晴海音凪と日比谷透真②
※音凪と透真 中学生
とある養護施設の共有スペース。
一人黙々と勉強をする少女と、その様子を眺めている少年がいた。
「音凪」
「……どうしたの? 透真」
少年の呼びかけに、そっと顔を上げた少女は晴海音凪
今年、中学生になったばかりの女の子だ。
「髪、結んでやろうか?」
少年——日比谷透真は右手の髪ゴムを見せながら、少女に提案した。
彼も少女と同い年である。
彼は少女がさらさらとした髪を、何度も耳に掛け直していた様子が気になっていたようだ。
「あっ……」
少女は自分の髪を摘んだ。
「ふふっ、そうだね。結べばよかったね」
少女は僅かに頬を染めて、ふわっと笑う。
恥ずかし気な少女に、少年は僅かに目を逸らした。
少年は赤く染まった頬を隠すように、少女の後ろに立ち、その細く透明感のある髪に触れる。
(柔らかい……)
「痛かったら言えよな」
「うん」
少女のこめかみに親指をそっと当て、耳の裏をなぞるように髪を持ち上げる少年。
「……ふふっ」
「どうした?」
「くすぐったくて」
少女の言葉に、少年は僅かに肩を揺らし、動揺した。
「ご、ごめん」
「ううん」
少年は急いで、しかし丁寧に少女の髪を結いた。
少年が手を離すと、少女は振り返って
「ありがとう、透真」
うれしそうに微笑んだ。
「……おー」
少年は照れくさそうに短く応えると、ゆっくりと元の席に腰をかけようとした。そのとき——
「あー!
また透真と音凪がイチャイチャしてるー!」
穏やかな空間に、突如響いた声。
十歳くらいの少年が、二人を指差していた。
「っ…余計なこと言うな!」
腰をかけようとしていた透真は、からかう少年の元に駆け出す。
「ぎゃー! 透真が怒ったー!」
「待て!!」
少年は素早く逃げ出した。
透真もその後を追って、共有スペースから姿を消していった。
一人残された少女は、二人が消えた方向を見つめながら、ぽつり呟く。
「イチャイチャじゃないんだけどな……」
そして、何事もなかったかのように、再び黙々と勉強に取り掛かった。




