晴海音凪と日比谷透真①
※音凪と透真 高校生
とある日の授業間休みのこと。
少女が教科書や文房具を抱え、一人廊下を歩いていた。そんなとき。
「音凪!」
一人の少年が、少女——晴海音凪を呼んだ。
少女は呼びかけに足を止め、そっと振り向いた。
「あっ、透真」
小走りで駆け寄ってくるのは、同じ養護施設で暮らす少女の幼馴染——日比谷透真。
笑顔の少年に、少女も柔く微笑んだ。
「体育だったんだね。お疲れさま」
体操着姿でじんわり汗を滲ませる少年は、少女の言葉にこくりと頷いた。
「音凪はこれから移動教室?」
「そうなの。今日の科学は実験するんだって」
少女の言葉に少年は思い当たる節があったようで、
「ああ、あれか」
と記憶を巡らせながら呟いた。
「透真はもうしたんだ?」
「うん」
「そっか。……あ」
少女はふと思い出したように、声を漏らした。
「着替える時間なくなっちゃうね」
少女の言葉に、少年は少しだけ残念そうに眉を下げた。
「そうだな……結果、帰りに教えてな?」
「うん。またあとでね」
小さく手を振る少女に、少年も手を振りかえす。
そして再び小走りで、教室へと駆けて行った。
(体育のあとなのに、透真元気だなぁ……)
「ふふっ」
少女は小さくなっていく少年の背中を見つめ、静かに笑みをこぼした。
そしてゆっくりと、化学室へと向かいはじめた。




