか……。
「さて、答えを聞こうか?」
恐る恐る見つめた目の前には、悠然と問いを投げかけてきた人が居る。
最上級の仕立ての衣装に身を包む非常に整った容姿をした男性であり、その顔には魅惑的な笑みがあった。
視線があえば、つい頬を赤らめてしまってもおかしくない程魅力的な方だ。実際、社交の場において令嬢たちが憧れの眼差しを向けながら熱のこもった吐息を零しているのを知っている。
容姿だけではなく、この男性の持つ地位もまた令嬢たちを魅了しているだろう。
男性は、国において最も尊い人間にのみ許された豪奢な椅子に腰を下ろしている。
そう、この男性は王国における最高権力者である……国王陛下なのだ。
だからこそ、何故は繰り返される。
跪く彼女は、本来であれば彼の目の前に姿を現わせる身ではない。それどころか、つい先日この王城にも、いや城がある都にすら足を踏み入れる権利すら失っている。
だって、彼女は『悪役令嬢』という不名誉な呼称と共に、追放された身の上だからだ。
だというのに、今、彼女は国王の前に跪いていた。
冷たい汗が、また一筋、二筋、背を伝っていく。
震える氷蒼色の眼差しが見つめる先にて、国王陛下は実に愉しそうに微笑んでいる。
けれど、彼女は気づいていた。
笑みの中にある翠色の瞳には、絶対逃さないという強い意思が宿っている事に。
国王は、ゆるく首を傾けて見せたかと思えば、重ねて問いかける。
「私と結婚して王妃になるか。それとも、皆で仲良くお仕置きされるか、選びなさい」
問う国王陛下の顔には、令嬢たちの心をつかんで離さない微笑み。
けれど、彼女にとってそれは恐ろしい捕食者の笑みに見えて仕方ない。
それを見ながら彼女は思う――何故、どうしてこうなったと。
脳裏を埋め尽くす、数えきれない『何故』に、彼女は蒼い顔で唇を震わせていた……。




