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勇者の弟子  作者: ヤス
アヴァロンの試練

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99/152

99話、アヴァロンの試練30

アーサーとマーリンが岩山の洞窟に向かっている一方、


エドラたち団員は、ギルド『スカイホーク』総出の壮絶な死闘を繰り広げていた。


アヴァリスという名の海賊の長を前にエドラ達団員はボロボロになりながらも膝を折ってはいなかった。


仲間たちが繋いだ一筋の勝機―――。

魂を削るような咆哮と共に、エドラの光銃剣がアヴァリスの禍々しい右腕に深々と突き刺さる。

硬質な肉を割いた魔力で編まれた骨を断つ感触が手に伝わる。


「うおおおおおおっ!」


アヴァリスの絶叫が戦場に響き渡る。


右腕を完全に切断するまであとわずか数センチ。

勝負は決したかに見えた。

だが、その絶望の淵でアヴァリスの瞳に狂気じみた執念が宿る。


「俺は……不死身だあああああああっ!」


狂乱の叫びと共にアヴァリスは、懐に忍ばせていた「最後の手札」を解放した。

それはフリードから奪い取ったヘプタグラム――【通貨】を懐に忍ばせていた。


「なに?」


忍ばせていたヘプタグラムがエドラを肉薄し、眼前でヘプタグラムの光線に直撃する。


「しまっ……!」


かつての仲間の魔法が最悪の形で牙を剥く。


「ああ………………!!」


衝撃波が大気を激しく叩き、エドラの体は光銃剣ごとアヴァリスの間合いから無慈悲に引き剥がされた。


「「エドラ!」」


団員全員がエドラへ視線を向ける。

濛々(もうもう)と立ち込める砂塵の向こうで、エドラは血の混じった土を噛み締めて喘ぐように呼吸を繰り返していた。


「ハァ……ハァ……大丈夫だ!」


エドラは折れそうになる膝を叩き、震える手で光銃剣を杖代わりにして立ち上がった。

その瞳には未だ衰えぬ闘志が宿っている。


「これであいつも……終わりだ! 致命傷は確かに与えた!」


エドラは血を吐き出しながら勝利を確信したようにアヴァリスを見据えた。


確かに右腕の半分以上は断たれて魔力の奔流が傷口から制御を失って噴き出している。

常人であれば即死、魔王の残骸であっても再起不能の深手のはずだった。

悲痛な表情で絶叫するアヴァリス。


「あああああああああああああ」


だが、団員たちの表情が驚愕と忌まわしき予感に凍りつく。

右腕を斬り裂かれた斬撃と悪魔にとっての劇薬である、光魔法による激痛に悶え苦しんでいるはずのアヴァリスが一向に膝を突こうとしない。


「おい......まさか」


「まだ....なの」


アヴァリスは倒れるどころか、肉体が風船のように異様なまでに筋肉が膨らみ始めた。

メリメリと骨が軋み、徐々に筋肉が裂ける音を立てて肥大化していく。


それはもはや人の形を保ってはいなかった。

膨張する筋肉と噴き出す魔力が混ざり合い、アヴァリスを「個」という枠組みから逸脱した醜悪で強大な「異形」へと変貌させていく。


壮絶な死闘の中、魔王の右腕でエドラたちの魔法を【買い取り】 続けた結果、【買い取った】魔力の蓄積は臨界点を突破。

オーバーフローを起こした代償として「アヴァリス」という個の精神、そして意識はもはや消失の彼方にあった。


「せつ、絶望、絶望絶望絶望!せ、ぜゼゼぜ……ぜつ……ボぼボう……絶ぼう……絶望ぜつ望ぁあああああ!」


肥大化した肉塊から発せられるのはもはや強欲な海賊の船長アヴァリスの言葉ではない。

魔力の暴走によって知能が崩壊して原始的な情動のみを叫ぶ「魔王の残骸」………悪魔「マモン」そのものだった。


「ざザザ残ざン......ザん....が.....イ食ウ、残骸イイいィ.....食うククく、食ううううううううっ!」


今まで対峙してきた魔王の残骸たちは、いずれも理知的で狡猾な悪魔たちであった。

しかし、このマモンは違った。


そこにあるのは知略も策略もない。

ただひたすらに、目の前のすべてを喰らい尽くそうとする純粋で底なしの飢餓感と「魔王の残骸」を捕食する本能だけが残されていた。


「もう……勘弁してよ」


「うそ......そんなの.....」


凄まじい残骸事態の本能への執着、圧倒的なプレッシャーにアクアとエリーの心が折れる。


「もう、終わりだよ。あんなの、どうしようもない……」


サリーは逃げ切る気力を失い、その場で膝をつく。


「逃げなきゃ……いけないのに……腰が、立たない......っ」 


イスカは恐怖で震える。


「もう......誰も守れないのか....私は.......」


アリアは団員たち誰ひとり守れないという絶望に打ちひしがれる。


「もういっその事、殺してくれ」

「同感だな.....」

スノウやヴァイルもまた、死を受け入れるような虚脱状態に陥っていた。


(考えろ!この状況を打開する方法を、死ぬ気で絞り出せ!)


皆が折れかける中フリードは必死に策を模索するが、あまりの戦力差に思考が白濁する。

恐怖と絶望でスカイホークの士気が完全に瓦解しようとした。


――――たった一人の男を除いて。


『恐怖を知ることだ、エドラ』


『恐怖を知ることで初めて己の弱さと向き合える』


『自分が味わったその絶望を、エリーや仲間たちに絶対に味わわせない。そのために誰よりも早く前に立ち、道を切り開いていく………………それが勇者というものだ』


『お前にとって大事な者を救い、守り続けることそれこそが真の勇者の在り方だ』


かつて憧れていた男、アーサーがエドラに放った言葉がエドラを奮い立たせる。


「うおおおおおおおおおお!おっし!」


重苦しい絶望を切り裂くようにたった一人、エドラが叫んだ。


「来いよ!化け物!誰にも傷をつけさせやしない!俺が!俺が.......みんなを守るんだ!」


「エドラ、もう....無理だよ....」


絶望と恐怖の中、それでも無謀にも死地へと前に進もうとする幼馴染をサリーは涙を流し、彼を引き留める。


「大丈夫だ!サリー、皆を連れて出来るだけ遠くまで逃げてくれ!」


「ダメだよ.....エドラ....行かないで.....」


彼はもはや全身の穴という穴から血を流していた。

だがそれでもエドラは剣を再びその手に握り直した。


「例え魔力が空っぽになろうとも!四肢をもがれようとも!それでも俺は諦めねぇ!なぜなら、俺はアーサーを超えた勇者に!なるんだ!」


絶望の底で、ただ一人。

師でもあり、憧れの男でもあるアーサーの言葉を思い返し、ただひたすら己を鼓舞してエドラは「マモン」を見上げて不敵に牙を剥いた。


「うおおおおおおおお!」


「食う…クッ、ククっうぅッ! お前……絶……望……ゼッ、つボおおおおお!」


「食えるもんなら食ってみろ化け物!ただし、てめえの胃袋の中で、死ぬまで大暴れしてやるけどなぁぁぁ!」


エドラの咆哮が爆発する。

疲労と傷口で肉体はとっくに限界を超えており、動かすたびに筋肉が千切れるような悲鳴を上げていた。


しかし、彼は止まらない。

満身創集の身体を執念だけで駆動させて跳躍する。

マモンから伸びる脈動する肉塊の触手がエドラの腹部を正面から強打した。


「ガハッ――!」


肺の空気が強制的に押し出されて視界が真っ赤に染まる。


だが、エドラの足は止まらなかった。

吹き飛ばされそうになる身体を無理やり地面に縫い付けて一歩、また一歩と異形の間合いへ踏み込んでいく。


もはや、剣を振るうというよりも魂を叩きつけるような一撃。

ボロボロの身体でなお強大な悪魔と真っ向から渡り合うエドラの姿に団員たちは言葉を失い、戦慄した。


「無茶だ…………………あの体であの化け物を仕留められるはずがない……!」


「死ぬぞ!あいつ、あんな戦い方、長くは保たねえ…」


フリードとヴァイルが困惑の声を上げる。

彼らの目から見ても、エドラの命の灯火は今にも消え入りそうたった。


「……いいえ」


絶望に沈んでいたサリーか幼馴染のその横顔を凝視しながら分析した。


「精神がとっくに肉体の限界を超越している......」


触手が鋭く伸びてエドラの脳天に直撃する。


「......ああ……」


エドラの意識が途切れる。


(ダメだ、立て!耐えるんだ!途切れるな!)


なんとか意識を保とうとするエドラの眼前に二撃目の触手が迫っていた。


「エドラああああああ」


身体が動かせないサリーは叫んだ。


瞬間―――。


エドラかゆっくりと瞼を開けるとそこには触手がエドラの眼前で潰れていた。

よく見ると暖かい光の障壁がエドラを守っていたのだ。


「これは…….……」


サリー達の方にも強力な光の障壁が張られていた。


「.....英雄は遅れてやってくるってな」


声と共に洞窟の影からアーサーとマーリン姿を見せた。


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